秋庭商店(久が原)

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日常においしさの発見を届ける

秋庭商店といえば、ジョージアワインやスイスワインの充実した品揃えで知られている。しかし、実際に店を訪れると、ブルゴーニュやシャンパーニュなどのグランヴァンやフランスの地方ワイン、自然派ワインも豊富にあることに気づく。住宅街のワインショップらしく、1000円台のデイリーワインも“秋庭の定番”としてワイン箱に詰められている。

こうした品揃えは、店主の小日向清彦の「酒屋は食卓の延長にあるもの」との考えから。スーパー帰りに立ち寄る近所の常連を大切にし、実際の売れ筋ワインも、クラシックなフランスワインやデイリーワインだという。それでも、さまざまなワインを揃えているのは、90年代初頭からワインを扱ってきた歴史のなかで、魅力を持ったワインとの出会いがあったから。そのなかには、地方のテロワールを生かしたワインもあれば、ジョージアワインのように原点に立ち返ったワインもある。そうした発見の歴史が店の品揃えに反映されているのだ。

「いつもはクラシックなワインだけど、たまに違うのも飲んでみようかというときに、ジョージアやスイスのワインをおすすめしています」と小日向さん。ワインの魅力はバラエティの豊かさにある。産地やタイプは問わず、さまざまなおいしさと発見をくれるワインショップとなっている。

いいものを知っている人から買ってほしい

秋庭商店は、3代目の小日向清彦さんの祖父が創業し、その歴史は昭和初期にさかのぼる。当時は、現在の店舗から100mほど離れたところに店を構えていたそう。その後、昭和10年頃に現在の久が原駅前通りに移転し、昭和27年(1952年)に法人化。いまも月桂冠の看板があるように、当時は日本酒やビールを売る街の酒屋だった。ワインが品揃えの中心になったのは、小日向さんが店を受け継いだ90年代初頭から。

そもそも小日向さんがワインに出会ったのは、店を手伝い始めた大学時代。営業に来ていたサントリーのワインレディに誘われ、「サントリーフードビジネススクール」というワインスクールに通い始める。当時は五大シャトーでも5000円程度で買えた時代。ワインスクールや友人とのワイン会でも、当たり前のようにボルドーやブルゴーニュのグランヴァンを飲む機会が多かった。自身でも給料が出ると、エノテカ広尾本店で直輸入されたボルドーを買っていたという。ワインを知るには恵まれた時代で「最高のワインから覚えることができました」と振り返る。そして大学を卒業する頃、祖父が亡くなって秋庭商店を継いだこともあり、’94年にソムリエ資格を取り、本格的に店もワインショップ化していった。

当初こそ、“クオリティ追求型”だった小日向さんだが、次第に“地酒としてのワイン”の価値にも気づいたという。
「コルシカ島のワインは潮風の味が残っているし、冷涼な地域で造ったものは緊張感がある。クオリティ以外にその土地しか出せない味というのがおもしろいなと思いました」
その後も、ナチュラルワインやジョージアワインなど個性的なワインとの出会いも果たし、いろいろな側面からワインを楽しむ喜びを伝えてきた。しかし、こうしたワインの良さを紹介できるのは、ベースに「いいものを知っている」から成り立つと話す。若い頃にたくさんのグランヴァンを飲んできた経験があるだけに説得力があるが、それだけではないという。

「いいものは人から教わるんです。僕自身、ゴトー酒店の後藤(和夫)さんや勝山(晋作)さんやからワインを教えてもらってきました」
後藤和夫さんは、インポーターとしてシャンパーニュのサロンや、シモン・ビーズなどのワインを初めて日本に紹介した人物。小日向さんも自分でワインが選べない人に向けて、そうしたお手伝いをしたいと話す。

「例えば、ふるさと納税でカニが届く日はスーパーのワインじゃなくて、上質なワインを選んでほしい。そのときに農家さんが手作りで造ったワインを食卓に提案するのが、僕の務め。おいしいものが好きだけど、選べない人にとって、頼りになる存在でありたいですね」

