発掘しがいのあるイタリアワイン蔵
東京にはイタリアワインを得意とするワインショップがいくつかある。分けても三鷹という23区外にありながら、歴史、品揃え、品質管理、人脈において随一と称されるのが「やまもと酒店」山本芳久さんの存在。イタリアワインに対する熱量の高さで、その名が知られている。店では通信販売も行われているが、都内だけでなく全国からワインの注文があり、業界内でも兄貴分として慕う人は多い。
三鷹駅南口から延びる商店街沿いの店内を入ってみると、ワインと洋酒がずらりと並んでいるのはさすがの風情。だが、驚くべきはここではない。やまもと酒店の真骨頂は何といっても、らせん階段の下にあるワインセラー。ここはイタリア産を中心にお宝の山。あまりにラベルがきれいなため気づきにくいが、20〜30年前のヴィンテージもごろごろある。取材では、さらに奥にある倉庫(一般非公開)も訪ねてきたが、1FとB1Fの売場を両方合わせた広さの空間があり、そこにも数えきれないほどのワインが静かに眠っていた。
2020年6月からは、他のワインショップに先駆けてYouTubeチェンネルを開設するなど、新しさもある。歴史の長さにとどまらない底知れぬパワーを持ったワインショップだ。
30年続く、イタリアワイン愛
やまもと酒店にあるワインの品揃えは売場全体で8000種類、1万5000本。そのうち8割がイタリアワインとなっている。「気に入ったものを揃えた方が結果として売れる。そういう偏りが店の個性になるから」というのが山本さんの信条。その圧倒的な量のイタリアワインを前に、その愛を感じずにいられない。
山本さんがワインを扱い始めたのは、30年前。やまもと酒店の3代目に当たるが、早くに父を亡くし、20代の若さで店を継いだ。当時は酒類販売の規制緩和によりディスカウントストアが増え始めていた頃。店舗の建て替えを好機ととらえ、地下にセラーを設け、ワイン専門店化していった。そのときに、ぴったりはまったのがイタリアワインだった。
「僕は堅苦しいのが嫌い。イタリアワインはラフにも飲めるし、カッコつけることもできる。生産者はいい加減なところもあるけど基本はマエストロ。そこがイタリアに魅せられたところ。日本と同じ島国で、風土や素材を活かす食文化も似ている。そのスタンスもピンと来るものがあったんだろうね」
イタリアワインを好む人には、どこかイタリア人気質を感じる。山本さんもジーンズをさらりと穿きこなし、地元や家族、仲間を大切にしている。誰に対しても気取らない態度で、面倒見が良くて男気もあり、イタリアワインが似合うのだ。左は『リアルワインガイド 』。2002年の創刊2号からテイスターを務めている。右のJTB『ワールドガイド イタリア』ではイタリアワインの解説を務めた。
ワイン専門店になってからは、イタリアワインの在庫を増やし、セラーをパワーアップしていった。90年代後半になると、ワインブームやイタリアブームが到来。一般誌『DIME』に膨大なワインセラーを持つ店として紹介されたり、JTB『ワールドガイドイタリア』でイタリアワインの解説を務めたりした。また、業界の若手を集めて独自で勉強会を実施。イタリア・トスカーナ在住の“闘うワイン商”川頭義之氏とも出会う。その縁もあって2000年に初めてイタリアに渡ると、その真髄に間違いがなかったことがわかったと言う。
「それまでイタリアワインを飲んだ経験から、どんな風土で育ったかをお客さんに説明していたけど、現地に行ってみてそのワインと産地のイメージがぴったり合致した。生産者はマエストロだけど、いい加減さもあるところも含めてね。つまり風土だけじゃなくて、人も含めたテロワールに合点がいった。間違っていないと思えたことで、もっとイタリアワインが好きになっていったね」
心の中の理想郷が実在していたとわかれば、ますます熱が入るのもわかる。その後もイタリアへ何度も渡り、逆に生産者が来日したときは車で案内したこともあるそうで、関係性の深いワイナリーもいくつかある。そうしたイタリアへの熱量は1つ1つのワインを見極める力となっていく。実際、テイスターを務める『リアルワインガイド 』で15種類のイタリアワインを出されても、香りだけで銘柄がわかると言う。一方で、イタリアワインは消費者にとって多様な個性を持つ難しさがある。どうやってお客さまにすすめているのだろうか?
