連載:万華鏡ワインを造る人
さまざまなブドウが混ざりあって変化する万華鏡ワイン。伝統や品種にとらわれないワインの新しい表現は、ワイナリーの個性や醸造家の思いを最も映し出しているのかもしれません。
第1回目は、北海道空知のKONDOヴィンヤードの近藤良介さん。2012年から混植混醸のブドウで「konkon」というオレンジワインを造られています。最新ヴィンテージでは、ジョージアのクヴェヴリを使ったワインがリリースされました。

konkon
熟し、色づき、
ブドウの個性が混ざりあう。
2012年〜
ソーヴィニヨン・ブラン、シャルドネ、ゲヴェルツトラミネール、ピノ・グリ、シルヴァーナー、ケルナー、オーセロワ、ピノ・ノワールなど
混植で育てられた6〜8種類のブドウを一度に仕込み、白ブドウも果皮や種ごと醸して(スキンコンタクト)、醸造。2017年からはジョージア製のクヴェヴリと北海道斜里窯製の甕で醸造されている。
混植にしたら、混醸にするしかない

デザインは、良介さんの弟で共にKONDOヴィンヤードで働く拓身さんが担当。
ウサギとキツネのストーリーになっている。
《 聞き手 》東京ワインショップガイド編集長・岡本のぞみ

今回は、「konkon」の話を聞きにやってきました。

はい。

ワインから見える近藤さんの思いを探るときに、最も個性が際立っているのがkonkonかと思います。

近藤が造る混植混醸のワインで、konkonですからね。

そうなんです。konkonは混植混醸で、さらに果皮や種ごと醸し発酵してオレンジワインにしている珍しいワインです。
こうしたワインを造るきっかけは何だったんですか?
こうしたワインを造るきっかけは何だったんですか?

KONDOヴィンヤードでワインをリリースしたのは、2011年が1年目なんですけど、konkonは2012年が初ヴィンテージになります。
この年から10Rワイナリーで委託醸造することになって、ある程度好きなようにやらせてもらえるようになったのが始まりです。
この年から10Rワイナリーで委託醸造することになって、ある程度好きなようにやらせてもらえるようになったのが始まりです。

ということは、当初から混植混醸をやりたいという思いがあった?

ええ。私は最初から畑に混植区を作ってランダムにブドウを植えていました。バラバラに植えたら品種ごとに収穫する、なんてことにはならないので、ダーっと獲ってそのまま一緒に仕込む。
つまり、混植したら混醸にするしかないんです。
つまり、混植したら混醸にするしかないんです。

ああ、確かにそうですね。
混植にしたのは、どうしてだったんですか?
混植にしたのは、どうしてだったんですか?

当時、奇跡のリンゴの木村秋則さんのお話を講演で聞いて、
「森の樹は病気にならない」という言葉に引き付けられました。
自分の畑でもそれを実現できればと思ったんです。ワイン造りのイメージ(その後のkonkon)は、植えた後のことなので、植栽当時にはあまりありませんでした。
「森の樹は病気にならない」という言葉に引き付けられました。
自分の畑でもそれを実現できればと思ったんです。ワイン造りのイメージ(その後のkonkon)は、植えた後のことなので、植栽当時にはあまりありませんでした。

そうだったんですね。
実際に弱い品種も強い品種に影響されて、病気にならないメリットもあったんですよね。
以前、お話を聞いたときの、「品種にとらわれない畑の表現をしたかった」という言葉も印象に残っています。
実際に弱い品種も強い品種に影響されて、病気にならないメリットもあったんですよね。
以前、お話を聞いたときの、「品種にとらわれない畑の表現をしたかった」という言葉も印象に残っています。
醸したのは、ブドウがもったいなかったから


では、醸し発酵も当初から思い描いていたんですか?
2010年頃というと、今でいうオレンジワインは、日本でそれほど知られてなかったように思います。
2010年頃というと、今でいうオレンジワインは、日本でそれほど知られてなかったように思います。

そうですね。北イタリアのフリウリで、グラヴネルやラディコンはもうやり始めていたでしょうが、日本では知られていませんでした。
ですから、飲んで味をみて醸しを始めたわけじゃなかったんです。
ですから、飲んで味をみて醸しを始めたわけじゃなかったんです。

では、どんな理由が?

