2024年日本ワインの動向を聞く! 【後編】日本ワインの課題と大手・中堅・小規模個人ワイナリーの注目ワイン

近年、日本ワインはブームといえる状況にあります。ザ・セラー虎ノ門本店は、”カーヴ・ド・リラックス”の名だった2002年からいち早く日本ワインを取り扱い始めたワインショップです。今回は、日本ワインの発掘や販売に尽力する立場から、2024年の日本ワインの注目すべき動きを同店の統括マネージャー・人見裕介さんに話を聞きました。前半ではこの20年の日本ワインの歴史を振り返りましたが、後編では日本ワインブームが落ち着いた2024年の現在の日本ワインの動向を探っていきます。

Profile
人見裕介
(株)カーヴ・ド・リラックス統括マネージャー/2005年、カーヴ・ド・リラックスに入社。日本ワイン担当バイヤーを経て、統括マネージャーに。現在はザ・セラーの全店舗をマネジメントしながら、日本ワインを盛り上げる活動も引き続き行っている。
https://www.cavederelax.com/blogs/staff-introduction

目次

ブームから文化へ。日本ワインは売れ筋No.1?

日本ワインエリア

――日本ワインブームが落ち着いて来た頃かと思います。2023年10月にカーヴ・ド・リラックスをザ・セラー虎ノ門本店にリニューアルして、日本ワインの売れ行きはどうですか?

リニューアル後、日本ワインは150種類から300種類に大幅に増やしました。全体のワインも改装前に比べて倍近い2,500種類の品揃えになったのですが、実は本数ベースで一番売れているのは、日本ワインです。なかでも2,000円くらいのデイリーワインが売れています。つまり、ブームを超えて文化へと定着してきているのを感じます。

――それは素晴らしいですね。リニューアルでは日本ワインの品揃えを大幅に見直したそうですね?

はい。これまで扱っていないもの、途中で扱いをやめたものも含めて、かなりの数をテイスティングしました。これまでの厳選した150種類が倍の量になるからといって、薄い内容にはしたくなかったので。

――いまの日本ワインを総ざらいしたということですね。どんなことを感じましたか?

改めて感じたのは、大手ワイナリーのクオリティの高さでした。品質が向上していて、何を飲んでも安定感があって質が高い。果実味、酸味、樽の具合……高いところでバランスがとれているので、歴史ある産地のワインに匹敵するほどでした。それでいて価格は抑えられていたので、これはぜひ紹介したいと思いました。

――日本ワインのなかでも大手ワインは値段が高いイメージがありましたが、改めて棚を見ると割安に感じますね。

いま、世界的な需要の高まりや円安があって海外のワインは高騰しています。例えばブルゴーニュ・ルージュは不作もあって、10年前に2,000円だったものが8,000円くらいになっています。日本ワインも資材の高騰はありましたが、2,000円のワインはせいぜい2,500円くらい。その間に品質が高まった大手ワイナリーのワインは割安に感じられると思います。

日本ワインブームの影で見えてきた課題

――そのほかに感じた傾向はありますか?

小規模ワイナリーは、日本ワインブームの中心でこれまで大きく扱っていました。しかし、そうしたワイナリーはナチュラルワインの傾向が強いこともあって、大手ワイナリーとくらべると品質の不安定さが目立ちました。

――新しい生産者だとその傾向はより強くなりそうです。

そのとおりです。新しい生産者は、デラウエアなどラブルスカ系のブドウを使って、にごった微発泡系のワインをリリースすることが多いのも傾向の1つです。

――ペットナットですね。

もちろん、日本は暑くてじめじめした期間が長いですし、海外にくらべてあっさりした味が好まれる傾向にあるので、さわやかに飲めるワインを造るのは間違ってないと思います。

――発酵を途中で止めるので造り方も素朴でシンプル。むずかしさもないですし。

はい、熟成させる必要がないので、時間がかからなくてリスクもない。新しいワイナリーはお金がいるので、キャッシュフローがいいところもメリットです。

――ペットナットはトレンド感があるだけでなく、生産者にとってメリットが大きいんですね。

ただ、消費者にとってはビールよりも高いので毎日飲むものでもありません。そんな中で新規ワイナリーの数が増えていったときに、そこまで需要は見込めない。そうなると怖いのが店で売れ残りになってしまうこと。ペットナットはフレッシュに飲める期間が限られているので、売れ残ったものはどろどろとした還元臭のある飲み物になる。しかも、3,000円くらいする。それを初めて日本ワインだと紹介されて飲んだら、その人はもう日本ワインを飲まなくなってしまうと思います。

