ここ最近、人気のワイン用ブドウ品種・ガメイ。ボージョレー・ヌーヴォーを造ることで知られていますが、それだけでない魅力がクローズアップされています。そこで、これまで誤解されていることも多かったガメイの実力や魅力を丸ごと解説。 ピノ・ノワールとの違いやキーになる生産者についても掘り下げます。今回のアドバイザーは、ワインマーケットパーティー店長で自称・ガメイ大使の沼田英之さんです。
今回のアドバイザー:ワインマーケットパーティー店長・沼田英之さん
ソムリエ。ホテル、レストランを経て、恵比寿ワインマート入社。「ラ・ヴィネ」を経て「ワインマーケットパーティー」の店長に就任し、年間4,000種類のワインを試飲。自称ガメイ大使としても活動している。
https://gardenplace.jp/
参考文献:『ワイン用 葡萄品種大事典: 1,368品種の完全ガイド』(ジャンシス・ロビンソン他)、『ソムリエ教本2019』(日本ソムリエ協会)、『ワインテイスティングバイブル』(谷宣英)、『土とワイン』(アリス・ファイアリング他)、『ヴァン・ナチュール自然なワインがおいしい理由』(編 FESTIVIN、文 中濱潤子)、『イギリス王立化学会の科学者が教えるワイン学入門』(ディヴィッド・バード)
ガメイの特徴
ブドウの遺伝子や栽培特徴
ガメイは、ピノ・ノワールとグーエ・ブランの自然交配種で、ピノ・ノワールの子品種であると推定されています。正式名は、GAMAY NOIRまたはGAMAY NOIR À JUS BLANC(白い果汁をもった黒いガメイ)です。いくつかのシノニム(地域による別名)もあります。
ガメイは早期に萌芽する早熟な品種です。樹勢は強くないものの、暑い気候の肥沃な土壌では結実能力が高く豊産になるため、収量の制限が必要です。大粒の品種で、日焼けや灰色カビ病、ブドウつる割れ病、木の病気、黄色斑点病になりやすくなっています。
ガメイはピノ・ノワールの子品種なんですね!
代表的な産地
ガメイはフランスで7番目に多く栽培されている赤ワイン用品種で、そのほぼ3分の2を生産しているのが広域ローヌ河流域です。特にボジョレー地区はガメイの産地として有名。そのほか、ヨーロッパ各国でも栽培されています。
ボジョレー
マコンの南からリヨンの北まで約55kmに渡って続くボージョレ地区は、生産されるワインのほとんどがガメイによる赤ワインです。ボージョレの北部は花崗岩土壌をベースにした丘陵地帯で、これがガメイに適した土壌とされています。この北部にはAOCクリュ・ボジョレーという特別に認定された10の村が存在。それぞれの村の土壌は特徴が異なりますが、骨格があってすぐれた熟成を遂げる赤ワインになります。この土地のブドウは丘陵地帯であるため、通常の垣根仕立てではなく、短梢剪定で低木状の株仕立て(コブレ)にされることが多くなっています。これにより収量を抑えることができています。
✔ サンタ・ムール ✔ジュリエナス ✔シルーブル ✔シェナス ✔ムーラン・ナ・ヴァン
✔フルーリー ✔モルゴン ✔レニエ ✔ブルイィ ✔コート・ド・ブルイィ
北部ボージョレのクリュ・ボジョレーの周辺に広がっているのがAOCボジョレー・ヴィラージュです。一方、南部のボジョレーは粘土を含んだ石灰岩由来の土壌となっていて、ここは広大なAOCボジョレーとなります。AOCボジョレー・ヴィラージュとAOCボジョレーで造られているのが、日本でもよく知られている新酒のボジョレー・ヌーヴォーです。毎年11月第3木曜が解禁日となります。
クリュ・ボジョレーの1つ「フルーリー」にプルミエ・クリュ昇格運動の動き!
