BIRRA e VINO MASUYO(阿佐ヶ谷)

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ワインとクラフトビールのある、集える酒屋


自宅でも職場でもない居心地のよい場所は「サードプレイス」と呼ばれている。地域にそんな場所があれば、暮らしそのものに愛着がわいてくる。阿佐ヶ谷駅北口の松山通り商店街にある「BIRRA e VINO MASUYO」も、そんな思いでつくられた酒屋だ。

升要酒店という老舗酒屋がルーツの同店は、この地で育った姉と弟によって、2021年9月にリニューアルされた。姉はワインライターの塚本悦子さん、弟は元ビール会社勤務の塚本涼太さん。酒屋に生まれ、それぞれに専門分野を持って活躍していたが、涼太さんが商店街にあるこの場所の特性を活かして、こだわりのクラフトビールで商売したいという思いに、悦子さんもワインで参戦。クラフトビールとワインのセレクトショップとなった。

店内は、木をベースにした心地よい空間で、選ぶ楽しさを提供する品揃えとなっている。さらにカウンターやテーブル、縁側のような椅子があり、角打ちもできる。暮らしや食を大切にしたいと思ったときに、自然と地域の人たちが集えるようなスペースがあり、早くも阿佐ヶ谷に密着した酒屋となっている。

ワインとビールのプロがタッグ

BIRRA e VINO MASUYOは、ビール担当の塚本涼太さんとワイン担当の塚本悦子さんが店頭に立つ。升要酒店は、ふたりの祖父によって創業され、90年の歴史をもった酒屋だった。しかし、両親が高齢になったのを機に2016年に閉店した。当時はそれぞれビールとワインのプロではあったが、店を継ぐことは一切考えていなかったという。リニューアルのきっかけになったのは、涼太さんが大手ビール会社の勤務時代にクラフトビールの販売アイデアを考えていたことだった。

「クラフトビールのタップを置く場所として、うちの元酒屋を活用したらどうかと思ったんです。生活に密着した商店街の一角という場所に可能性を感じました」

当時は玉村豊男氏の著書で地域おこしを描いた『村の酒屋を復活させる 田沢ワイン村の挑戦』やサードプレイスが話題になっていた。そこへクラフトビールを掛け合わせたら、おもしろいのではとの思いがふくらむ。

さらに悦子さんにもワインの販売に対して思うところがあった。

「ワインはネットでも買えますが『今晩、飲みたい』となったときに近くで自分が欲しいワインを買える店がありませんでした。弟が扱いたかったのもこだわりのクラフトビール。扱いたいものの方向性が同じだったので、ビールとワインのセレクトショップをやろうという話になりました」

悦子さんは、会社員を経てワイン講師になり、現在は『ワイナート』などでの執筆やワインコーディネーターとして活躍。例年、一般愛好家とともにイタリアの生産者を訪れるワインツアーを実施している。店では、生産者の取材や国内外の試飲会や見本市での経験がワイン選びや接客に反映されている。取材した本人から生の情報とともに伝えられる経験は格別だろう。

こうした情報は、カウンターやテーブルでの角打ちでも披露される。
「先週末の角打ちは、ニューヨークをテーマにしました。ワインは飲み比べできるように数種類を並べ、ウェビナーを一緒に視聴したり、ニューヨークワインの冊子を使って解説しました。ワインスクールはよほど興味のある人でないと敷居が高いですが、こういう場所なら気軽に来れる。『ニューヨークでワインが造れるなんておもしろい』と興味を持ってくださる方もたくさんいました。家族用にはブルックリンのビールを買って帰る方もいて、ビールとワインの相乗効果もありました」

ふたりのねらい通り、ワインやビールを選べて、学べて、楽しめる店になっているようだ。

セレクトの基準は自分が飲みたいワインとビール

店内の品揃えは、ワイン200種類、ビール200種類。大型店にくらべれば多くはない品揃えだが、だからこそ1本1本が厳選されている。ワインのセレクト基準は「自分が飲みたいワイン」と悦子さん。

「取材で生産者を訪ねたり、試飲会で飲んだなかから納得したものだけを選んでいます。お客様に取材で出会った生産者の思いや畑の風景を伝えながら会話すると、興味を持ってくれます。それが私のやりたかったこと。実際には、夕飯の食事に合わせるワインを頼まれることが多いですが、それも飲んだことのあるものから、しっかりご提案させていただきます」