――新しい生産者はどんどん増えているので、ありえる話です。

長野のアルカンヴィーニュ(千曲川ワインアカデミー)の卒業生はもうすぐ300人になるそうです。新規ワイナリーは、デビュー1年目は注目されますが、2年目、3年目になるに連れ、実力がないときびしくなると思います。

――国内のワイナリー数を見ても、2017年3月で283場だったのが2022年12月には468場になっています。この数年で185場も新規ワイナリーができていることになります。

生産者が増えるのは、よろこばしいことですが、そのあたりは課題かもしれませんね。

国内のワイナリー数
平成30年以前:国税庁「国内のワイナリー数
令和2年調査以降:国税庁「酒類製造業及び酒類卸売業の概況

大手ワイナリーの動向と注目ワイン

――大手ワイナリーは、人見さんが再注目しているそうです。全体にはどんな傾向がありましたか?

大手ワイナリーは、チームでワインを醸造しています。醸造責任者がスター生産者として顔となっていることはなくて、たとえ醸造責任者が変わっても、そのブランドの味が変わるわけではありません。クオリティはどんどん上がっていると考えていいと思います。

――ブドウの樹齢や畑の成熟度、醸造技術の蓄積も高まっていきますよね?

はい。この土壌はシャルドネよりもメルロが向いているなど、土壌調査をして適性品種への植え替えをやっているワイナリーもある。栽培適地に適正品種を植えることができているということです。植え替えると育成期間はワインにはできないので、大手の資本力があってできることだと思います。

――そういわれてみると、土地の名前と品種を掲げている銘柄が増えたように思います。自信をもって売れるだけのものにしているということですね。

はい。この10年、15年で栽培適地が確立されて、どんどんクオリティが上がっていると思います。

――そのなかで特に注目したいワインはありますか?

左からマンズワイン ソラリス 千曲川シャルドネ樽仕込み2019、小諸メルロー2018、東山カベルネ・ソーヴィニヨン2019

ハッとさせられたのは、マンズワインのソラリス千曲川シリーズです。千曲川シリーズはソラリスの単一品種で造るスタンダードタイプで、その上に最上級キュヴェとして小諸や東山があります。なので千曲川シリーズはブルゴーニュでいうと村名に当たるものです。値段は4,000〜6,000円くらいですが、「この値段でこの完成度!」とびっくりしました。

――この銘柄というのはありましたか?

「千曲川シャルドネ 樽仕込み」は6,000円くらいですが、この値段帯ではかなり完成していました。でも、カベルネ・ソーヴィニヨンもメルロもおいしかったですね。マンズワインは大手とはいえ、ソラリスシリーズはそんなに量を造っているわけではないので、早い者勝ちです。もう現行ヴィンテージは売り切れているものも多いと思います。毎年、楽しみにしてほしいですね。

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中規模ワイナリーの動向と注目ワイン

――中規模ワイナリーはどんな傾向にありましたか?

ザ・セラー虎ノ門本店で日本ワインがカテゴリー別本数でNo.1だと言いましたが、その原動力となっているのが、中規模ワイナリーの造る2,000円前後のワインです。食卓向けに安定したおいしさがあるので、ワイン愛好者というよりは一般の方から支持されています。

――レストランでも飲んだことがある方が多く、安心感がありますよね?

はい、実際に飲んでおいしかったという方に買っていただいています。

――ほかに注目ポイントはありますか?

ある程度、歴史があるワイナリーでは、ここ10年で代替りしています。海外で修業してきた息子・娘世代が醸造を担当しているため、クオリティが優れています。それに加えて、ワイナリーとしての哲学もできあがってきています。世界で実践されていることを噛み砕いて、自分達の土地の特徴を出しつつワインに落とし込んでいるのです。

――同じ甲州やマスカット・ベーリーAでもワイナリーによって特徴が出されているのを感じます。

そうなんです。自分たちの畑でできることを確立したうえで個性を出しているところにクオリティを感じます。

――注目したいワインはありますか?

中央葡萄酒のグリド甲州勝沼醸造のアルガブランカ クラレーザです。2つとも山梨の甲州を使ったワインが得意なワイナリーですが、見事にそれぞれの個性を出しています。

――中央葡萄酒のグリド甲州はどんなところがポイントですか?

