甕(かめ)で仕込む世界最古のクヴェヴリワイン造りが、いま世界に広がっている。ここ日本でも2017年からクヴェヴリワイン造りを実践している造り手がいる。それが、北海道空知地方の「KONDOヴィンヤード」近藤良介だ。なぜ彼はクヴェヴリでワインを仕込もうと思ったのだろう。その理由と挑戦の道のりを追った。

混植のブドウを仕込む

いよいよクヴェヴリワイン造りの準備が整った。時を同じくして、KONDOヴィンヤードは、栗澤ワインズ農事組合法人として、醸造免許を取得。クヴェヴリもあるワイナリーとして正式に自社醸造でワインを造れることになった。そこで、2017年のブドウの収穫分からクヴェヴリでの仕込みをスタート。使うのは混植で育てたブドウ。ソーヴィニヨン・ブラン、シャルドネ、ゲヴェルツトラミネール、ピノ・グリ、シルヴァーナー、ケルナー、オーセロワ。18年、19年はピノ・ノワールやピノ・ムニエの黒ブドウも入れている。

これらはKONDOヴィンヤードで「konkon」ラベルで発売されていたもの。それぞれ「konkon2017」「konkon2018」「konkon2019」となる。「クヴェヴリでワインを造るなら、混植のブドウを醸して、混醸したかった」というのが当初からの思いだった。近藤は、畑を拓いた当時から「混植」をワイナリーのアイデンティティの1つとして掲げてきた。それは「畑が想像できるワイン」という目指すワインの姿を最も表現しているもの。さらにその力をクヴェヴリで増すのがねらい。

ジョージアにも混植・混醸で造ったフェザンツ・ティアーズの「ポリフォニー」というワインがある。ジョージアの525種類ある固有品種のうち417種類を毎年比率を変えてブレンドされた、固有品種へのオマージュが感じられるワインだ。生産者のジョン・ワーデマンが来日した折にその意図を聞いたところ、「その土地の自然を表現したかった」と教えてくれた。両者に、自分たちの畑のあるを丸ごと表現したいという思いがあるのは偶然だろうか。

いよいよ2017年秋。収穫を終えてクヴェヴリでの初めての仕込みが始まった。近藤はジョージアで誓った通り、きめ細かな醸造を実践した。

「まず、原料となるブドウの段階で、腐敗果や未熟果を除いて厳しく選果するのはもちろん、仕込みをする時の衛生状態にもかなり気を使いました」

いいワインを造るためには、健全で完熟したブドウだけを選んで仕込むのが理想だ。しかし、それを1つ1つ選別するのは、かなり骨の折れる作業となる。しかし、クヴェヴリで造るアンバーワインは、果肉だけでなく果皮や種までも入れて仕込むため、それを徹底しないと嫌な風味がつくばかりか、醸造中に雑菌を発生させる原因になってしまう。また、クヴェヴリは動かすことができない状態で密閉されるため、ワインセラーや仕込みに使う道具も清潔にしなければならない。クヴェヴリの中に入れるもの、容器、外の環境、すべてをクリーンな状態にする必要がある。逆にそこを徹底すれば、ブドウの個性を純粋に丸ごと味わえるようになる。

このとき、ブドウはしっかりと破砕することも肝心だという。
「2016年秋に、さっぽろ藤野ワイナリーのワインを斜里製のクヴェヴリで仕込んだときに、あまりブドウを潰さなかったんです。すると、それをJICAの協力事業で来たジョージアの研修生が見て、しっかり潰すよう教えられました。ジョージアのクヴェヴリワインは発酵が終わった後、上に浮いていた果皮などが自然に沈んでいくんです。でも、潰さないといつまでも浮いたままになってしまう。もうそれを聞いてから、必死で潰しましたね」

破砕するときも北海道とジョージアとは要領が異なる。ジョージアではサツナヘリと呼ばれる木製の酒漕にブドウを入れて足で踏み潰す。しかし、北海道では果梗が色づくまで熟さないため、果梗を取り除いて潰すことになる。果梗が付いていれば踏んだだけで潰せるが、果梗が付いていなければ、うまく潰れてくれない。そのため、ローラーでしっかりとブドウを巻き込むタイプの破砕機を使ってしっかりと潰さなくてはならない。少しずつ要領が違う工程も北海道仕様に変更していった。

長すぎる発酵期間

仕込みが終われば、発酵を待つばかり・・・・・・なのだが、この発酵を終えるまでには時間がかかった。ジョージアであれば、9月に仕込んだら1ヶ月程度で発酵が終わる。しかし、北海道は夏が終わったと思ったらすぐに冬が来る。10月に仕込んだ後、1ヶ月もすると氷点下になり、微生物活動は一旦休眠に入る。発酵が終わるのを見届けるのは、北海道の遅い春を待つことになる。

