万華鏡ワインを造る人 第1回「konkon」KONDOヴィンヤード・近藤良介(後編)

連載:万華鏡ワインを造る人 
さまざまなブドウが混ざりあって変化する万華鏡ワイン。伝統や品種にとらわれないワインの新しい表現は、ワイナリーの個性や醸造家の思いを最も映し出しているのかもしれません。

第1回目は、北海道空知のKONDOヴィンヤードの近藤良介さん。前編では2012−2015年まで振り返ってもらいました。後編では、いよいよクヴェヴリで造った最新ヴィンテージについて聞きます。近藤さんのワイン造りの信念も見えてきました。

konkon

熟し、色づき、
ブドウの個性が混ざりあう。

2012年~
ソーヴィニヨン・ブラン、シャルドネ、ゲヴェルツトラミネール、ピノ・グリ、シルヴァーナー、ケルナー、オーセロワ、ピノ・ノワールなど

混植で育てられた6~8種類のブドウを一度に仕込み、白ブドウも果皮や種とともに醸して(スキンコンタクト)、醸造。2017年からはジョージア製のクヴェヴリと北海道斜里窯製の甕で醸造されている。

目次

konkonはスタイルにとらわれないワイン

「konkonクヴェヴリ」左から2019(醸造中)、2018(醸造中)、2017。
黒ブドウが入った年はロゼ色になる。

《 聞き手 》東京ワインショップガイド編集長・岡本のぞみ

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編集長
いよいよ今春から、「konkonクヴェヴリ2017」が出てkonkonシリーズが復活ですね。
まず、「konkon」がなぜ「konkonクヴェヴリ」になっていったのか。いわゆる、甕を発酵容器として使った経緯を聞かせてください。
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近藤良介
自社畑のキュベは、ピノ・ノワール、ソーヴィニヨン・ブラン、konkonとあります。その中でkonkonの位置付けは、自分のやりたいことを優先して、従来のワイン造りにとらわれないものとしてスタートしています。
単独品種でもないし、白ブドウだから白ワインを造らなきゃってこともないし。そもそも畑は混植だしね。クヴェヴリ醸造は、そういう自由な発想でやってる流れの先で出会ったものでした。
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編集長
はい。
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近藤良介
きっかけは、北イタリアでクヴェヴリ(イタリアではアンフォラと呼ぶ)醸造をやっているパオロ・ヴォドピーヴェッツです。彼が来日したときに私の白ワインを飲んで「発酵容器は天然素材の方が野生酵母の力が発揮できる」とアドバイスをくれました。それで、素焼きの甕を使ったジョージアのクヴェヴリに注目したんです。
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編集長
そしてジョージアに渡り、世界最古のクヴェヴリ醸造を見てこられ、2017年に自身のワイナリーでもクヴェヴリや斜里窯の甕を取り入れて、ワインを醸造されました。