取材時も夕食に合わせてワインを選んでいただいたが、料理と品種のありきたりの組み合わせではなく、しっかりとワインの特徴を見きわめてすすめてくれた。

自分が飲みたいワインを選んだ結果、「偏ったワイン選びになっている」と笑う悦子さん。多いのは、食事に合うイタリアワインや自然な造りのワイン。イタリアでもトスカーナやピエモンテではなく、カラブリアが幅を利かせていたりする。1本1本に選んだ理由があることをしっかりと伝えてくれる品揃えだ。
ビールは入り口手前から、ヨーロッパ、日本、アメリカという順に並んでいる。ワイン同様に目移りするような品揃えだ。

「ヨーロッパは定番のイギリス、ドイツ、ベルギーを中心に北欧やフランスのものが揃っています。昔ながらの王道を味わいたいときにおすすめです。日本は北から南まで15くらいの都道府県を網羅していて、全て直接取引なので、状態は抜群です。アメリカはポートランドとオレゴンが中心です。地域密着で造られたセンスのいい面白いビールが多いので、ジャケ買いもいいですね」

堅苦しく考えず、見た目で選んでも良いと涼太さん。実際にも冷蔵ケースを行ったり来たりしながら、じっくり選ぶ人が多いそうだ。ワインもビールもまずはゆっくりとセラーをのぞいて、悩んだらふたりに相談してみよう。

レイアウトと楽しみ方をチェック


店内に入るとすぐに、右はワインセラー、左はビールの冷蔵ケースと分かれている。お目当てのものがある方へ行ってみよう。奥にカウンターや角打ちスペースがある。

ワインセラーのなかは、生産国や地域別ではなく、味わい別になっている。飲んでみたいタイプや気分でセレクトできる。

アメリカのビールは缶デザインがカラフルで、思わず手に取りたくなる。

カウンターでは、立ち飲みもできる。ワイン雑誌などが置かれているので、一人でも気兼ねなく時間が過ごせる。

角打ちが楽しめるテーブル席。ワインの有料試飲は50ml330円、100ml660円〜。角打ちは、ワインボトル+1000円、ビール小瓶+150円、大瓶+300円となっている。東向島「Otis」のサラミなど、手軽なおつまみも用意されている。

まるで縁側のような雰囲気のベンチチェアもある。

おすすめは、味わい際立つワインとビール

TENUTA DEL CONTE ビアンコ¥3,080 ロッソ¥4,180

ワインのおすすめは悦子さんがイタリアで見つけたもの。
「4年前、イタリアワインの見本市ヴィニタリーで飲んでとてもおいしくて、3年前にカラブリアを訪れたイタリアツアーでワイナリーにも足を運びました。カラブリアは唐辛子の産地でもあるため、全体的にスパイシーさがあるのが特徴です。こちらのワイナリーの造り手は女性で、繊細な感性を活かし、果実味やスパイス感を引き出しながら、とてもきれいに造られています。

白ワインも赤ワインも果実味豊かですが、酸もしっかりあって食事にぴったり。赤ワインはグリルした肉の家庭料理に合わせるのがおすすめです」

富士桜高原麦酒¥528、富士白鳥¥770、越乃米こしひかり仕込みビール¥572

ビールは、涼太さんがすすめる日本のクラフトビールの老舗コラボレーション品。
「真ん中のビールは、山梨の富士桜高原麦酒と新潟のスワンレイクビールがコラボしたもの。富士桜とスワンレイクのコラボなので、『富士白鳥』という名前のビールになっています。いずれも地ビールブームの1994年頃に誕生したブルワリーで、当時からレベルの高いビールを醸造。本場のビール造りをベースにしていながらチャレンジングな会社です。実力者どうしが造り出した味わいをぜひ試してみてください」

週末はテーマをもうけたイベントをチェック

BIRRA e VINO MASUYOでは、毎日有料試飲のワインが抜栓され、角打ちで提供されている。月に何度かは、テーマをもうけたワインとビールのイベントも開催中。テーマは産地や生産者などさまざま。有料試飲のワインやイベントは、S N Sで告知されている。ぜひ、フォローしておこう。

BIRRA e VINO MASUYO
杉並区阿佐ヶ谷北3-27-10
月〜金 14:00〜22:00、土日祝 11:00〜22:00
水、第2、3火定休
https://www.masuyo01.com/
Facebook:@BIRRAeVINOMASUYO
Instagram:@birraevino_masuyo

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この記事を書いた人

編集長のアバター 編集長 ライター/ワインエキスパート

東京に暮らす40代のライター/ワインエキスパート。
雑誌や書籍、Webメディアを中心に執筆中です。さまざまなジャンルの記事を執筆していますが、食にまつわる仕事が多く、ワインの連載や記事執筆、広告制作も行っています。東京ワインショップガイドは2017年から運営をスタートしました。

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