市松屋(清澄白河)

目次

ワインのおいしさと楽しさを発見できるショップ

鮮やかな黄色の外観が印象的な「市松屋」。ここは、2017年に同じ深川エリアにある深川ワイナリーの直営店として開店した。黄色は深川ワイナリーのラベルにもある色合いだ。しかし、店内に入ると、ワインショップや食品店の枠にはまらない品揃えにおどろかされる。言ってみれば、色とりどりの品揃え。ワインの棚を見ると、特定の産地によらないワインが並び、どこか自由な雰囲気で造られたものの気配がする。食料品を見ても、国産ブランド豚からつくられる「Otis」のシャルキュトリー、グランメゾンでシェフを務めた五木田祐人さんが作る「ブーシェリートーキョー」のフレンチ惣菜、フランスを中心とした「トレフル」の輸入チーズなど、粒揃いの品々がショーケースにぎっしり。

こうしたセレクトのコンセプトを聞いたところ、「発酵をテーマにしたおいしいもの」。純粋にシンプルにおいしいを極めると、ワクワクするような品揃えになるのだ。しかも、店の中心にはカウンターがあって、角打ちや試食をきっかけに、体験してから購入できる。自分にとっての新しいおいしさを見つけられる店づくりとなっている。

日常の食卓においしい連鎖を届けたい

市松屋の小田祐規さんと白神百花さん。白神さんも年間にかなりの数のテイスティングをしているそう。

市松屋が現在のような品揃えに一新されたのは、2018年から。店内のセレクトや店づくりを任されているのは、小田祐規さん。学生時代、レストランのアルバイトを皮切りに、ワインバーや編集者、ライターの仕事を経験し、ワイン業界歴は30年近く。多角的な視野でワインにかかわり、飲食店とのつながりが深いからこそ「おいしいもの」という本質的な切り口での店づくりが実現できている。「ワイン選びの視点はさまざまですが、ワインは単純にもっとおいしいし、いろんな楽しみ方があるというのを知ってほしかった」と、そのねらいを話す。実際に店内のワインや食品はどんな基準でセレクトされているのだろうか?

「毎年、4000〜5000種類のワインを試飲しています。そのなかで巡りあうおいしいものの8、9割がオーガニック。それはワインだけではなく、食材や食品も同じで、ほとんどが無化調、極力無添加で作られたもの。そうしたものたちの方が自然とからだがおいしいと思うものが多いですね」

用途でいえば、日常の食卓に合う食中酒としてブレンドワインを多くセレクトしているという。
「ワインは品種毎のキャラクターが味わいに影響します。日本の家庭の食卓には複数の料理が並び、豚肉を使った生姜焼きもあれば、セロリを使ったサラダもある。いろんな食材や調味料が1つになっているのが当たり前です。そうした料理にワインを合わせやすくするためには、単一品種ではなく品種がブレンドされたワインのほうが打率が上がる。例えば白ワインのボルドーブレンドならソーヴィニヨン・ブランとセミヨンが入っているので、味わいの幅が広がる。ブレンドされている分、料理にあわせやすくなります」

こうした考えや知識は、実体験にもとづくもの。編集者やライター時代にさまざまなマリアージュ企画を行ったり、自身で食べ合わせてみた経験によってワインがセレクトされいる。それだけでなく、接客の提案にもしっかりと活かされている。

「お客様に信用されるには、おいしい体験をいかにしてもらうか。店で試飲や試食をしてもらうのはもちろん、店にある食品とワインの組み合わせたおいしい連鎖を提案しています。すると、次回は『今晩の餃子と合わせたいんだけど?』と相談される関係性がつくれる。そうしたコミュニケーションも大切にしています」
こうした店づくりにより、かつては近所に住む人が客層のメインだったが、現在は隅田川を超えて中央区や港区の都心からわざわざ訪れる人も少なくない。食卓においしさの連鎖という小さな幸せを届けてくれる貴重な店となっている。

約400種類のバラエティ豊かなワインを品揃え

店内には、さまざまな産地から約400種類のワインがセレクトされている。”おいしいもの”の基準にかなったオーガニックでナチュラルな造りのワインが多く、さまざまな品種がブレンドしたものも多い。産地別にこれといったかたよりはないが、イタリアやスペインなど、自然と食文化とともに発展した産地のワインが目立つという。
人気のオレンジワインやロゼワインも多いが、小田さんが提唱してすすめているのが「パステルワイン」という新ジャンル。

「ワインには、赤、白、ロゼ、オレンジと4つのジャンルがありますが、どれにも当てはまりにくいブレンドワインが存在しています。例えば、白ブドウと黒ブドウがごちゃ混ぜに植えられているのを一緒に仕込んだワインや、ロゼワインとオレンジワインをブレンドしたワインがそれに当たります。そうしたワインを市松屋でパステルワインと呼んでいます」

伝統的に混植混醸されたものもこれに当たる。パステルワインには、どんな味わいの特徴があるのだろうか?