ジョージアが長期醸しへ導いた

クヴェヴリで混植のブドウを仕込む様子。さまざまな色の果皮を持つブドウが混ざりあう。
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編集長
その「konkonクヴェヴリ2017」は、醸し期間が11ヶ月とほかと比べ物にならないくらい長いですよね。
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近藤良介
突き抜けて長い(笑)。
でも、それくらい振り切らなきゃいけなかった
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編集長
そこまで振り切ろうと思ったのは?
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近藤良介
やっぱりジョージアに行ったからですよ。
ジョージアのカヘティ地方でワイン造りの原点を見たら、それが6ヶ月の長期醸しだった。つまり、発酵が終わるまでクヴェヴリに果皮や種ごと入れておくんです。
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編集長
一度それをやってみたのは、自然発生的に生まれたブドウ栽培やワイン造りを尊重されているからですよね?
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近藤良介
はい。でも、北海道だと仕込んですぐに冬が来るから、6ヶ月たっても微生物活動(発酵)が終わらなかった。
それで発酵が終わるまで見届けようとしたら、11ヶ月の長期醸しになったんです。
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編集長
北海道で自然に発酵させてどうなるか、通らなきゃいけない道だったんですね。
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近藤良介
ただ2017年は、初めてクヴェヴリ醸造したチャレンジングな1本。自分の中で、konkonの系譜に達していないと判断して、従来のウサギとキツネのラベルとは別のものになります。
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編集長
今後、クヴェヴリでやるということ自体、近藤さんのワイン造りの支柱になって行くでしょうし。そういう意味では、近藤さんのエッセンスが詰まったワインですね。
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近藤良介
それがおいしいかどうかがまだブレてる。クヴェヴリはライフワークであり、おいしいものを目指すっていうことになるんですけど、その途中ですね、今。
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編集長
改めて、「konkonクヴェヴリ2017」はどんな味わいになっていますか?
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近藤良介
瓶詰めしてからも味が変化しているので、どんなふうに収斂していくかが見通せないんですが、今の時点では果物よりも穀物やハーブやスパイスのニュアンスがあって、非常に熟成した味です。
ただ、果物が盛り返しつつあるので、開けるタイミングで変わってくると思います。
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編集長
私も秋にテイスティングさせてもらいました。そのときとも変わっていますか?
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近藤良介
はい。おりがまだモヤモヤしてますが、これが落ち着くと、清涼感も出てくるでしょうね。
もともと北の産地で造られているので、酸はしっかりありますが、それがまだ輪郭を帯びていない段階なので。今後、収斂していけば芯がとおってくるはずです。

熟成して味わいが一体になるのが理想

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編集長
混醸ワインは、品種の個性が十二単(じゅうにひとえ)のように折り重なっているものと、すべてが一体化しているようなものがあります。konkonはどちらのイメージですか?
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近藤良介
それは熟成によって変わってくると思っています。最初はいろんな味の要素がそれぞれあるんですけど、リリース後、半年から2年くらい経つと混沌として、味にまとまりが出てくる。
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編集長
印象派の絵のような?
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近藤良介
そうかもしれない。全体として1つになるような。
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編集長
ああ。
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近藤良介
段階で変わるんでしょうね。やっぱり置いたほうがいいと思います。例えば、わかりやすい品種として、最初のうちはゲヴェルツとピノ・ノワールを探すことができる。けど数年経つとよくわからなくなる。
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編集長
そっちを目指していきたい?
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近藤良介
そうですね。それが理想。
品種はわからなくていいんです。
「konkonだね」というのが一番いい。

