連載:ピノ・ノワールをつくる人 
ピノ・ノワールはワインを愛する人にとって特別な響きを持ちます。及びもつかない表現力で、飲む人をしなやかに魅了するワインは、どのように育み造られているのでしょうか?

第1回目は、北海道余市でピノ・ノワールを育てる木村農園の木村幸司さん。前編では、成功するまでの道のりを聞きました。後編では、そのおいしさの理由をクローズアップ。“木村ピノ”と呼ばれる豊かな風味はどこからきているのでしょうか?

木村農園

北海道余市町でブドウを育てる栽培農家。8.5haあるブドウ畑のうち5haがピノ・ノワール。そのほかはケルナー、シャルドネなど。千歳ワイナリー、ココ・ファーム・ワイナリー、10Rワイナリー、農楽蔵に醸造用ブドウを提供。かつては、ドメーヌ・タカヒコにも提供していた。

しっかりした酸を残すための畑仕事

余市の土壌は黒ボク土が多いものの、木村さんの畑から地質が変わり、砂混じりの粘土質で黄土色っぽい土なのだとか。雪で奥の方まで行けませんでしたが、樹齢10年くらいの木でも風格がありました。

《 聞き手 》東京ワインショップガイド編集長・岡本のぞみ

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編集長
木村さんといえば、ピノ・ノワールの名手です。“木村ピノ”を育てるために栽培で、工夫されているところはありますか?
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木村幸司
うちのピノ・ノワールは酸がしっかりしていると言われます。畑では他の生産者よりも垣根を高くして、葉を多めに置く取り組みをしています。通常、病気を予防するために房のまわりの葉を取る除葉作業をするんですけど、それをあまりしていません。
それがしっかりした酸につながっているんじゃないかと思います。
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編集長
葉を残すことが酸をキープしてくれることにるながるんですか?
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木村幸司
はい。除葉することで葉が減るからなのか、ブドウに直接光が当たるからなのかはわかりませんが、そうなると酸が落ちやすいイメージがあります。
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編集長
畑仕事の経験から、そう感じ取られたんですね。除葉は房のまわりの風通しをよくして病虫害を防ぐ目的があると思います。すると木村さんの畑は、風通しがいいんですか?
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木村幸司
はい。この辺りは日本海からの風が南北に吹き抜けます。夏は南風、冬は北風ですね。台風でも来ない限り東西に風は吹きません。ですから、南北に風が通るようにブドウの樹を植えてるんです。畑は北向きですが、南に遮るものがないので日当たりもいいですね。
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編集長
木村さんの畑は登地区でも奥の方にあって、ほんとに遮るものがなく日本海が見えます。畑も起伏が連続していて適度に斜面があっていい景色ですね。
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木村幸司
ええ。
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編集長
収量に関してはどうですか?
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木村幸司
だいたい10aで600キロくらいにしています。
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編集長
抑えているんですね。
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木村幸司
まともにやれば1トン獲れる力はあるんですけど、熟すのを待っているので。

収穫はブドウのタイミング。熟すまで待つ

ココ・ファーム・ワイナリー「こことあるシリーズ ピノ・ノワール2017」5,300円(税込み)
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編集長
収穫も遅くしていると。
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木村幸司
はい、熟度を高めるためになるべく収穫は待ちます。収穫は人間のタイミングじゃなく、ブドウのタイミング。去年の収穫の最終日は11月10日でした。
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編集長
えー、衝撃の遅さ‼︎
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木村幸司
何年かに一度ありますね。
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編集長
そんなに遅くて大丈夫なんですか?
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木村幸司
最後はココ・ファームさんでしたが、結構いいものができました。確かに余市でも収穫が11月に入るのは数軒ですね。
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編集長
それを可能にしているのは何ですか? 台風があまり来ないから?
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木村幸司
それもあります。でも半分は賭け
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編集長
賭け?!
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木村幸司
11月に入ると雪が降ることもあるので。でも去年はラッキーなことに雪も遅かった。
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編集長
病気は平気なんですか?
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木村幸司
それ以前に病気がついていればどんどん傷んできますが、寒くなってくると菌も育たないので。どちらかというと寒さとの戦い。
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編集長
どうですか、11月まで待ったブドウの味って?
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木村幸司
収穫のときは寒さで舌が麻痺してます(笑)
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編集長
ははは(笑)
遅摘みするとなると、ちょっと干しブドウっぽくなるんですか?
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木村幸司
いや、それはないですね。酸はちゃんと残ってます。
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編集長
フレッシュさがきちんとある。
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木村幸司
はい。日本って水が多い地域なので、その分、酸を活かしたものを作らないといけない。外国とは違う日本の味で勝負しなきゃいけない。酸をしっかり残すということが、香りにも繋がってくるんです。
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編集長
熟度と酸が両立し、香りも豊かだと。
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木村幸司
と、思ってます。
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編集長
最高じゃないですか!
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木村幸司
最高です(笑)

