ドメーヌ モン山中敦生さんを囲むワインセミナーに参加!

2020年春、北海道のドメーヌ モンで自園のピノ・グリを使った待望の「ドングリ」が初リリースされました。東京でも山中敦生さんを囲んだお披露目セミナー(主催:サクリスティア)があるというので参加してきました。ワイン造りの思いを知れただけでなく、ゆかりあるドメーヌ タカヒコと登醸造のワインも味わえた貴重な会の内容をレポートします。

目次

山中敦生さんって、どんな人?

ドメーヌ モンは、2016年設立にされた北海道・余市のピノ・グリにこだわった小さなワイナリーです。自園のブドウが成長するまでは、よそからブドウを買ってワインが造られていましたが、それも入手困難という人気ぶり。今回、初ドメーヌワインのお披露目にも惹かれましたが、飲めること自体が稀有で、生産者が説明してくれるというのも魅力でした。
会場の神楽坂・エスタシオンに足を運んでみると、一番乗り。受付で支払いをしているときに、後ろから声をかけてくる人がいると思ったら山中さん本人でした。実は、男性がいることは気づいていましたが、雑誌のイメージと違っていたので、山中さんではないと思っていたのです。
私が見た雑誌の紹介では、「プロスノーボーダーがワインの世界に転身」というようなもの。研修先が曽我貴彦さんのドメーヌタカヒコというのもあって、何となくアスリートのようなストイックで近寄りがたい人をイメージしていたのです。しかし実際の山中さんは、目尻を下げてはにかみながら、名刺を持ってご挨拶してくれる人。余市の話などしてみると、甘い声で丁寧に話をしてくれる優しい雰囲気を持った方でした。どうやら私が勝手に間違った像を作り上げていたようです。
帰宅してから、いろいろな記事を読んでみると、実際の山中さんはスノーボードのインストラクターとして北海道に移住され、収穫の手伝いをする中で農業をベースにした人生を模索。夏にレストランでソムリエとして働くうちにワインに魅せられ、農業とワインという生き方が1つになり、ワイン造りの道に入ったということでした。

北海道・余市がワイン生産に向く理由

当日、提供された4本。「ドングリ2018」ドメーヌ モン、「モンルージュ2018」ドメーヌ モン、「セツナウタ2018」登醸造、「ナナツモリ2017」ドメーヌ タカヒコ

セミナーは、ワインの産地である余市の話からスタート。余市は、北緯43℃に位置する冷涼なワイン産地です。日本ワインの一大産地なっているのは、良質なブドウを栽培するいくつかの条件に合致しているからと説明がありました。

・昼夜の寒暖差が大きく、かつ真夏でも昼間は30℃、夜は20℃を超える日が少なく、ブドウの光合成活動に良い
・急激に気温が下がる秋の北海道にあって、夏の海水温が残る日本海が近くにあるおかげで早霜の影響を受けにくい
・ブドウ樹は零下15℃を超えると枯れる恐れがあるが、ブドウ樹を覆う降雪量があるため、雪で保温される

ほかにもリンゴやさくらんぼで培った果樹栽培の歴史もあることが、「新規就農でもやっていける」との後押しになったそう。温暖化の影響もあって、日本ワインの産地は北海道、長野、山形に注目が集まっています。そのなかでも余市エリアの存在感が増していることを裏付ける説明でした。

コンセプトは、「日本らしいワイン」


続いて、ドメーヌモンがめざすワイン造りについて話がありました。コンセプトは、スバリ「日本らしいワイン」。
「日本は雨が多い土地です。カリフォルニアやチリのワインにくらべれば、味が薄いと感じられることもあります。しかし、その湿度のなかで育った野菜を食べている日本人には繊細な旨味を感じ取る舌があるはずです。それをワインとして表現し、日本の食文化に合うワインを造りたいと思います」。
こうした考え方は師匠のドメーヌタカヒコ曽我貴彦さんとも共通しています。湿度が繊細さを生み、だからこそ日本人の味覚にも食文化にもあう。ワインにとってボリュームやインパクトに欠ける「薄さ、水っぽさ」を「繊細さ」へと昇華させたいというのは、日本人に訴えかける感性です。世界的にも、強くて濃い味よりもナチュラルな味の方が関心が高いように思われるので、今後、求められる傾向にあるんじゃないかと思います。
この湿度ある風土は、栽培だけでなくワイン醸造するうえでも、日本らしい味わいを造る役割も果たしていると話は続きます。
「湿度が高いと微生物が動きやすくなります。ワイン醸造でいえば、欧米のように培養酵母を添加しなくても、野生酵母で自然発酵できるんです。そうしてできたワインは、絶対的に旨味がある。それを生かすためにろ過せずに仕上げています」
日本が発酵大国と言われるのは、湿度のある気候のおかげ。たくさんの微生物の働きが旨味を生むのでしょう。山中さんは、これを味方につけて旨味のあるワイン造りをしています。雨の多い気候は栽培のうえでは病気のリスクがありますが、醸造のうえでは旨味のあるワインが造れるメリットがあるんですね。ワインを造るときには、亜硫酸塩も加えていないそうで、長期熟成型をめざすというより、やさしい味を楽しんでほしいということでした。