「イタリアは産地ごとに個性があるだけじゃなくて、人それぞれ違うことをやりたがる。その考えを踏まえて、できたもの1つ1つのワインの価値に対して、自分なりの定義を持って選んでいます。お客さんに対しては、コミュニケーションをとりながら、たくさんあるバリエーションをカテゴライズした中から、好みに近い商品を紹介しています」
産地の個性だけでなく人の個性も掛け算になるのがイタリアワイン。玉石混交にもなるが、30年かけて培った見極め力は伊達ではない。ワインを購入する際は、率直に好みや価格帯を伝えるのが正解だ。山本さんも「イタリアワインを難しく考える必要はない」と言う。
「イタリア人は食べること飲むことを日常として楽しむ天才。もう、血に染みついてる(笑)。僕らはワインというキーワードの中で楽しみを売ってるから、お客さんにも『これを食べるからこれを飲みたい』というのを見つけてほしい。そのお手伝いができればいいね」
ワインを上手に取り入れるには、楽しむこと。山本さんの羅針盤に従って、まずは自分の好みから多様な世界へ連れ出してもらおう。
丁寧な造りのワインを品揃え
店内の品揃えを見ると、1Fには各国のおすすめワインもあるが、特に地下セラーはイタリア産がほとんど。その次に多いのはスペイン産となっている。
ワインを選ぶときは、ブドウ畑から丁寧に造っている生産者を扱うようにしている。手を抜いてるものは味をみればわかるのだとか。逆にいえば、すべて味わいをわかった上で仕入れられている。トラットリア卸も多いため、中高価格帯だけではなく、低価格帯のものも揃っている。こうしたワインにしても、味と価格を見極めたうえで販売。「うちの看板で出す以上は責任を持っている」と山本さん。ワインショップとして信頼がおける言葉だ。ワインによっては、ワイナリーを訪ねた経験をもとに話を聞かせてもらえることもある。
また、インポーターに依頼して特別に輸入してもらっているものもあり、日本でここだけにしかないワインも。さらにはヴィンサントやパッシート等の「ヴィーノ・ドルチェ(甘口ワイン)」も揃っており、イタリアの食文化を余すこところなく伝えている。
イタリアの中では、特にトスカーナ州のワインが充実しており、思い入れのある古いヴィンテージのワインも発掘することができる。そうしたワインは、温度、湿度、暗さに配慮され、なるべくさわらないよう静置されており、保存状態がよくラベルもきれい。記念日や贈り物にも使いたいワインが並んでいる。
店内のレイアウトと楽しみ方をチェック
1Fは定番のデイリーワインや季節のおすすめワインのほか、洋酒や日本酒も売られている。らせん階段を降りたB1Fは巨大なワインセラーとなっている。らせん階段の前にはチェーンがかかっていることもあるが、「地下を見せてください」と一声かければOK。
地下ワインセラー。特別な日に飲みたいヴィンテージワインもあるが、3000円くらいのワインもある。一度のぞいてみてほしい。
グラッパの品揃えの豊富さは特筆ものだ。レジの右側の棚にある。
併設の「ショットバー・ストーリーズ」。グラスワインやショットの洋酒が飲める。他店の角打ちとは一線を画す本格的な造りだが、ノーチャージで通常のバーよりは気軽に通える。
*現在は、休業中です。
バースペースは、有料試飲などのイベント会場としても使われている。有料試飲は、おすすめワインを5〜10種類出す形式。コロナが落ち着けば、再開予定。
おすすめは繋がりの深いイタリアワイン
おすすめとして紹介してもらったのは、2本のイタリアワイン。いずれも繋がりの強いワイナリーのワインだとか。まず、左のレ・マッキオーレはスーパータスカンで知られるワイナリー。
「レ・マッキオーレとは家族ぐるみの付き合い。家族でイタリアに行ったときも、向こうが東京を訪れたときにも案内し合いました。当主だったエウジェニオが存命の頃にもらったサイン入りのワインもうちにはあります。
これまでパレオやスクーリオを飲んだことがある人はいるかもしれないけれど、レ・マッキオーレの真髄はメッソリオ。ボルゲリだからこそできるメルロの高級感を感じてもらいたい。ボルドーのグランヴァンを飲む人なら、ぜひ試して欲しいですね」
もう1本は、アブルッツォ州のワイナリー「フォッソ・コルノ」のワイン。
「トスカーナ・キャンティ地区の『サン・ファビアーノ・カルチナイア』の醸造責任者だったフランコ・カンパネッリがアブルッツォで造るワインです。オーナーのマルコ・ビスカルドと共にアブルッツォのワインをブドウ畑から根本的に見直し、本格的なクオリティワインを作り始めた注目すべき逸品。スーパーアブルッツォと言っていいかもしれない。
ゼレジモは、モンテプルチアーノに少しだけメルロが入っているワイン。目が詰まったシルキーな味わいで果実味に富んでいます。メルローの高貴さが複合的に入っているので、国際格式にも上がっていける可能性も。潜在能力を考えるとおもしろいワインです」
丁寧に造られたイタリアワインの良さが感じられる2本だ。
YouTubeチャンネルやイベントをチェック
やまもと酒店では、月に1回ショットバー・ストーリーズで、ワイン試飲会が開催されている。現在は休止中だが、コロナが落ち着いたら再開予定。それまでは、YouTubeでおすすめワイン情報や飲食店の店主との対談が公開されている。ワインを飲みつつ、ながら見するのにもおすすめのコンテンツ。ぜひ、チャンネル登録してチェックしよう。
やまもと酒店
三鷹市下連雀4-16-18
0422-43-5586
12:00〜19:00/木曜定休
https://www.yamasake.com/
YouTube:https://www.youtube.com/channel/UCe9prpX9mxc31KvuqUDUf9Q
Facebook:@mitakayamasake
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