フルーリーの7つのリューディー(区画)をプルミエ・クリュに昇格させようと、2023年3月に開かれた会議でフルーリーの85%を超す生産者がプルミエ・クリュの計画に賛成した。フルーリーはクリュ・ボージョレのなかでもエレガントな個性を持つとされている。7つの区画は次のとおり。
✔ レ・モリエ ✔ポンシエ ✔レ・ガラン ✔ラ・マドンヌ ✔ラ・ロワレット ✔グリル・ミディ ✔ラ・シャペル・デ・ボワ
その他、フランス
ガメイは、フランスのボルドー、コルシカ島、アルザス地方以外のワイン産地で推奨または公認されています。ロワール地方では、上流のロワール=エ=シェール県のトゥールや西部のシュヴェルニー、コトー・ド・ヴァンドモアで栽培。広域ローヌ川流域では、ボジョレーの南のリヨン周辺でも栽培されています。フランス東部をみると、サヴォワ県で広く栽培される品種です。サヴォワには「ビュジェイ・セルドン・メトード・アンセストラル」という、ガメイ100%の微発泡で甘口に仕立てたロゼワインのみのAOCがあります。
ボジョレーが圧倒的な産地ですが、ブルゴーニュのコート・ドールの生産者がボジョレーでガメイを造っているのは注目ポイントです!
スイス
ガメイはピノ・ノワールの次に多く栽培されている赤ワイン用品種です・ピノ・ノワールとブレンドされていることがほとんどで、このブレンドはヴァレー州でドールという名前で知られ、地域を代表する赤ワインとなっています。
その他の生産地
東ヨーロッパでは、セルビアやコソボ、北マケドニア共和国、トルコ、レバノン、イスラエルで栽培されています。アメリカではカリフォルニア州、オレゴン州、ミシガン州、テキサス州、ニューヨーク州でワインが造られています。カナダではブリティッシュコロンビア州やオンタリオ州で多くの生産者がヴァラエタルワインを醸造。南半球ではオーストラリア・ヴィクトリア州やニュージーランド、南アフリカでも生産されています。
フランス以外の地域でもガメイは造られていますが、いずれも熱心な生産者がいるのみで、産地としての動きになっていません
ワインの味わい
基本的な味わい
外観:紫がかった濃いめのルビー色で、粘性は弱め
香り:イチゴジュースなどフレッシュな赤い果実、黒蜜
味わい:フレッシュで軽やか。タンニンも控えめ。
土壌の違いによる変化
砂質土壌:軽やかになる(南部ボジョレーなどのAOCボジョレー)
花崗岩や片岩を含む土壌:ブドウの成熟度が増し、色は濃くなり、香りも甘くスパイシーに。果実の凝縮度も増し、ミネラル、タンニンも強くなる(AOCボジョレー・ヴィラージュ、AOCクリュ・ボジョレー)
醸造の違いによる変化
全房発酵した場合(セミマセラシオン・カルボニック):梅やシソの香りが強く出て、イチゴをクラッシュしたような野性的な味わいが出る
樽熟成した場合:ルビー色からオレンジ色の色調になり、乾燥した果実や甘草のようなスパイシーな香りに。味わいはフレッシュな印象から心地よいものになる
マセラシオン・カルボニックした場合:バナナやチューインガム、キャンディ、シナモンの香りがつき、チリチリとした炭酸ガスのニュアンスが出る
熟成による変化
クリュ・ボジョレーなどは長期熟成が可能です。熟成すると、フレッシュな部分がそぎおとされ、紅茶のようなニュアンスが出る。独自の果実味によって少し甘さが残るので、ピノ・ノワールやグルナッシュと間違えやすくなっています。
早飲みのヌーヴォーだけでなく、熟成したガメイの魅力もぜひ味わってみてください!
料理との相性(マリアージュ)
ボージョレのガメイは伝統的に、ジャンボン・ペルシェ(ハムのゼリー寄せ)が好相性とされているように肉の冷製前菜や豚肉と合うとされています。クリュ・ボジョレーのようなしっかりしたワインは、野趣性やスパイス感のある個性をキーに、赤身肉やアジアンスパイスの料理と提案されることも増えてきました。
ピノ・ノワールとの違いや関係性
ガメイとピノ・ノワールの違い
ガメイはピノ・ノワールの子品種であると推定されていて、ガメイとピノ・ノワールは味わいが似ている部分もあります。ガメイを飲んでピノ・ノワールと間違えることもあるでしょう。特に、熟成を経たガメイをピノ・ノワールと間違えやすくなっています。改めて、違いを確認してみましょう。
全体に素朴な印象があるのがガメイ、
つややかな印象があるのがピノ・ノワールです!
