アサヒヤワインセラー(江古田)

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時代を先取りしたスタイルでワインを提案

アサヒヤワインセラーは、その名のとおり店の奥に7坪のワインセラーがある。今でこそ、個室タイプの広いワインセラーを設えている店は珍しくないが、アサヒヤがワイン専門店としてリニューアルしワインセラーを構えたのは1997年。「赤ワインブーム」で、一般の人もワインを飲むようになったのは、その翌年という時期だ。セラーの目的は、熟成したワインのおいしさを知ってもらうため。当時からブルゴーニュなどの高級ワインだけでなく、手が届く価格帯のワインも熟成され、現在も2000年代初頭の飲み頃ワインが2000円台で販売されている。
週末の無料試飲会もアサヒヤの名物イベント。「味覚は人それぞれ。ワインを自分の舌で味わってから買ってほしい」との思いからスタートし、ワインを日常的に飲む人の裾野を広げてきた。
店内には、デイリーワインからプレミアムワインまでひととおりのワインが揃っているが、とりわけブルゴーニュやニュージーランドのピノ・ノワールが豊富。「ワインショップの品揃えは個性がないとつまらない」という主張も専門店としての信頼感を高めている。
アサヒヤワインセラーは、その歴史のなかで、時代の先をゆく提案をしかけてきた。その提案の蓄積が店主・阿出川雅丈さんにまかせれば間違いないという信頼関係を構築。さまざまな地域から足を運ぶファンも多いワインショップとなっている。
*無料試飲会は現在、お休み中です。

2つの出会いでワインの深みへ

店主の阿出川雅丈さん

店主の阿出川雅丈さんの足跡をたどると、家業に入ったのは1983年のこと。会社勤めを5、6年経験した後だった。当時の屋号は『旭屋』で、酒類販売免許を持つ食料品店に過ぎなかった。サントリーの営業担当から「これからはワイン」と教えられたことをきっかけに、『サントリーソムリエスクール』に入学し、ワインを学び始めた。この頃、スクール以外にも阿出川さんをワインの世界に導く大きな出会いがあった。それが、のちにシャトー・メルシャン「甲州きいろ香」の誕生に貢献したボルドー第二大学醸造学部の富永敬俊博士。新婚の富永夫妻のアパートが偶然にも旭屋の隣だったのだ。この頃の富永氏は北里大学薬学部で博士号の取得を目指しており、ワインに関わる研究を始めるのはもう少しあと。しかし、相当なワイン好きであることを知って興味を持っていたという。

「タカさん(富永氏)は『どんなワインを飲んでいるのだろう』と思っていましたが、うちに買い物に来ても買うのは缶ビールだけ。顔見知りにはなっても、店でワインの話をする機会はありませんでした。そんなある日、松屋銀座で『シャトー・ブラーヌ・カントナック』を見つけて、ふと富永さんの感想を聞きたいと思ったんです。それでアパートへ訪ねて行って『半分ほど飲んで感想を聞かせてもらえませんか』と頼むと、思いがけず『うちにあるボルドーと合わせて一緒に飲みましょう』と誘っていただけたんです。随分と失礼なお願いをしたと思いますが、おもしろいと思ってもらえたのでしょうか。それが親しくなるきっかけでした」

