暮らしの基点にある“酒屋”でありたい


まだ町にワインショップできる前、酒屋はさまざまな役目を果たしていた。醤油やみりんが切れたらかけこむ場所であり、夕方に角打ちで一杯やれる場所だった。御用聞きとして、町の人が元気かどうか目を配ったり、飲食店の鍵を預かったりもしてきた。

時代が流れ、かつての酒屋が地酒専門店やワインショップになって、果たせなくなった役まわりを復活させたのが、二子玉川のNEW VALLEY。ワインショップではなくあえて酒屋を名乗り、暮らしの基点にある店としてオープンした。

店に入ると、まずはこだわりの醤油やみりんが並んでいるのが目に入る。コーヒーの香りが立ち昇り、ワインを1杯飲んでいくことも、買って帰ることもできるお店だ。取材当日も、保育園に子どもを迎えにいく前のお母さん達がベンチに腰を下ろし、井戸端会議のように盛り上がっていた。そこには、生活にとけ込んだワインショップの古くて新しい進化系としての姿があった。

自分の言葉でワインを届けたい

左からワイン担当の小谷佳世さん、オーナーの千葉芳裕さん、コーヒー担当の吉岡裕記さん。カメラを向けると、仲良くNEW VALLEYポーズを決めてくれた。

2020年5月にオープンした「NEW VALLEY」の名は、オーナー千葉芳裕さんのニックネーム・“ムーミン”に由来する。ヴァンパッシオンやラフィネ、ベリーブラザーズ&ラッドといったインポーターで15年働いたキャリアを持つ千葉さんは、その間、ワインの生産者やインポーター、ワインラバーを集めてはワインを飲む勉強会のようなコミュニティを築いていた。

「ワイン業界にいても若いうちは色々なワインを飲めないので、機会を与えたかった。そういう雰囲気のお店がつくりたかったのも開店の1つのきっかけ。僕がムーミンだから自宅はムーミン谷と呼ばれていました。新しく場を移したからNEW VALLEYです」

ワイン業界で長くインポーターで働いてきた千葉さんがワインショップに路線変更したのは、直接お客様に伝える仕事をしたかったから。

「インポーターは、BtoBビジネスなので、どうしても制約がかかって本当に自分がいいと思うものを最終消費者に届けられない。そうではなくちゃんと自分の言葉で、飲む人まで届けたい。その方がお客さんにとってバラエティあるものを届けられるようになります」

実際にそれまでの経験を活かして、王道クラシックから新しい造り手のナチュラルワインまで、さまざまなタイプのワインが紹介されている。こうした場をつくるのに一人の力では実現しない。パートナーに選んだのが、スタッフの小谷さんと吉岡さん。

「小谷は大阪の有名な業務卸酒屋での経験があります。その力を活かして欲しくて上京してもらいました。地元の飲食店への卸売も酒屋の機能として重要だからです。吉岡はコーヒーを専門とする職人で世界的なコンテストにも出場したことがあります。コーヒーもワインと同じように品質の高いものを届けたかったので、構想段階の数年前から声をかけていました」

こうして3人の力が重なって、NEW VALLEYという桃源郷が誕生。地元の人も、ワインラバーも使うたびに集って楽しむワインのあり方を発見できるだろう。今後に向けて、千葉さんから意義込みを聞くと力強いメッセージが返ってきた。

「いいレストランがある町にはいい酒屋があって、活気が出る。ワインの楽しみも町の人に伝えたい。二子玉川にNEW VALLEYがあってよかったと思ってもらえる店にしたいと思います」

ワイン棚がセラーの入口に早変わり


ワインは店内奥の壁に並んでいる約30種類が、その日のおすすめ。今、もっとも飲んで欲しいワインを知ることができる。


たくさんのなかから選びたい、という人に向けては、ワインの棚がセラーの入口に早変わり。セラーには約500種類のワインがあり、タイプもさまざま。

「人それぞれワインの好みはいろいろ。クリュッグしか飲まない人もナチュラルワインしか飲まない人もいて、それがワインの文化。それを強要することはできないので、お客様のワインライフに沿えるよう幅広いスタイルのワインを扱っています。ただ、そこに自分なりの品質の基準もしっかりあります」

ブルゴーニュの良さもナチュラルワインの良さもわかったうえで、品質の線引きをして提案してくれる。さらにもう1つ基準としてあるのが、「バイヤーの顔が見えるワイン」だと言う。

「インポーターは物流量が見込めそうだと言う理由で扱っているものもあります。そうではなく、どれだけそのバイヤーが納得してものを選んでるかが大切。信じられるバイヤーから買うのも1つの方法です」

自分の目利きで、これぞと見出したワインには価値が隠れていることがわかっているのだろう。ワイン業界が長いからこそのワイン選びだ。実際にワインセラーを見ると、1500円〜100万円まで値段の幅が広い。ワイン単体のおいしさもさることながら、「食卓が想像できるワイン選び」も得意。用途に応じて、相談してみよう。

店内のレイアウトをチェック

入って右手には、“酒屋”らしく醤油や味噌、コーヒーの棚があって、生活に必要なものを買うことができる。


コーヒーは、吉岡さんがローストしたものが並ぶ。良質な豆を使って、素材が生きる焙煎を心がけているそう。ドリッパーなどの道具も購入できる。


エスプレッソマシンのある前はベンチのあるカフェスペース。座っておしゃべりするのにぴったり。エスプレッソマシンは、約300万円(!)するというほど高価で、性能も優れている。
「エスプレッソだからと濃く苦い抽出ではなく、素材のポテンシャルを生かすプロセスにしています。ミルクを入れてハーモニーを楽しむカプチーノやカフェラテもおすすめです」と吉岡さん。


店内奥のスタンディングバースペースには、常時日替わりで約15種類のワインが開けられている。グラス1杯500円〜1万円まで。ブルゴーニュのグランクリュが出た日もあったそう!


入口近くの冷蔵ケースには、千葉さんが食べて納得した食品や飲み物だけが置かれている。チーズは、スタンディングバーのおつまみとして店内で食べてもOK。


コーヒやエスプレッソ、カフェラテのほか、紅茶やお茶菓子、子どものためのミルクも用意されている。

おすすめは南アフリカのピノ・ノワール

「フレダ ピノ・ノワール 2017」ストーム・ワインズ¥6,300(税抜き)

おすすめとして紹介してもらったのは、棚にも並ぶ南アフリカのピノ・ノワール。
「試飲会で飲んで衝撃を受けた1本です。ニュージーランドのトップピノ・ノワールのベルヒルという2万円近くするワインを連想させる味。南アフリカというと洗練されていない雰囲気がありましたが、このピノ・ノワールはブルゴーニュにも負けていない。今後、南アフリカのピノ・ノワールのベンチマークになっていくと思います」
南アフリカを代表する新しい味をチェックしてみよう。

週末は珍しいワインでイベントを実施


人が集う酒屋は、週末に実施されるイベントでも体現されている。数本しか入荷しない珍しいワインを中心にテーマを決定。なかなか飲めないワインに遭遇できることもあるので、Facebookの告知をチェックしてみて。
また、早朝9時から開店する土日は、パーラー江古田のサンドイッチが販売される。週末は、おいしいパンとコーヒーで幸せな1日のスタートを切ってみよう。

NEW VALLEY
世田谷区玉川3-23-24
03-6431-0132
13:00〜22:00(土 9:00〜22:00、日9:00〜19:00)
月曜定休
Facebook:@newvalleytokyo
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