ガメイ | ピノ・ノワール | 違い | |
外観 | 紫がかった濃いルビー色 | 紫がかった濃いルビー色 | より紫がかっているのがピノ・ノワール |
香り | チェリーやイチゴ、黒蜜の香り | イチゴやブルーべリーの香り | 黒蜜っぽさがあるのがガメイ ブルーベリーや土っぽさがあるのがピノ・ノワール |
味わい | フレッシュでピュアな果実味 軽やかでやさしい味わい | フレッシュでピュアな果実味 軽やかだが酸味やミネラルはある | スパイス感があって味が強めなのがガメイ 酸味やミネラル感が強いのがピノ・ノワール |
熟成 | 紅茶、きのこ | 紅茶、腐葉土、きのこ、乾燥肉 | 甘さが残るのがガメイ |
ピノ・ノワールとガメイのまぎらわしいブルゴーニュAOCまとめ
ブルゴーニュでは、ピノ・ノワールとガメイをブレンドしたAOCがいくつかあります。確認してみましょう。
AOC名 | タイプ | 条件 | 備考 |
ブルゴーニュ・ガメイ | 赤、 | ガメイ85%以上。クリュ・デュ・ボージョレのAOCの地域のみ | 2011年新設 |
ブルゴーニュ・パストゥグラン | 赤、ロゼ | ピノ・ノワール(30%以上)、ガメイ(15%以上)主体 | 2011年新設 |
コトー・ブルギニオン | 白、赤、ロゼ | 赤・ロゼはガメイ、ピノ・ノワール主体。ヨンヌ県のみCésarが認められる | 2011年ブルゴーニュ・グラン・オルディネールに取って替わる |
ガメイのよくある誤解
ここ数年で人気が増してきているガメイですが、これまでの受難ともいえる扱いによって、まだまだ誤解されている部分もあります。そんな誤解を解いていきます!
禁止令が出されるほど、ダメなブドウじゃない!
ガメイは古くからブルゴーニュ全域で栽培されていたブドウです。ヒュー・ジョンソンの『ワイン物語』によると、ガメイは収量が多く、ピノ・ノワールよりも収穫が早いため、ペストに苦しんでいたブルゴーニュの人々にとって、神からの謝罪のしるしであると考えていたそうです。ところが、1395年にブルゴーニュ地方を治めていたフィリップ2世がガメイを「質の悪い不実な品種」として、コート・ドールで栽培されたブドウを伐採するように命じます。これが有名なフィリップ豪胆公によるガメイ禁止令です。
その後も1567年、1725年、1731年とたびたび禁止令が発せられましたが、実際にコート・ドールのブドウをピノ・ノワールが占めるようになったのは、19世紀後半のフィロキセラ禍によってアメリカ台木に植え替えられたときでした。コート・ドールで高級品種となったピノ・ノワールに植え替えが進んだのは仕方のないことかもしれません。実際、冷涼で適度に水分を含むコートドールの粘土石灰岩土壌がピノ・ノワールに向いており、冷涼で湿気のあるブルゴーニュ北部の花崗岩土壌がガメイに向いていたというのもあるでしょう。
とはいえ、1980年代になって、モルゴンのマルセル・ラピエールがガメイの個性を自然派の手法で活かして、はじけるようなイチゴ果実味とスッとしみわたるような印象のワインを造ります。マルセル・ラピエールの自然なワイン造りはボジョレーはもとより各地に衝撃を与えました。これによってガメイに意欲的な新たな生産者も現れ、北部ブルゴーニュから参入する生産者も。また、アリス・ファイアリングは著書『土とワイン』で、土壌の異なるマコンやローヌ北部のガメイを讃賞しています。さまざまな流れによってガメイは注目の的です。
控えめだったガメイが脚光を浴びる日がようやく来ています!
早飲みワインだけじゃない、熟成向きのワインもある!