富永氏とワインの話をしたい、その切なる思いが通じたのだ。当時の富永氏は田崎真也氏や有坂芙美子氏も集うワインバー『タートヴァン』に通い詰め手伝いまでしていたほどワインの世界の住人だった。のみならず、自宅でもブラインドテイスティングをする探求者。ふたりは初めてワインを飲み交わした日こそ、奥様のビーフシチューで3本のボルドーを楽しんだものの、次第に真剣なブラインドテイスティングが中心に。ときにリンゴ酸や酢酸、乳酸をテイスティングすることもあったという。ワインの深みに導かれた阿出川さんは、85年には旭屋を酒類専門店にリニューアルし、88年にはソムリエ協会認定ワインアドバイザーを取得している。1990年に富永氏がボルドーへと旅立った後まもなく、阿出川さんにもう1つの大きな出会いがあった。現在、ニュージーランドでワイン造りをする『クスダ・ワインズ』の楠田浩之氏と兄で『アカデミー・デュ・ヴァン』講師の楠田卓也氏だ。これも楠田卓也氏が近所に住み、店を訪ねたのが縁。ワインのスペシャリスト達と親しくなったことも、ワインショップへの思いを強くする1つのきっかけとなり、専門店化を模索。97年に7坪のワインセラーを持つ『アサヒヤワインセラー』へとリニューアルを果たした。このリニューアルでは、店名につけてしまうほどセラーへの強いこだわりがあった。

「セラー内は18度に設定し、明るさや振動もなくしています。最もこだわったのは湿度。ドライアイス状の霧が噴出する空調を導入し、常に湿度70〜80%に保てるようにしました。これによってコルクが乾燥せず、ワインを立てたままでも、うまく熟成させることができます。当時はワインセラーに入って買い物する人などいない時代で、『セラーなんて作っても販売につながらない』と加盟していたチェーン店から却下されました。でも、絶対に実現させたかった。独自で店づくりをすることに決めました」

こうして新たな取り組みを進め、ワインセラーで手頃な熟成ワインを出したり、まだ珍しかった無料試飲会を企画したりして、宝探しや体験ができる店としてにぎわいを見せた。クスダ・ワインズとの繋がりもアサヒヤを1つ上のステージに押し上げる。今でこそ、クスダ・ワインズは日本人の海外での筆頭成功例となっているが、初ヴィンテージの2002年当時は無名でインポーター探しすら難航。それならとアサヒヤが輸入を引き受けた。初ヴィンテージの出来はワイン造りの将来を左右する重要なもの。そのため阿出川さんもニュージーランドでの収穫に参加。3月の収穫作業の手伝いは、2002年から10年ほど続けたそう。

「楠田さんには『食べながら収穫してね』と言われました。良いブドウを選抜するためですが、収穫の翌年には樽に入ったものを全部試飲させてもらえました。食べて試飲してを10年も続けると、継続の力がつき、大体どんなワインになるのか想像できるようになります。ワイナリーでも樽やクローンの違いなどさまざまな条件下でのテイスティングを経験させてもらい、非常に勉強になりました」

クスダ・ワインズといえば、ピノ・ノワールが『クスダピノ』として世界に名を轟かせるワイナリー。ニュージーランドでの10年に渡る質の高い収穫やテイスティング体験は、ピノ・ノワールをきわめることに繋がった。こうして世界のピノ・ノワールの確かな評価ができる店主として、業界からもお客様からも一目置かれる存在感が高まった。実際、店にはさまざまなタイプのピノ・ノワールが置かれている。

お客様から支持されたのは、阿出川さんの人柄もあるだろう。その道のベテランにも関わらず、誰にでも人当たりが柔らかく偉ぶるところが全くない。いつも楽しそうにワインの話をしながら選んでくれる。異国の地で命がけの研究をしていた富永氏が、帰国時に最も気兼ねなく会えるのが阿出川さんだったというエピソードも頷ける話。初心者にもワインマニアにも、懐深くワイン選びをしてくれる頼もしい存在だ。

ベテラン店主が見きわめた2500種のワイン

アサヒヤワインセラーには、世界各国のデイリーワインとセラーで寝かせた熟成ワインやプレミアムワインがバランスよく配置されている。店以外にも同じ広さの倉庫を所有し、その品揃えは2500アイテム、約6000本にものぼる。
デイリーワインのフロアにある産出国は多い順に、イタリア、フランス、スペイン。スパークリングやロゼのコーナーもある。基本的にワインを選ぶときは、おいしいと思ったものだけ。流行っているという理由だけで、自然派ワインや日本ワインを仕入れることはない。