完熟したブドウの力を感じてほしい

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編集長
ちょっと話は変わりますが、KONDOヴィンヤードのワインって、畑の産物ということがすごくわかるワインだなと思っています。
ピノ・ノワールには、いろんなスタイルがありますが、近藤さんのはあまり意図的な感じがせず、旨味がじわじわと溢れてくる完熟したイメージがあります。
それはソーヴィニヨン・ブランもそうで、白トリュフの香りといわれる熟成香が特徴です。
konkonにしても醸しというのはフレッシュさというより熟成の方向性。
近藤さんの中で、そういうものがテーマにあるんでしょうか?
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ブドウの力がマックスになるまで待って、それを仕込むと自分の畑のブドウの力が最大に発揮されると思っています。
ブドウが次の世代に子孫を残すためには種子をきっちり熟させて、植物学的に命を繋いでいくわけです。そこまで到達したブドウってやっぱり力がある。
ブドウは、完熟する直前の方が香りの成分が出るので、早摘みする人もいます。自分はそうじゃなくて、ブドウの力が100のときに収穫して、極力シンプルに仕込んで、混植の畑を表現するイメージです。
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編集長
近藤さんの話には、「熟度」という言葉がよく出てきます。そういう意味なんですね。
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近藤良介
はい。ソーヴィニヨン・ブランも造り始めは果実しか感じられません。完熟したものを熟成して白トリュフといわれるあの風味になる。完熟まで待つということが大事になります。
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編集長
ジョージアに行って、一番ガツンときたのは、ブドウのポテンシャルが北海道と全然違うことだったとおっしゃっていました。
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近藤良介
そう。ルカツィテリというジョージアの主要品種は、果実味もタンニンもあって力強いんだけれど、酸を失わない熟度の高い白ブドウなんです。
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編集長
クヴェヴリで醸すのは、そういうブドウの方が向いていると?
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近藤良介
例えば、ソーヴィニヨン・ブランを醸すとなったら、醸した時点でソーヴィニヨン・ブランらしさは捨てるのと同じなんです。むしろワインの完成度としてどうかというのを問題にしなきゃいけない。
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編集長
ソーヴィニヨン・ブランの爽快さは求められない。ほかに品種で気づいたことはありますか?
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近藤良介
この地域の品種でいうと、シャルドネは醸すに至らないブドウが多いです。北海道ではシャルドネを完熟させるのが難しいので。だから、リースリングのような晩熟品種も醸すのには向いていないと思います。
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編集長
ああ。醸してもスポーツドリンクのようにすーっとなじむような個性のオレンジワインというのがありますね。
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近藤良介
それだと、あまりおもしろいとは思わない。
それよりも、オーセロワの方がよほど可能性があります
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編集長
近藤さんが植えられている、アルザスやドイツ系の白ブドウ品種ですね。どんな特徴があるんですか?
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近藤良介
早熟品種なので、北海道でもちゃんと熟します。味に個性はないんです。けど、醸すときは味の個性ってそこまでなくてもいいんです。
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編集長
と、いうと?
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近藤良介
ジョージアのルカツィテリも味として特質すべきものはない。ただ熟して酸が残ってる。ポテンシャルがすごいっていう印象だけです。
つまり、醸すには、きちんとしたブドウの熟度さえあればいい
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編集長
完熟していろんなものを蓄えたブドウの力やその変化を余すことなく感じられそうですね。
ほかにどんな品種が向いていると思いますか?
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近藤良介
ピノ・グリもいいですね。増やしていきたいと思います。
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編集長
今後、konkonクヴェヴリは醸造で醸し期間などを変えて試行錯誤されると思いますが、栽培の面では品種の構成を変えることも含め、全体として熟度を高めていくということでしょうか?
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近藤良介
はい。この地域なりの熟度にはなりますが、めざせる最高のところまで持っていきたいと思います。
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編集長
空知のきれいな酸とブドウの力を感じる完熟度のマッチング。さらに混植のブドウの個性!
進化していくクヴェヴリワインが年々楽しみです。
ありがとうございました。
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対談の最後に並んで写真を撮らせてもらいました。西陽がまぶしい!

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編集長のあとがき

近藤良介さんがkonkonで表現したかったのは、混植でたくましく育ったブドウの完熟した力。混植を始めたのも、さまざまなブドウが共存していた方が力を発揮できるだろうという考えから。醸しもクヴェヴリも、すべてがブドウの力を発揮する手助けになるという思いが出発点になっています。
そこに至ったのは、植物として種子を残し、生きた証を持ったブドウの方が力強い、と直感したから。植物としての命をまっとうさせたい、それを味わってもらいたい。栽培家として毎日ブドウを見守っている近藤さんらしい着眼点でした。
KONDOヴィンヤードのワインは、前半よりも後半に奥行きや深みがじわじわと溢れでて、余韻が心に残ります。熟成させれば、そうした味わいはもっと深くなるでしょう。ぜひ、ブドウ畑で太陽をいっぱいに浴びている様子を思い浮かべながら飲んでみてはいかがでしょうか。

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北海道でクヴェヴリワイン造りに挑戦するKONDOヴィンヤード

お話を聞いたのは・・・
近藤良介
KONDOヴィンヤード代表
北海道空知地方でワインを醸造。
2007年に初めて畑を拓き、2020年で14年目。
ソーヴィニヨン・ブランやピノ・ノワールを
「タプ・コプ」「モセウシ」として瓶詰めする一方、
さまざまな品種の混植を「konkon」で瓶詰め。
2017年のブドウからkonkonをクヴェヴリで醸造。
2020年春にリリースされた。

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この記事を書いた人

編集長のアバター 編集長 ライター/ワインエキスパート

東京に暮らす40代のライター/ワインエキスパート。
雑誌や書籍、Webメディアを中心に執筆中です。さまざまなジャンルの記事を執筆していますが、食にまつわる仕事が多く、ワインの連載や記事執筆、広告制作も行っています。東京ワインショップガイドは2017年から運営をスタートしました。

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