甕(かめ)で仕込む世界最古のクヴェヴリワイン造りが、いま世界に広がっている。ここ日本でも2017年からクヴェヴリワイン造りを実践している造り手がいる。それが、北海道空知地方の「KONDOヴィンヤード」近藤良介だ。なぜ彼はクヴェヴリでワインを仕込もうと思ったのだろう。その理由と挑戦の道のりを追った。

予測不能のクヴェヴリワイン造り

秋はワイン造りをする生産者にとって、最も忙しい時期にあたる。2019年の秋は、KONDOヴィンヤードにとって、これまで以上に慌ただしかった。この年は「konkon2017」の瓶詰め作業、「konkon2018」の移し替え作業とそれに伴うクヴェヴリの洗浄、「konkon2019」用のブドウの収穫と仕込み作業が重なったからだった。もちろん、「konkon」以外のワインの作業もある。

「konkon2017」は11ヶ月の長い発酵期間を終えた後、北海道斜里製の小さなクヴェヴリに移し替えて12ヶ月貯蔵し、瓶詰めされた。2018年と2019年は、それぞれ収穫年の10月に仕込まれて醸造中。KONDOヴィンヤードには、3つのヴィンテージのワインが眠っている。

3つのヴィンテージそれぞれの醸造中には、さまざまなことが起き、簡単にはいっていない。小さなことから大きなことまでクヴェヴリの醸造には予想外がつきもの。一番ショックだったときは「しばらく忘れよう」と思って、畑に出たこともあったという。

醸造は天然酵母による発酵で、現在のところ、どのタイミングでも亜硫酸塩は加えていない。ブドウは果皮や種子ごと発酵させているので、抽出された成分で酸化は抑えられるし、厳しく選果して原料から雑菌が出ないようにもしている。それでも何が起こるかはわからない。それまでも自然な方法でワインを造ってきたが、今回は初めてのクヴェヴリ醸造なのだ。

「同じ自然素材でも樽の場合は歴史があるので、醸造中にどう管理すればいいか、トラブルにどう対処すればいいか、知られています。理屈はクヴェヴリも同じなのですが、ちょっとしたことが結構違う。最も大きな違いは樽なら移動できますが、クヴェヴリは土に埋まったまま。やれることが限られたり、やり方を考えなきゃいけません」

近藤は、ジョージアでクヴェヴリ醸造を見たときに、技術らしい技術がないと思った。クヴェヴリに潰したブドウを入れさえすれば、ブドウを引き上げてくれるようなワインができるのではないか、そんなふうに思ったところがあった。

「まずはクヴェヴリが来たことがうれしくて。クヴェヴリに入れればおいしいワインができるというのは妄想なんですけど、魔法のつぼみたいな期待が心のどこかにあったと思います。でも、そういうものではないというのが見えてきて、・・・・・・勉強になっています」

シンプルに自然のままに醸造させることはがどれだけ難しいことか、改めて気づかされている。クヴェヴリで自然なまま醸造するには工夫が必要で、それには試行錯誤した経験や知恵が必要になってくるのかもしれない。

ジョージアの生産者が来日

左から、ジョン・オクロ、ジョン・ワーデマン、ショータ・ラガジゼ

一方で、この秋には有意義な収穫もあった。ジョージアのクヴェヴリワイン生産者3人が来日の折に、北海道のKONDOヴィンヤードを訪ねてくれたのだ。ジョージアの生産者とは、近藤のクヴェヴリを職人に依頼してくれたフェザンツ・ティアーズのジョン・ワーデマン、オクロ・ワインズのジョン・オクロ、ラガジワインセラーのショータ・ラガジゼだ。

3人を招いたのはインポーターであるノンナアンドシディの岡崎玲子。北海道の案内役である円山屋の今村昇平がKONDOヴィンヤードまで全員を連れて行った。近藤は「こんなチャンスは二度とない」と意気込んで3人を迎えた。