「黒ブドウに白ブドウが加わると、黒ブドウだけで造ったワインよりも口あたりがソフトになって、キャラクターが増えていきます。さまざまな色が混ざると要素が増えて、懐が深くなる。飲み飽きしない味にもなります。そういうワインを造る生産者はジャンルにとらわれず、おいしいものを造ろういう気概があります。歴史的にも食文化とともに発展したキャンティやリオハはそうした造り。昔から経験としてわかっていたことなのかもしれません」
市松屋を訪れるとパステルワインを始め、味わいのイマジネーションが広がるワインを見つけることができるだろう。

店内のレイアウトをチェック

店内を入ると、おすすめワインがあって、その奥に角打ちができるカウンターがある。店の左側にワインの棚、右側に食品がメインの棚となっている。チーズやシャルキュトリがお目当ての人はレジの隣のショーケースをめざそう。

深川ワイナリーの現行ヴィンテージのワインはすべて揃う。市松屋オリジナルの酸化防止剤無添加のキュヴェやブック型のバックインボックスもある。

ショーケースのチーズやシャルキュトリーは、東京で手作りされたものや貴重な輸入品が並ぶ。実は入手困難な逸品も多い。購入して店内でワインとともに角打ちもできる。

ワインには1つ1つPOPがぶら下がっている。すべて小田さんがテイスティングしたオリジナルのコメントになっている。
ワイングラスは広口タイプを中心に用意。飲み口が広いほうが味が取りやすく、顔を動かさずワインの味わいに集中できるそうだ。

おすすめは、味に広がりのある2つのワイン

左/レ・ジャケール ラ・コロンビエール¥3,300(税込)、右/リュヌ・ブル バラジウ・デ・ヴォシエール¥4,070(税込)

おすすめとして紹介してもらったのは、白ワインとパステルワイン。左の白ワインは、フランス・ロワールのフロントンという産地のワイン。
「昔からさまざまな品種が植えられている産地で、そのうちの1つブイスレを復活させ、シュナンブランとソーヴィニヨンブランの混植を50%ずつで造られています。味わいが引き上がるタイプの軽やかなワインですが、サラッとやさしい質感です。そのため、幅広く食卓の食事に合います。特に、鳥の煮物やとりわさなどの刺身と合わせやすい。春にぴったりの味わいです」

さらに、もう1つはパステルワインから。日本に輸入されたものをほとんど買い占めたほどおすすめだという。
「ブドウがあまり収穫できなくて、白ブドウと黒ブドウの合計12品種をごちゃ混ぜに仕込んだパステルワインです。ビオディナミの生産者で、造りも変わっていて、醸造や熟成段階まで、一切手を加えない。味わいは、独自のエネルギー感が魅力で、まるでエナジードリンク。この夫婦にしか造れないワインで、世界に1本しかワインがなかったらこれを選ぶかもしれない、というくらいトリコになります」

独自のやさしい飲み心地のワインをぜひ味わってみてほしい。

カウンターの角打ちやイベントで店内を満喫

店内は、カウンターを利用していつでも角打ちが楽しめる。ワインは常時5種類(泡、白、赤、オレンジ、深川ワイナリー)のグラスワインとワンコインのバス待ちワインが用意され、土曜日はさらに5〜6種類プラスされる。本格的に角打ちしたい人は、店内のワインを抜栓料500円で楽しむことができる。ショーケースのおつまみも購入して出してもらうのもおすすめ。晴れた日には外の樽をテーブルにして飲んでみよう。またインポーターを招いて、、5〜6種類のワインが比較試飲できるイベントも月に1〜2回開催される。イベント情報はインスタグラムで更新されているので、チェックしておこう。

市松屋
江東区白河2-14-8
03-3641-9188
日〜木11:00〜21:00、金〜土11:00〜21:30/不定休
https://www.ichimatsuya.tokyo
Facebook:@ichimatsuya.tokyo
Instagram:@ichimatsuya

この記事が気に入ったら
いいね または フォローしてね!

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

編集長のアバター 編集長 ライター/ワインエキスパート

東京に暮らす40代のライター/ワインエキスパート。
雑誌や書籍、Webメディアを中心に執筆中です。さまざまなジャンルの記事を執筆していますが、食にまつわる仕事が多く、ワインの連載や記事執筆、広告制作も行っています。東京ワインショップガイドは2017年から運営をスタートしました。

コメント

コメントする

目次