これも自分らしいっちゃ、自分らしいんですけど。植えてから4年経って、思ったよりブドウ栽培に苦労した。それまでサラリーマンでブドウ育てましたけど、自分のワインを造るとなって、やりたいようにやったら本当にブドウが獲れなかった。

当初は農薬を一切、撒いていませんでしたよね。空知は気候も厳しいですし…。

そう。
だから、醸しにしたのは、獲れたブドウを余すことなく使いたいっていうことだけ。
白ワインは、果皮と種を取り除いてジュースにして醸造に入るでしょう。それがもったいなくてしょうがなかった(笑)
だから、醸しにしたのは、獲れたブドウを余すことなく使いたいっていうことだけ。
白ワインは、果皮と種を取り除いてジュースにして醸造に入るでしょう。それがもったいなくてしょうがなかった(笑)

ははは(笑)

笑っちゃうでしょ。
でも実際、醸した方がワインにできる回収率が高いんです。通常、プレスしてワインを造ると、回収率は70%くらい(例:100kgのブドウから70ℓのワインができる)。
でも醸してワインを造ったら、74〜75%は採れるんです。果肉が溶けるので。
でも実際、醸した方がワインにできる回収率が高いんです。通常、プレスしてワインを造ると、回収率は70%くらい(例:100kgのブドウから70ℓのワインができる)。
でも醸してワインを造ったら、74〜75%は採れるんです。果肉が溶けるので。

ブドウをできるだけ使いたい、というのは一生栽培家を名乗る近藤さんらしいですね。
北海道らしいオレンジワイン


とはいえ、醸しをすると味は変わります。長く醸すとフレッシュさはそこなわれる面もあるというか……。

だから、2012年の醸造は、すごく神経を使いました。どのくらいの期間、醸すかっていうことに対して。本当に1日何回も味をみてました。
発酵の終わり頃になると味が急激に変わってくるので。
今だったら、醸しのワインも一般的になって、ジョージアや北イタリアのワインもあるから味の流れもわかるぶん、ビビリはしませんけど、その頃は自分のブドウを醸してどんな味になるのか、想像もつかなかったですね。
発酵の終わり頃になると味が急激に変わってくるので。
今だったら、醸しのワインも一般的になって、ジョージアや北イタリアのワインもあるから味の流れもわかるぶん、ビビリはしませんけど、その頃は自分のブドウを醸してどんな味になるのか、想像もつかなかったですね。

結局、何日くらい醸したんですか?

2週間くらい。それがいい落とし所でした。

そこで醸しをやめようと思った決め手は?

醸してて味が一番変わるのって、種と果皮のエグミが出るときなんです。
あの当時、白ワインを醸しで造るっていうのは、北海道では珍しかった。北海道は寒い地域だから、ブドウの完熟って結構難しいんです。
完熟に至らないブドウってエグミや雑味が多いので、そこは慎重にならなきゃいけない。エグミが自分の許容値を超えたときに、ここまでにしようと思いました。
あの当時、白ワインを醸しで造るっていうのは、北海道では珍しかった。北海道は寒い地域だから、ブドウの完熟って結構難しいんです。
完熟に至らないブドウってエグミや雑味が多いので、そこは慎重にならなきゃいけない。エグミが自分の許容値を超えたときに、ここまでにしようと思いました。

(10Rワイナリーの)ブルースさんは、どうおっしゃってましたか?

醸しをやることに対しては、「近藤がおもしろいことを始めた」と、見守ってくれました。
「後半エグミが強く出るから気をつけた方がいいよ」と、教えてくれたのはブルースさんでした。
「後半エグミが強く出るから気をつけた方がいいよ」と、教えてくれたのはブルースさんでした。

ブルースさんは醸しのワインを造られた経験があったんですか?

ココ・ファーム時代にやってましたね。甲州のブドウで。

そうでした!
(ココ・ファーム・ワイナリー「甲州ミスターブラウン2004」、現「甲州F.O.S.」)
(ココ・ファーム・ワイナリー「甲州ミスターブラウン2004」、現「甲州F.O.S.」)

ブルースさんが目安を示してくれたから、いい判断ができたんだと思います。
順調にいった3年間


2012年の品種構成は覚えていますか?

ええ、多い順にソーヴィニヨン・ブラン、ピノ・ノワール、ゲヴェルツトラミネール、ケルナー、シャルドネ、リースリングの6種類ですね。

2012年は、どんな味わいになりましたか?