日本人にとってガメイといえば、ボジョレー・ヌーヴォーのイメージが強くあります。しかしボジョレー・ヌーボーだけがガメイの味ではありません。そもそもボージョレ・ヌーヴォーなどの新酒は、生産者がネゴシアンやワイン商に向けてその年の出来栄えを伝えるために振る舞っていたもの。一番に出されたものだけを目当てにすることがないよう解禁日を設けましたが、同時にボジョレーの醸造家でネゴシアンのジョルジュ・デュブッフ氏が新酒のお祭りとしてPR。これが大当たりし、ボージョレ・ヌーヴォーは早くに飲み頃を迎えるワインというイメージができあがります。特に日本は日付変更線の関係で世界に先駆けて解禁されるため、カウントダウンイベントが大成功。バブル期に盛り上がりが最高潮に達し、早飲みワインのイメージが定着しました。
しかし、ボージョレ・ヌーヴォーは解禁日を見込んで、8月末に収穫し、短期間に仕込める方法で醸造されるため、本来のワインの味わいよりも軽くなります。さらに、ボジョレー・ヌーヴォーに使用されるのはボジョレーのなかでも軽めのワインに仕上がる地区のブドウだけ。ボジョレー北部には、クリュ・ボジョレーという凝縮感があるガメイを生み出す産地があります。クリュ・ボジョレーのムーラン・ナ・ヴァンやモルゴンといった村には、熟成向きの素晴らしいワインもあります。
長熟タイプのガメイによる芳醇なワインも味わってみてください!
バナナ香やキャンディ香はガメイ本来の香りじゃない!
これもボジョレー・ヌーボーにまつわる誤解の1つです。ガメイといえば、バナナやキャンディ、チューインガムのようなファンシーな香りがすると思っている人が多くいます。これはボージョレ・ヌーボーを短期間で仕込むために利用されるマセラシオン・カルボニックという醸造法に由来する香りです。つまり、ガメイ本来の果実の香りではありません。ピノ・ノワールでもシラーでもカベルネ・ソーヴィニヨンでも、マセラシオン・カルボニックで醸造すればこの香りになります。さらにいえば、ボージョレ・ヌーボーは本来の収穫時期を待たずに造られることもあるため、風味はより軽やか。ガメイ本来は、チェリーやイチゴ、黒蜜のような香りを持ち、ピュアでやさしい味わいが魅力です。ボジョレー・ヌーボーだけでなく、通常のガメイも味わって本来の風味を感じてみましょう。
日本語では「炭酸ガス浸漬法」。発酵槽のなかにブドウを入れ、二酸化炭素を充填し、酸素を排除して嫌気状態をつくることでブドウの細胞内で発酵を促す醸造法。外部の空気を遮断できる発酵槽を用意し、健全なブドウを用意することがポイント。その後、別の発酵槽に果汁を移し、酵母による通常のアルコール発酵で仕上げる。できあがったワインは、フルーティーな香りが特徴となる。
ナチュールで注目! ガメイの歴史とキーになる生産者
ガメイがここ数年、注目を集めるキーの1つには自然派ワイン(ナチュールワイン)があげられます。ガメイの歴史を振り返りつつ、今日のガメイ人気を築きあげてきた生産者をご紹介します。
1960年代:ボジョレー・ヌーヴォーを成功させたジョルジュ・ドゥブッフ
ワイン産地・ボジョレーを世界的な知名度したのは、ボジョレー・ヌーヴォーの成功にほかなりません。元々、新酒はワイン商やネゴシアン、ワインショップにその年の出来栄えを伝えるために振る舞われたもの。それぞれの生産者が行っていました。しかし、解禁日を決めないと一番最初に出した人の早いもの勝ちになり、未熟なワインが出回る恐れがあります。そのため、バラバラだった生産者をまとめて解禁日にパーティーをしようと考えたのが、マコン生まれの醸造家でネゴシアンのジョルジュ・デュブッフです。そのときのポスターのキャッチフレーズが「ボジョレー・ヌーヴォーがやってきた」。華やかなお祭りとチャーミングなボジョレー・ヌーヴォーのイメージが一致し、PRは大成功しました。キャペーンは世界的にも展開され、日本やアメリカでもヒット。日本では普段ワインを飲まない人にまで11月第3木曜がボジョレー・ヌーヴォーの日だと知られ、ワインを飲むきっかけづくりにもなりました。ジョルジュ・デュブッフは2020年に亡くなりましたが、その功績から「ボジョレーの帝王」と呼ばれています。ジョルジュ・デュブッフのボージョレー・ヌーヴォーは花柄のラベルが目印です。ボトルからも華やかでチャーミングな魅力を伝えています。