「ドングリ2018」をテイスティング

ドングリ2018(ドメーヌモン)
自園の有機栽培ピノ・グリ100%
収穫後30日間全房にて野生酵母で自然発酵
無ろ過、無清澄、亜硫酸塩無添加
アルコール度数12%   瓶詰め 2020年1月14日

純露キャンディのような色でわかるように、醸してオレンジワインに仕立ててあります。飲んでみると、ワイナリーの樽蔵に入ったときのような香り。ふくよかで包み込むような温かさを感じますが、スーッとした透明感もあります。後味のタンニンに甘みと渋みがうまく溶け込んでいました。
途中、参加者から質問がありましたが、樽の香りは新樽を使っているからだそうです。それは意図したものではなく、新樽の方が入手しやすかったため。来年以降のヴィンテージからこの香りは段々と消えていってくれるとのことでした。
「理想とするワインは?」という質問には、「ドメーヌ タカヒコのナナツモリをピノ・グリのドングリで表現したい」とおっしゃっていました。
ナナツモリは、山中さんにとってかのロマネ・コンティよりも優れたワインだと思っているそう。師匠のことを心底から尊敬し、理想とされています。貴彦さんがピノ・ノワールしか植えていないのは有名ですが、山中さんもピノ・グリしか植えていないそうです。この理由としては、「師匠のワインは超えられないから、遺伝子的に近いピノ・グリで挑戦した」というようなことをおっしゃっていました。
ピノ・グリは、オレンジワインを造るうえで世界的な品種の1つ。オレンジワインやアンバーワインは、単独で市場ができつつあるように思います。それでナナツモリのようなワインができれば、世界にもアピールするものになりそうです。

余市の3つのワインもテイスティング

セツナウタ2018(登醸造)
自園ツヴァイゲルト100%
①すぐに搾汁(10%)
②除梗破砕して16日間漬け込み後に搾汁(10%)
③全房で40日間マセラシオンカルボニック(80%)
これらを混ぜた後、補糖・補酸なしで200ℓのステンレスタンクへ。野生酵母で11ヶ月の発酵
清澄剤なし、ろ過フィルター無しで2019年9月26、30日に瓶詰め後、5ヶ月の瓶内熟成
アルコール度数12.5%

登醸造のセツナウタは、ツヴァイゲルトをロゼにしたもの。データのとおり複雑な造り方をされています。こちらのワインは、各所から評判が高いですね。ロゼにしては濃い色合いに表れているように澄んだ赤ワインといった感じです。来年から②が50%になるということなので、より赤ワインに近づくそうです。

ちなみに登醸造は、小西農園としてほとんどのブドウをココファームに出しています。小西さんが育てたツヴァイゲルトの赤ワインが飲みたいという方は、ココファームの「こことあるシリーズ ツヴァイゲルト」で飲むことができます(ブレンドですが)。

モンルージュ2018(ドメーヌモン)
余市町産ツヴァイゲルト100%
収穫後約30日間、全房にて醸し発酵(野生酵母にて自然発酵)
木樽で12ヶ月間熟成
亜硫酸無添加 アルコール度数10.5%
瓶詰め 2020年1月15日

モンルージュは、余市の農家さんからブドウを買って基本的にはツヴァイゲルトで造られた赤ワイン。しかし、買いブドウとはいえ、かなり山中さんらしいエッセンスの加わった造りであることがわかりました。
「ツヴァイは潰しすぎるとインクっぽさが出るので、優しく果皮が浸かるくらいにしています。このワインは少量しか造っていないので、バルーンタイプのプレス機だと搾汁率が悪くなってくる。そのため、ピノ・ノワールの絞りかすも一緒に入れて搾っているので、その風味が出ていると思います」
そうなんです。これ飲んだとき、誰もが「え、ピノ・ノワールじゃない?」と思ったに違いありません。
ナナツモリを連想させる風味で、皆びっくりしていました。ただこれは、270本くらいしかない非売品。こうしたイベントのときや余市の焼鳥屋「がんがら」でしか飲めないそうです。次に余市に行ったときは、絶対に焼鳥屋へ行こうと思いました!

ナナツモリ2017(ドメーヌタカヒコ)
自園ピノ・ノワール100%
収穫後40日間全房にて自然発酵
12ヶ月木樽熟成
亜硫酸無添加 アルコール度数12%

山中さんの師匠のワインであり、めざすスタイルであるというドメーヌタカヒコのナナツモリ。ピノ・ノワールしか造っていない貴彦さんが造るドメーヌタカヒコのフラッグシップワインです。言うまでもなく、流石のおいしさでした。
山中さんによると、2017年からはドメーヌタカヒコのブドウ樹が大人になってきた頃。この春、リリースされた2018年は収量が半減した分、さらに良質なブドウだけで造られているので、かなりいいものになっているそう。もう売り切れていると思うので、買えた人はラッキーです。私もどこかの飲食店で探して飲みたいと思います。

さらっと書くつもりが、いつもどおり長くなってしまいました。山中さんと名刺交換もさせてもらったので、夏に余市に行けたらいいなと思います!

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この記事を書いた人

編集長のアバター 編集長 ライター/ワインエキスパート

東京に暮らす40代のライター/ワインエキスパート。
雑誌や書籍、Webメディアを中心に執筆中です。さまざまなジャンルの記事を執筆していますが、食にまつわる仕事が多く、ワインの連載や記事執筆、広告制作も行っています。東京ワインショップガイドは2017年から運営をスタートしました。

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