しかし、春になると想定外のことが起きた。仕込んだ後、一度、冬の間に沈んだ果帽が5月頃になって浮き上がってきたのだ。5月末には完全に浮き上がってしまった。通常、ジョージアではそのような現象は起らない。ジョージアの一般的なワインであれば、9月に仕込んで1ヶ月後に発酵を終えると、小さいクヴェヴリに移して翌春には瓶詰めされるスケジュール。発酵が長期間に渡ってしまう北海道ならではの現象だった。

近藤は状況が悪化することを懸念して、樽に移すことも考えた。何しろ、仕込んだブドウは収穫量の3分の1。これがダメになってしまえば、KONDOヴィンヤードにとって大打撃だ。しかし、このとき発酵の様子を一緒に見ていた、さっぽろ藤野ワイナリーの浦本忠幸から意外な言葉が漏れる。

「いや、いけるんじゃないですか」

最初、近藤にはこの言葉が楽観的すぎると映った。しかし、浦本は1年前に斜里のクヴェヴリで醸造を経験している。さまざまな不安が頭をかけ巡ったが、結局は浦本の言葉とブドウの力を信じて、何もせずに待つことにした。2017年10月に仕込んだ「konkon2017」が無事に発酵を終えたのは、実に翌年の8月だった。11ヶ月ほどかかったことになる。発酵期間としても非常に長いが、近藤にとってどれだけ長く感じられたかわからない。

近藤はこのときの出来事を思い出し、「一人だったら、途中でやめていた」とつぶやいた。浦本に「救われた」とも話す。ふたりは側から見ていても、絆があるのがうかがえるが、それ以上に醸造家同士にしかわからない信頼関係があるのだと思った。

発酵が終わると、蓋を完全に密閉して熟成する。KONDOヴィンヤードの場合は、北海道斜里製の小さなクヴェヴリに移して12ヶ月貯蔵し、2019年9月に瓶詰めをした。長い発酵期間はワインにどんな味わいをもたらすのだろう。

ブドウの力を信じて待つ

クヴェヴリのワイン造りで最も大変だったことを聞くと、「何もしないで見守る」ことだったと振り返る。

「結局は、ブドウを信じることを試された気がします。言葉にすると、かっこいいですね。最初は信じきれないんです。やったことがないし。醸造全体で常に酸化との闘いというのが見受けられます。ダメになるんじゃないか、という心配は常にあるんです。普通は何か起きると予兆を感じたら、対策をするのが当たり前です。それをがまんして何もしないというのが難しかったですね。

けれど、ジョージアでは歴史上、何もしていなかった。自分はそれを支えにしました。考えてみると、人間が色々と手を加えるようになったのは、ここ150年くらいのものです。ルイ・パスツールによって酵母が発見された後に、近代醸造学が始まっていますから。それまで余計なことなんてしていない。クヴェヴリを使っている以上、ワイン造りの本来の姿を当然として受け止める姿勢が必要だと思いました」

クヴェヴリはジョージアで自然発生的に生まれた世界最古のワイン醸造法だ。8000年の歴史が証明してきた醸造法は、150年の歴史しかない近代醸造と違い、培養酵母も酸化防止剤も加えず、補糖や補酸、脱酸などのコントロールもない。究極のシンプルなのだ。

それは、近藤の畑の土づくりやブドウ栽培に通じるものがある。奇しくも2009年に書かれたブログの文章を思い出す。

「ぶどうが本当に必要としていることを見極めること、人間の勝手な思い込みでおせっかいを強いてはいけないこと、このことを強く意識しておく必要があると思っています」

お話を聞いたのは・・・
近藤良介
KONDOヴィンヤード代表
北海道空知地方でワインを醸造。
2007年に初めて畑を拓き、2020年で14年目。
ソーヴィニヨン・ブランやピノ・ノワールを
「タプ・コプ」「モセウシ」として瓶詰めする一方、
さまざまな品種の混植を「konkon」で瓶詰め。
2017年のブドウからkonkonをクヴェヴリで醸造。
2020年春にリリースを予定している。
<発売情報はHPにて確認できます>
http://www10.plala.or.jp/kondo-vineyard/
<KONDOヴィンヤードのワインが飲める店>
くりやまアンド・アム(北海道栗山町)

取材協力:浦本忠幸(敬称略)

写真提供(一部):KONDOヴィンヤード、ジョージア政府観光局、ジョージア文化・遺跡保護省