奥のワインセラー。セラー内の環境については、今も最善が尽くされている。近年は、休日にオゾン発生器をまわして脱臭しているそう。

奥のワインセラーには、プレミアムワインや熟成されたワインが眠る。中でも多いのは、ブルゴーニュやニュージーランドのピノ・ノワール。ピュアなピノやスパイシーなピノ、熟成したピノ、香りに優れたピノなど、さまざまなタイプが揃っている。

店内のレイアウトをチェック


店は手前のフロアと奥のワインセラーに分かれている。手前のデイリーワインフロアには、日本ワインやスパークリングワインもある。

入って左側には日本ワインの棚があり、品揃えも豊富。8年前のドメーヌ・タカヒコとの出会いは衝撃を受けたといい、自園ブドウでワイン造りされることが多い北海道や長野のワインを中心に仕入れている。棚にあるのは、グレイスワインやファンキーシャトー 、リュードヴァン、ヤマザキワイナリー、ドメーヌ・コーセイなど、秀逸なワインばかり。リリース時期になると、ドメーヌ・タカヒコやイレンカなど小規模ワイナリーのワインも入荷する。

ワインセラーの商品は定期的に入れ替えられている。思わぬお宝を発掘する楽しみもある。

おすすめは注目ピノ・ノワールと熟成ワイン

左/ピノ・ノワール2017 イレンカ ¥3,750(税込) 右/シャトー・ド・シャンテグリーヴ2004 ¥2,838(税込)

おすすめとして紹介してもらったのは、アサヒヤ得意のピノ・ノワールと熟成ワイン。左は、北海道で造られた注目のピノ・ノワール。

「イレンカは今年の販売分で4ヴィンテージ目を迎える岩見沢のワイナリーです。初ヴィンテージの2015年を飲んだときにすごくおいしくて、思わず楠田卓也さんに電話。たまたま造り手の永井邦代さんが上京されてご一緒だとわかり、すぐに駆けつけて仕入れを取り付けました(笑)
イレンカのピノ・ノワールはピュアでエレガントで香りもいい。日本でもこんなピノ・ノワールができるんだと驚きました」

2本目はボルドーの飲み頃ワイン。
「当店では1本買っておいしかったら、まとめて仕入れています。こちらのボルドーは、杉や鉛筆の芯といった熟成したカベルネのニュアンスが出ていて、熟成の良さを知っている人にはたまらない味わいです。この値段で買えるのはとてもお得だと思います」

阿出川さんが見出した傑出のワインは試す価値がある。

通信販売でもアサヒヤをチェック

アサヒヤワインセラーでは、全国からもワインが買えるように楽天市場での通信販売が展開されている。直輸入のクスダ・ワインズやシューベルト・ワインズのワインもこちらから購入できる。週末の試飲会は、現在お休み中だが、コロナの状況が落ち着けば再開予定。新着情報やイベントの再開情報は、メルマガで配信されている。興味のある人はホームページから登録してみよう。
ホームページで探してほしいページがもう1つある。阿出川さんの親友で、富永敬俊氏が2000年から亡くなる2008年まで寄稿した「TAKAのボルドー便り」。研究者の視点からワイン造りやきいろ香への思いがいきいきとした筆致で描かれている。いまも色あせないワイン好き必読の内容だ。

アサヒヤワインセラー
練馬区旭丘1-56-2
03-3951-6020
13:00〜19:00/火・水定休
ホームページ:http://www.asahiya-wine.com
楽天市場:https://www.rakuten.co.jp/asahiya-wine/

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この記事を書いた人

編集長のアバター 編集長 ライター/ワインエキスパート

東京に暮らす40代のライター/ワインエキスパート。
雑誌や書籍、Webメディアを中心に執筆中です。さまざまなジャンルの記事を執筆していますが、食にまつわる仕事が多く、ワインの連載や記事執筆、広告制作も行っています。東京ワインショップガイドは2017年から運営をスタートしました。

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