先日、山梨県の18生産者が集まった試飲会で色々な甲州を飲みましたが、際立ってクリアでした。とてもシャープでピュアなのに華やか。酸化したニュアンスが出た甲州があるなかで、この透明感はすごいと思いました。

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――勝沼醸造のアルガブランカ クラレーザはどうですか?

同じ甲州でもこちらは果実味がしっかりあるタイプです。酸もきれいにあって、それでいて2,000円という価格は本当に驚き。実際に売れていますし、リピーターも多いですね。

小規模・新規ワイナリーの動向と注目ワイン

――小規模ワイナリーや新規ワイナリーはどんな傾向にありますか?

ある程度の資本力がある地元企業が出資してワイナリーを設立し、優秀な醸造責任者を雇っているようなところが出てきました。

――たとえばどんなワイナリーですか?

富山のドメーヌ・ボーや高知の井上ワイナリーです。山梨や長野といったワイン産地ではないところで、そういう会社が出てきたのは、ワインは出資するだけの魅力がある産業と思われているということだと思います。

――ほかにはありますか?

新しい個人の生産者はナチュラルにワインを造る人がほどんとでしたが、その傾向はうすまってきていると思います。味わい的にもラベルデザインなどのブランディング的にも似たようなものになってしまい、差別化がむずかしくなってきているのではないでしょうか。かえってクラシックなワインを造ったほうが特長を出しやすいのかもしれませんね。

日本ワインを応援する、ザ・セラーの取り組み

ザ・セラーのホームページで公開されている「日本ワインコラム」

――先ほどあげていただいた日本ワインの課題に対して、ザ・セラーで取り組んでいることはありますか?

新しい小規模生産者は、自分たちがどんなワインを造っているのかを発信することが大切です。1年目はメディアで取り上げてもらえるので、それなりに注目が集まります。しかし、2年目以降は自分達で発信をしていかないと情報が伝わりません。ただ、一人や二人でやられているワイナリーが多いので、日々の仕事で手が回っていないというのもわかります。そこで、私達が現地に出向いて取材をして記事にする「日本ワインコラム」というページをつくっています。

――日本ワインコラムは生産者の情報発信が目的だったんですね?

はい。これまでも各ワインショップが産地に足を運んで個別にSNSで発信している例はありましたが、それでは情報として積み上がりません。ですから、私達のほうでは生産者インタビューをすることで日本ワインコラムとして集約できるものを作りました。小規模なワインの生産者情報を随時アップしています。

ーーこれはどんな体制で制作されているんですか?

当社のスタッフが直接、足を運んでいます。取材のアポイントや段取りを組んだりも自分たちでやっていますし、生産者のインタビューもやっています。カメラマンを同行して、ドローン撮影もやっているので、ワイナリーや畑の様子もわかるんです。

――インタビューも読み応えがあって、生産者の思いが伝わります。 そのほかの取り組みについてはいかがですか?

ザ・セラー虎ノ門本店はリニューアルして、毎月1回は大規模な試飲会を開いています。毎回、テーマを変えて、インポーターを招いたり、日本の生産者にお越しいただくこともあります。世界のワインと比較しながら日本ワインを楽しめると思います。

ーー普段、ザ・セラー虎ノ門本店を訪れるときの楽しみ方を教えてください。

通常の営業日も有料テイスティングを用意しています。日本ワインの棚は回転が早く、常に私達がテイスティングしては注目の生産者を紹介しています。つまり、いまの日本ワインの最新トレンドがわかるようになっています。

ーーありがとうございました!

生産者のインタビューが集積された「日本ワインコラム」は必読です。
2024年の動向を踏まえた、人見さん注目のおすすめ銘柄もチェックしてみてください。
「ザ・セラー」の日本ワインコラム、オンラインショップはこちら

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ザ・セラー虎ノ門本店

東京都港区西新橋1-6-11
03-3595-3697
11:00〜20:00
無休(正月三が日を除く)

https://www.cavederelax.com

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この記事を書いた人

編集長のアバター 編集長 ライター/ワインエキスパート

東京に暮らす40代のライター/ワインエキスパート。
雑誌や書籍、Webメディアを中心に執筆中です。さまざまなジャンルの記事を執筆していますが、食にまつわる仕事が多く、ワインの連載や記事執筆、広告制作も行っています。東京ワインショップガイドは2017年から運営をスタートしました。

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