1000種類ものワインを品揃え

秋庭商店は、1000種類ものワインが店内に並べられている。フランスのブルゴーニュやシャンパーニュといったクラシックなワインのほか、自然派ワインも多く扱われている。また、入口付近にジョージアワインとスイスワインの特設コーナーもあり、それぞれ30種類ほど揃えられている。店内に入ってすぐに目に入るコーナーには、季節のおすすめが並ぶ。時期によって、がらりと変わるので見逃せないエリアとなっている。1000円台の安旨ワインを探すのも、小日向さんの得意ワザ。本物を知っている人だからこそ探し出せる味わいだ。

ワインを選ぶときは、長年の付き合いのあるインポーターとのつながりを重視しているという。会社同士ひいては人同士の付き合いのなかで、味すじをわかってもらっているので、安心して任せられるとか。取材当日も、ワインの入った箱がいくつも届いていた。

店内のレイアウトをチェック

店内に入ると、まずスイスとジョージアワインがお出迎え。入って正面に季節のおすすめ商品がある。左奥の棚に各国のワインがあり、その前に1000円台の安旨ワインもワイン箱に詰められて並べられている。冷えたワインやチーズは、右奥の冷蔵ケースの中に入っている。

入口左手の一角に設けられたスイスワインのコーナー。スイスといえば、シャスラのイメージが強いが、赤ワインやスパークリングワインもおすすめだそう。

ジョージアワインコーナー。おもしろいラベルのワインが勢揃い。人気のオレンジワインもたくさんある。

おすすめはスイスワインとジョージアワイン

左)「レスパエ2017」ジャンルネ・ジャルマニエ ¥4,200    右)「チヌリ2019」フェザンツティアーズ ¥2,880

おすすめとして紹介してもらったのは、店でもフィーチャーされているスイスとジョージアのワイン。

「スイスのワインは、何といってもテロワールがすごい。フランスのジュラ山脈の東側がスイスのワイン産地ですが、標高の高いローヌ渓谷の急斜面の石灰質土壌に畑があります。そんな場所だから機械は入らないし、農薬だって使っていない。危険と隣り合わせでワインが造られています。

レスパエの品種はガメイですが、フランスのボージョレのように甘く平坦なイメージではなく、エレガントで緻密さのある味わい。緊張感のある雰囲気が楽しめるガメイです」

スイスのワインがテロワールなら、もう1つのジョージアは人柄のワインだという。

「ジョージアのワインは生産者の顔がパッと出てくるくらい人柄が出ています。ジョージアには2018年の夏に行き、フェザンツティアーズのジョン(・ワーデマン)にも会いました。彼は本当に温かい人。それがよく表れています。

ジョージアワインといえば、クヴェヴリ(甕)で醸したスキンコンタクトのオレンジワインが有名ですが、こちらはスキンコンタクトしてない白ワイン。飲みやすいけれど、ブドウのパワーを感じます。ジョージアの白ワインもぜひ飲んでみてほしいですね」

長年ワインを扱ってきた小日向さんが感じるテロワールと人柄のワインにある魅力をぜひ感じ取ってみよう。

週末の食品販売や季節のイベントをチェック

秋庭商店では、週末にチーズやお惣菜の販売が行われている。チーズは、岡山の吉田牧場から毎週土曜日の16時頃に入荷予定。モッツァレラやリコッタ、パルミジャーノ、コンテ、カチョカバロなどのラインナップから2、3種類届くようになっている。惣菜は、近隣のレストランから週替わりで届くので、SNSをチェックしてみよう。
季節ごとには、夏祭りやボージョレ・ヌーボーにあわせてワインイベントも開催されている。毎年恒例の年末年始セールでは、シャンパーニュやブルゴーニュのグランヴァンが正月祝い特価にて提供されている。1年分をまとめて購入する常連もいるほどお得なので、ぜひチェックしたい。

秋庭商店
大田区南久が原2-8-4
03-3750-3177
12:00〜21:00/月・木定休
Facebook:https://www.facebook.com/秋庭商店-791870954201963/
Twitter:@akibawine

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この記事を書いた人

編集長のアバター 編集長 ライター/ワインエキスパート

東京に暮らす40代のライター/ワインエキスパート。
雑誌や書籍、Webメディアを中心に執筆中です。さまざまなジャンルの記事を執筆していますが、食にまつわる仕事が多く、ワインの連載や記事執筆、広告制作も行っています。東京ワインショップガイドは2017年から運営をスタートしました。

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