日本にしかないピノ・ノワールを

クリアなガーネットの色合い。立ち昇る優雅な香りが魅惑の世界に誘う。しっかりした酸が余韻までフレッシュな風味を持続させる。
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編集長
ブドウ栽培について、千歳ワイナリーさんやココ・ファームさんから要望があったり、共有していることはあるんですか?
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木村幸司
千歳さんは醸造家の青木さんが仕込みをしています。収穫が近くなると、青木さんもやってきて一緒に糖度を見たりして収穫日を決めています。
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編集長
信頼関係があるんですね。ココ・ファームさんはどうですか?
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木村幸司
ココ・ファームは、岩見沢で(10Rワイナリーの)ブルースが仕込んでいます。ブルース自身はフレッシュなブドウが好きな人なんですが、僕が遅く収穫した熟度の高いブドウも、それはそれとして評価する。自分の好きなものしか造らないって人じゃない。評価する目を持った方です。
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編集長
木村さんのブドウの個性を尊重されているんですね。
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木村幸司
ええ。
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編集長
このところ、余市でピノ・ノワールを育てる人も増えてきましたか?
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木村幸司
そうですね。面積でいうと、うちの次がドメーヌ・タカヒコの曽我さん。サッポロの弘津さん、北海道ワインの田崎さんも多いですね。隣のキャメルファームさんも増やしてきています。新規で入ってきた人もピノ・ノワールをメインに植えている人が多いですね。
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編集長
余市でピノ・ノワールという流れができている。
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木村幸司
そう。今まで無理だろうっていうのをうちが開拓し続けて。ここまで(のレベルに)持っていけるんだったらと増えていますね。
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編集長
第一人者として思うことはありますか?
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木村幸司
需要と供給のバランスが良くなったので、他の品種に変えてみようかとも思います。
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編集長
え!
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木村幸司
ずっと作ってみたいと思ってたのがあって……。
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編集長
何ですか?
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木村幸司
余市で増えてるツヴァイゲルトレーベです。赤品種の中では一番いいんじゃないかと思っています。
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編集長
余市に適していると言われていますね。でも、ちょっと驚きました(笑)
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木村幸司
なかなかピノしか作らせてもらえないんですけど(笑)
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編集長
木村さんといえば、ピノ・ノワールですからね。今後、目指すイメージはありますか?
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木村幸司
毎日畑に入ることが大切だと思っています。その中でも、もうちょっと熟度が高いといいなと思っています。
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編集長
理想としては・・・・・・?
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木村幸司
理想としては、日本で作るからこうなるっていうものにしていかなきゃいけない。外国のピノ・ノワールに追いつくじゃなくて。
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編集長
日本らしい、余市らしいピノ・ノワールですね。
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木村幸司
毎年、毎年、天候が違うので、それに合わせてどう動くかっていうのが通年の課題です。
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編集長
2019年のリリースがとても待ち遠しいです。
ありがとうございました!
木村さんお手製(!)の倉庫の前で。薄着してますが、2月の余市は寒かったです。
編集長のあとがき

初めて木村農園のピノ・ノワールを飲んだとき、驚いた記憶があります。乏しいワイン経験から「どこかわからないけど外国のピノ・ノワール……?」と思ったほどです。いま思えば、どこでもないこの日本の新しいピノ・ノワールの可能性を感じさせるものでした。
“木村ピノ”は、まず複雑な香りと伸びやかで深みのある果実味に引かれます。しかし、余韻を味わう段になって、酸味を感じ、すべてが豊かな酸に支えされていることに気づくのです。
今回、栽培の工夫として収量制限や熟す限界まで待つこと、そして葉を残して酸をキープすることをあげてくれました。湿度のある日本で、できるだけ多くの酸と果実味をたくわえた最高のブドウを送り出したい、そんな思いがうかがえます。
なかでも、葉を残すことは栽培のセオリーどおりではありません。一番大切なこととして「毎日、畑に入ること」をあげていたように、こうしたポイントはほかにも細かくあるのでしょう。
父子二代で培ったブドウの樹には、匠の手がたくさん入っています。これからも、そうしたベテランの目と技術で日本最高級樹齢のピノ・ノワールの可能性を追求してほしいものです。
それにしても、ツヴァイゲルトレーベも育てたい、という栽培家らしい意欲に驚きました!

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10Rワイナリー「上幌ワイン 木村農園」、農楽蔵は生産本数が限られています。