その後のkonkonにつながるような味ができました。果実味が残って、北海道らしい爽やかな部分もありながら、味に(果皮や種から)抽出した骨格や厚みもありました。いろんな品種がブレンドされているから、それぞれの味香りも出ていて。色はオレンジでした。

初ヴィンテージから満足のいく出来だったわけですね。

そうですね。320本というわずかなリリースでしたが、飲んだ方にも「今までこういうワインはなかった」とおもしろがってもらえました。

その後、変わっていったところはありましたか?

2012、2013、2014の3年は、ブレずに造りも大きく変わらなかったです。
ただ、2013年はピノ・ノワールがすごく獲れたので、赤に近いロゼ色。2014年からは醸し期間が延びて3週間くらいになりました。
ただ、2013年はピノ・ノワールがすごく獲れたので、赤に近いロゼ色。2014年からは醸し期間が延びて3週間くらいになりました。

意図して変えようというふうにはならなかったんですね?

味に不満がなかったですから。
よく畑の状況を表しているように思えたし、間違いなく他にない味だった。かなりオリジナリティがあって自分としても好きでした。
よく畑の状況を表しているように思えたし、間違いなく他にない味だった。かなりオリジナリティがあって自分としても好きでした。

ラベルを見ると、品種が増えているようですね?

これはブドウが枯れて、苗を植え替えた分です。1年で2〜3%のブドウは枯れますから。
ピノ・グリやシルヴァーナーを植えたので、8品種に増えていると思います。
ピノ・グリやシルヴァーナーを植えたので、8品種に増えていると思います。
2015年は、貴腐ワインの香り


先ほど2014年までは大きく変わっていないと。では、2015年からは変わってるんですか?

特殊事情があって。この頃になると、混植区とは別にピノ・ノワール単独区画のブドウのワインを売り始めていました。ですが、2015年は灰カビがすごくついた年だったんです。

雨が降ったんですか?

はい。収穫期に雨が降って、大量に灰カビのついた貴腐ブドウができました。
普通だったら捨てますが、前年にドメーヌ・タカヒコの曽我貴彦さんが「ナナツモリ ブランドノワール」を造って、貴腐ブドウで結果を出していた。
「これだ!」と思ったんです。捨てるのもったいなかったので。
普通だったら捨てますが、前年にドメーヌ・タカヒコの曽我貴彦さんが「ナナツモリ ブランドノワール」を造って、貴腐ブドウで結果を出していた。
「これだ!」と思ったんです。捨てるのもったいなかったので。

はい、はい。

ただ、ブランドノワール単独で売るには中途半端すぎるので、konkonにブレンドしたんです。
だから、純粋に混植のブドウだけじゃなくて、ピノ・ノワール区画の貴腐ブドウのワインを混ぜました。
だから、純粋に混植のブドウだけじゃなくて、ピノ・ノワール区画の貴腐ブドウのワインを混ぜました。

味は変わりましたか?

変わりました。さらにあやしい…。

ははは(笑)

いわゆる貴腐的なニュアンス、ハチミツみたいな風味が今までのワインに付加されて。好きでしたね。

それは魅力的ですね。結果としておもしろいワインになったと。

そうそう。

2016年は造られていないんですね?

史上最低の不作で、造り分けができなかったんです。
(自社畑のラインナップは)ピノ・ノワール、ソーヴィニヨン・ブラン、混植とあります。ピノは何とか造ったけど、ソーヴィニヨン・ブランと混植を分けると、中途半端になるから白ワインは1アイテムに統一した。それが、「KONDOヴィンヤード ブラン2016」。この年限りのワインです。
だからkonkonの歴史は、2015年で途絶えています。
(自社畑のラインナップは)ピノ・ノワール、ソーヴィニヨン・ブラン、混植とあります。ピノは何とか造ったけど、ソーヴィニヨン・ブランと混植を分けると、中途半端になるから白ワインは1アイテムに統一した。それが、「KONDOヴィンヤード ブラン2016」。この年限りのワインです。
だからkonkonの歴史は、2015年で途絶えています。
――続きは、後編で。今春リリースの「konkonクヴェヴリ2017」について、掘り下げます!
お話を聞いたのは・・・
近藤良介
KONDOヴィンヤード代表
北海道空知地方でワインを醸造。
2007年に初めて畑を拓き、2020年で14年目。
ソーヴィニヨン・ブランやピノ・ノワールを
「タプ・コプ」「モセウシ」として瓶詰めする一方、
さまざまな品種の混植を「konkon」で瓶詰め。
2017年のブドウからkonkonをクヴェヴリで醸造。
2020年春にリリースされた。