「彼らには問題提起するつもりで仕込み中のワインをテイスティングしてもらいました。これまで手探りでやってきたので、ジョンさんからは厳しいことも言われました。自分がクヴェヴリを手配した手前、心配してくれたんだと思います。醸造方法やクヴェヴリの手入れや対処法など、1人で解決できないことも聞きました。これにはオクロさんが細かく教えてくれました。ショータさんは、やさしかったですね。3年目の造り手なので、同じようにクヴェヴリワイン造りを始めた自分をフォローしてくれたんだと思います」

3人は三様のアドバイスをくれた。ジョン・オクロはワイン造りをしていると共に、ジョージアの携帯電話会社の幹部を務め、イギリスの大学で物理学の博士号を持つ人物。物理学で得た知識も含めて、論理的に教えた。ジョン・ワーデマンは、クヴェヴリワイン協会でもショータ・ラガジゼと師弟関係にあり、2世代目を指導する立場。ジョージアで若手に教えるような格好で、近藤にアドバイスをしたに違いない。3年目の造り手でジョージア期待の若手であるショータ・ラガジゼは、天才肌の造り手ではあるが、過去には納得がいかず一部を出荷しなかった経験があるそうだ。そうしたこともあって、近藤を思いやる言葉をかけたのだろう。3人とは連絡先を交換し、別れた。これで遠く離れた地であっても、相談できるルートができた。

ジョージアの造り手との会話では、産地の気候に合わせて造り方を変えることにも話が及んだ。ジョージアは、気候や土壌などに多様なテロワールを持つ10の生産地域がある。3人の生産者が拠点にする東部のカヘティ地方はジョージア最大ワイン産地だが、西部にもイメレティ地方という産地があり、ここでもクヴェヴリ醸造が行われている。

「カヘティではパワフルなブドウを使って長期間の醸しを経て、しっかりしたワインが造られていますが、イメレティでは酸やミネラルの豊富なブドウを使って、短く醸した後、果汁だけでクヴェヴリ醸造されています。ジョージアの人達からイメレティ方式でやる手もあると聞いて、実際に飲んでみましたが、北海道のブドウに近いのはイメレティ。新しくイメージが湧いてきました」

テロワールが違えば、ブドウの個性もワインの造りも異なる。カヘティは乾燥した大陸性気候を持つ地域。その土地で力強く育ったブドウを潰して、果皮や果梗・種ごと醸すため、重厚なワインができあがる。

一方のイメレティは、亜熱帯湿潤気候で年間降水量も多い。ブドウには冷涼な土地で育ったような酸やミネラル、アロマが豊富な個性がある。ワインは、短く醸した後、果皮や種を入れずに果汁だけでクヴェヴリ醸造する軽やかな風味のものが多い。イメレティの繊細さのあるブドウの特徴を活かすには、みずみずしさを保てる醸造法の方が適しているとの指摘だった。

近藤自身、初めて醸造してみて、醸造方法を模索する必要性を感じていた。
「北海道では、気温が低いために発酵期間が非常に長くなり、結果として長期醸しになってしまうんです。この方法には、何かが起こるリスクもあるし、酸化のニュアンスは強くなります。味わいとしても、フレッシュな果実味は薄れていく。でも、北海道のワインは、それこそが強み。ある程度は覚悟していましたが、醸すことで失われるものがあるというのを感じました」

醸すことでブドウの熟度を高められつつ、樽のように香りに影響がない環境をクヴェヴリ醸造に求めていたものの、長期醸しになったことで、溌剌とした個性が成熟してしまった。

「醸しの期間や出すタイミングには、この土地なりの落とし所があると思っています。ジョージアに行って、発酵や微生物活動が終わるまでブドウをクヴェヴリに入れておくのがワイン造りの原点だと感じました。それを北海道で再現したら長期醸しになった。地域的にそうなるとして、バランスを見きわめていかなきゃな、というのを2年やって感じました。結局、自分の中で長い間、答えを見つけていかなきゃいけないんだろうな、というのが今の率直な思いです」