1970〜90年代:ボジョレーが生んだ自然派ワインの父マルセル・ラピエール
ボジョレー・ヌーヴォーは、ボジョレーに商業的な成功をもたらした一方で、収穫を早め未熟なブドウを発酵させるのに、補糖や培養酵母の使用が当たり前になっていきます。同時期、フランスの農地には化学的な除草剤や殺虫剤、肥料が広まりつつありました。1969年にブドウ栽培と醸造の職業学校を卒業したモルゴンのマルセル・ラピエールは、そんな自身や友人の造るワインの味に疑問を感じていました。そこで、彼は自然志向の科学者でワイン醸造家のジュール・ショヴェと議論を交わし、「ボジョレーの欠点は補糖と硫黄(SO2)」だと突き止めます。糖分を未熟な状態で収穫することで補糖して発酵させた後、SO2を加えたことが問題だと考えたのです。
そこで1981年から畑を有機栽培にし、醸造では化学物質を排除。野生酵母での自然発酵に転換し、SO2も使わないようにしました。醸造はセミマセラシオン・カルボニックという方法をとり、フレッシュで果実味に溢れ、タンニンの抽出がおだやかなワインに仕上げられました。これが現在、自然派ワイン(ナチュール)と呼ばれるものです。何年かの試行錯誤の後に、1989年頃からパリのワインショップのオーナーに評価されたのをきっかけにこの自然派ガメイの人気に火がつきます。
すると、マルセル・ラピエールは同じ地域の生産者仲間にもこの自然派ワインの手法を伝え、ジュラのピエール・オヴェルノワやプロヴァンスのフランソワ・ドゥトゥイユらともワイン造りを共有。「自然派ワイン第一世代」そして「自然派ワインの父」と呼ばれ、今日ある自然派ワインの流れをつくってきました。マルセル・ラピエールは2010年に亡くなりましたが、長男のマチューがワイナリーを継承し、その味わいを維持しています。
ブドウを房のまま発酵槽に入れ、重みで潰れたブドウから果汁が流れ出し、果皮についた酵母の働きによりアルコール発酵が開始されます。同時に二酸化炭素が充満すると果粒内で発酵が起こり、フレッシュで果実味に溢れ、タンニンの抽出もおだやかなワインができあがります。
1990年代:ギャンオブファイブと先駆者
マルセル・ラピエールは、ジュール・ショヴェとつくり上げた自然派のワイン造りを地元の仲間にも伝えました。ヴィリエ・モルゴンのジャン・フォワヤール、ギイ・ブルトン、ジャン・ポール・テヴネ、ジョセフ・シャモナールです。彼らはギャング・オブ・ファイブ(後にギャング・オブ・フォー)と呼ばれ、土地の個性を表現したクリュ・ボジョレーの生産者として注目を集めるようになりました。
マルセル・ラピエールのワインに衝撃を受けてワイン造りを始めた生産者も。一番弟子といわれたジョルジュ・デコンブ、フルーリーのイヴォン・メトラらがそれに当たります。
そして、マルセル・ラピエールが自然派のワイン造りで試行錯誤していた1980年代後半、もう一人同じような志をもった生産者がいました。それがクリュ・ボジョレーの1つレニエのクリスチャン・デュクリュです。彼はビオディナミ栽培とサンスフルのワイン造りを実践。ボジョレーにはもう一人先駆者がいました。
●アンリ・マリオネ(ロワール・トゥレーヌ)
ロワール地方トゥレーヌでガメイやソーヴィニヨン・ブランを造る生産者。1969年にドメーヌを受け継ぎ、マルセル・ラピエールよりも早い1970年代にジュール・ショヴェに師事。1990年には完全な無添加ワインを醸造。さらに接ぎ木しないことでも有名。台木を使わずに植樹したブドウ樹からワインを造り、フィロキセラ以前のブドウ樹も入手しています。無添加かつ自根やプレ・フィロキセラが気になる人は、試してみてください。
✔ジャン・フォワヤール:Pinoter(ピノ・ノワールの個性をもつ)のガメイを造るモルゴンの生産者
✔ギイ・ブルトン:モルゴンで祖父の畑を引き継いで自然なワイン造りを実践
✔ジャン・ポール・テヴネ:大樽で優しく熟成。モルゴンで最もエレガントなワインを造る。息子チャーリーはマルセル・ラピエールのもとで働き2007年からレニエでワインを造り、現在はジャン・ポール・テヴネの醸造も担当