見えてきた課題と描くビジョン

季節は秋から冬になった。3つのヴィンテージのクヴェヴリ醸造のピークを経験した後、積雪に備えた畑の冬支度を終えると北海道には長い冬が来る。ブドウは雪の下で次のシーズンの養分を蓄え、生産者は自身の考えを巡らせる期間となる。

秋のうちは、初めてのクヴェヴリ醸造が思い通りにいかない落胆もあったが、テイスティングをするたびにワインの風味が安定してきたこともあって、徐々にそれぞれの年を振り返る境地になっている。改めて感想を聞いてみた。

「初めて瓶詰めで、クヴェヴリ醸造が一筋縄ではいかないのを痛感しました。それは、ほかの醸造容器よりも、ブドウや仕込みの粗(あら)が如実に出るというところ。もちろんステンレスや樽はある程度、経験があるのでイメージできる部分があります。しかし、それ以上に仕事の精度をあげる必要がある造りというのを感じました」

仕事の精度とは、ブドウ栽培とワイン醸造のどちらをも指す。

「その中でも畑の仕事が大部分にはなります。テイスティングすると、それぞれの年の反省点が浮かんでくるんです。収穫をもう少し待つことはできなかったか、病果は取っているけどそもそも病気を出さなくすることはできなかったか。そういうことを思い出させられるんです」

醸造についてもやるべきことがあることを認識している。

「毎年、仕込みの時期は忙しいんですけど、もう少し仕込みにのぞむ精神状態を整えてからやるべきじゃなかったかと思っています。僕の場合、ブドウを一生懸命につくって、あまり余計なことを考えずにワインを造るのが理想です。もちろんブドウのクオリティが万全ならそれでいいんです。でも、そうもいかない。テクニックではないですが、クヴェヴリをどう使うか。いかにブドウを100のままワインにできるかという方法を探らなくてはいけないと思っています」

当初、クヴェヴリにはブドウをうまくワインにしてくれる期待が大きかったが、逆に最もシビアな醸造法だとわかって冷静に受け止めている。「より突き詰めないといけない」とも戒める。しかし、こうした状況でも決してクヴェヴリを辞めようと思ったことはなかったという。「意地もある」と言うが、それだけではない。

「やっぱり間違ってると思ってないからですよ。ワイン造りの原理に従ってやっている。これに関してはブレないと思います」

力強い言葉のとおり、すでに醸造にはプランがある。醸造を年ごとに3回繰り返したことで、「1回ごとに自分のビジョンができている」と言う。醸し期間、プレスの方法、クヴェヴリから斜里窯に移すときの方法、熟成期間、熟成の容器、貯蔵の方法などに検討を重ねていることを明かしてくれた。

「konkon」の3つのヴィンテージは、2017年も、2018年も、2019年も、それぞれ別のやり方で醸造されている。

お話を聞いたのは・・・
近藤良介
KONDOヴィンヤード代表
北海道空知地方でワインを醸造。
2007年に初めて畑を拓き、2020年で14年目。
ソーヴィニヨン・ブランやピノ・ノワールを
「タプ・コプ」「モセウシ」として瓶詰めする一方、
さまざまな品種の混植を「konkon」で瓶詰め。
2017年のブドウからkonkonをクヴェヴリで醸造。
2020年春にリリースを予定している。
<発売情報はHPにて確認できます>
http://www10.plala.or.jp/kondo-vineyard/
<KONDOヴィンヤードのワインが飲める店>
くりやまアンド・アム(北海道栗山町)

取材協力:岡崎玲子(ノンナアンドシディ)、今村昇平(円山屋)ジョン・ワーデマン(フェザンツ・ティアーズ)、ジョン・オクロ(オクロ・ワインズ)以上、敬称略・登場順