✔ジョセフ・シャモナール:オーガニック栽培を貫き、モルゴンとフルーリーでワインを造る
2000年代:クリュ・ボジョレーの名門や独自路線で注目の生産者
クリュ・ボジョレーが注目を集めると、ボジョレーで長い伝統をもつ生産者や独自の路線で評価を受けた生産者が脚光を浴びました。こうしたワイナリーは現在でもボジョレーを牽引し、ガメイの最高峰の味わいを造り出しています。
✔ジャン・マルク・ビュルゴー:1989年設立。手と馬による畑作業を大切にする有機農法を実践する実力派
✔ジャン・クロード・ラパリュ:独自の感性でガメイの可能性を追求したワイン造りで”異端児”と称される
✔シャトー・ティヴァン:1877年設立。コート・ド・ブルイィの歴史あるワイナリー。専門誌でも高評価
✔ドメーヌ・デュ・ヴィスー:17世紀から続くボジョレーのトップ生産者
✔ドメーヌ・デ・テール・ドレ:南部のシャルネイ村でブルゴーニュの伝統的な醸造法でワインを造る
2010年代:ガメイ生産者は自然派新世代へ
マルセル・ラピエエールのもとには、ヴァンナチュールを造りたいという人々が次々に訪れ、自然派第一世代から20〜30年の時を経て、新しくワイン造りを志す新世代が登場しています。マルセル・ラピエール自身は2010年に亡くなり、息子のマチューがワイナリーを継承。マルセルの甥でフィリップ・パカレの従兄弟のクリストフ・パカレもフルーリーでワイン造りをしています。
✔カリーム・ヴィオネ:2006年設立。マルセル・ラピエールに影響を受ける
✔ダミアン・コクレ:父はマルセル・ラピエールの一番弟子ジョルジュ・デコンブ。2007年設立。リリース初年度より人気
✔レミ・デュフェイトル:2011年設立。ジャン・フォワヤールに才能を見いだされる
✔ヤン・ベルトラン:2012年にボーヌの醸造学校を卒業し、祖父の畑を使って自社製造
✔シルヴェール・トリシャール:ビオディナミのおじさんの畑を受け継ぎ、2012年にブラッセ村で設立。ラパリュに影響を受ける
✔バティスト・ナイラン:リヨンでワイン醸造。2015年が初ヴィンテージだがすでに欧米で人気。日本でも割当に
ブルゴーニュ生産者の進出と世界のガメイ人気生産者
ガメイはボージョレ以外の生産者のなかにも、意欲的にワイン造りをする人が現れています。注目したいのは、ブルゴーニュの名門がボジョレーに進出している流れです。
ルイ・ジャド……1996年からクリュ・ボジョレーの名門シャトー・デ・ジャックを買収。独立ワイナリーとして所有。
ティボー・リジェ・ベレール……ニュイ・サン・ジョルジュの名門ワイナリー。2009年からムーラン・ナ・ヴァンでガメイを醸造。
そのほかにも、モンラッシェやジュヴレ・シャンベルタンの生産者の若手世代がクリュ・ボジョレーでワイン造りをしている例があります。
世界を見ると、スイスやアメリカ・オレゴン州、オーストラリア・ヴィクトリア州などで秀逸なガメイを造っている生産者がいますが、あまり輸入されていないのが現状です。日本に輸入されているものだと、オーストラリア・ヴィクトリア州のソレンバーグのガメイが有名です。
ソレンバーグ……イギリスのワイン評論家ジャンシス・ロビンソンが「私はこのワインがガメイから造られたことを知っているけれど、しかしあえて、ブルゴーニュのピノノワールから造られたグラン・クリュとして評価をしたい!」と大絶賛。
今後、ガメイ人気がこのまま続けば、魅力的なワインを造る生産者が世界から登場するかもしれません。
まとめ
ガメイの特徴や産地、ピノ・ノワールとの違いをおさらいしつつ、ガメイの誤解を解いて、歴史や生産者の流れを追ってみました。ガメイは、自然派ワイン(ナチュール)とのつながりが強いと思っていましたが、ボジョレーの生産者はマルセル・ラピエールに関係なく独自に自然派に行きついたり、歴史あるワイナリーも自然派になっているのが驚きました。それが魅力を引き出すのに合っているんでしょう。
次の記事では、実際に沼田店長のおすすめや編集長が気になったガメイも紹介したいと思います!
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