多種多様なワインが発掘できる宝庫
ワイン好きにとって、見たこともないワインがたくさん並ぶワインショップほど、ワクワクするものはない。ところ狭しとワインが並べられた棚を巡ると、珍しい品種や産地のワインが揃う。未知なるワインを1本また1本と見つけると、どれを買おうか迷ってしまう。そんなうれしいような、困ってしまうような気分が味わえるのが「ラ・カンティーナ・ベッショ」。2020年秋頃から着手された改装を終え、少し迷宮ぶりが解消されたが、多種多様なワインが発掘できる店であることは間違いない。
ワインショップの前は、風変わりな街の酒屋
ラ・カンティーナ・ベッショの店主は、生まれも育ちも渋谷区神宮前という別所正浩さん。こちらのお店の前身である別所商店は、神宮前に代々続く街の酒屋さん。三代目の別所さんが継いでからは、ワインがやたら多くて、手作り弁当が人気の一風変わった酒屋だったそう。道路沿いにあったその店を大手コンビニ(セブンイレブン)に貸したのを機に、奥にあった倉庫で2011年にオープンしたのが、現在のラ・カンティーナ・ベッショだ。
「それまで別所商店にあったワインと僕が集めたワインでオープンしたのが、この店。酒屋時代は、1万円のワインの隣にカップラーメンがあったんで、“変な店”と呼ばれていました。でもワインショップになった途端、ワイン好きの人に“すごい店”と言われるようになったんだから、おかしいでしょ」と笑う別所さん。
どれだけの量があるかを聞いたところ、大型店ではないのに3000種類あるというから驚き。しかも、ワインの品種で数えても250種類くらいを揃えているという。どおりで見たこともないワインが多いはずだ。
地ブドウハンターが導く、ワインバラエティの世界
別所さんが店づくりをとおして伝えたいのは、個性豊かなワインの世界を知ってもらいたいということ。
「ワインは世界一種類が多いお酒で、それがおもしろいところ。品種の名前は知らなくても、種類によって味が違うのは誰にでもわかる。つまり人それぞれ好みのワインがあるはず。そう考えると、全然難しくないでしょ。だから、市場で売れてるワインを買うんじゃなくて、自分好みのワインを見つけてほしいというのが僕の思い。みんな自分の彼女を世界一の美女だと思ってないけど、世界一愛しているでしょ。そんな感覚で選べるワインを揃えています」
元々、大学生の頃までお酒が得意でなかった別所さんがワインの魅力に導かれたのも、その多様性にある。樽がこってり効いたシャルドネにハマった時もあれば、妖艶な香りをもつピノ・ノワールに魅了されたこともある。そんな別所さんがいま、愛してやまないと公言しているのは、イタリアワイン。実際に、店のラインナップの半分はイタリア。それはなぜ?
「ワインの多様性を最も表現しているのがイタリアだから。20州それぞれに地ブドウがあって、それを尊重している。僕は、”地ブドウハンター”を自認しています(笑)。ぶどうのバラエティを楽しむなら、間違いなくイタリアだと思う」と、その理由を聞かせてくれた。別所さんは、“イタリアワイン親父”の異名も持ち、お客さんからもワイン業界人からも慕われる存在。イタリアワインについて聞きたいことがあれば、何でも質問してみよう。
店内のレイアウトをチェック
店内はワイン迷宮(!)になっているため、どこにどの産地のワインがあるか、あらかじめチェックしておきたい。入って手前側はイタリアゾーン。改めて見ると、ピエモンテ州の多さに気づく。別所さんのお気に入り産地だ。その後ろにあるのがヨーロッパやアメリカを始めとした新世界のワイン。一番奥の列には、シャンパーニュとスパークリングワイン、フランスワインがある。イタリアワインの多さで知られる店だが、シャンパーニュの充実ぶりにも目を見張るものがある。デイリーワインやおすすめワインはレジ近くにある。
入口からすぐ手前の右側のピエモンテゾーンはバローロがぎっしり。優良生産者のバローロは、5000円台からあり、16万円の高価なバローロもある。
店内奥には、別所さんの盟友であり、イタリアワインを日本に普及させるのに尽力した内藤和雄さんのパネルが見守る。内藤さんの月命日にちなんで、毎月22日は、“VIVA ITALIAの日”でイタリアワインが10%オフになる。
イタリア中部ゾーンの下段には、グラッパや甘口ワイン、リキュールがずらりと充実。奥に見えるのはシャンパーニュ。優良な小規模生産者のシャンパーニュもある。
店内の至るところに来日した生産者のサインが描かれている。生産者にも愛されている店だ。
おすすめは、死ぬ前に飲みたいキャンティ・クラッシコの最高峰
別所さんにおすすめを聞いたところ、「僕が死ぬ前に飲みたいと思っているワイン」を紹介してくれた。それが、右の「ペルカルロ」。もう少し手頃なものもお願いしたら、同じ生産者のキャンティ・クラッシコを推してくれた。
「このサン・ジュースト・ア・レンテンナーノという生産者が好きすぎて、話をすれば1時間では足りないかも(笑)。僕にとってイタリアのキャンティ・クラッシコ最高峰と言える生産者です。それはサンジョベーゼというブドウをワインとして体現してるから。お店でも2002年くらいから扱っています」
最高ランクのペルカルロと通常のキャンティ・クラッシコを同時に推せるのには、理由がある。
「この生産者は最高のキャティ・クラッシコを造るために、サンジョベーゼを造っています。そのうち、その年に採れた選りすぐりのぶどうを使ったのがペルカルロ。つまり、キャンティ・クラシッシコもペルカルロも基本的な造りは同じ。値段の差はブドウの品質や熟成期間だけ。キャンティ・クラッシコにしても納得いくものを造っていて、出荷量も4万本程度。普及ラベルと考えると、とても限られた量です。実際、キャンティ・クラッシコにもナンバリングしてありますよ」
時間のある時には、ぜひ別所さんのサン・ジュースト・ア・レンテンナーノへの愛を聞きに行ってほしい。
ゆっくり1人で探すのも、おすすめを聞くのもOK
買い物をするときは、じっくり1人で見て回っても、別所さんにワインの話を聞いてもOK。店内には、袋小路のような場所もあるが、後を追いかけて接客されるようなことはない。
「僕自身、ワインショップに行って、”バッグを預けてください”と言われるのは嫌。そんな接客、やりたくないからね」と別所さん。ワイン好きの人は時間を忘れて、気になる1本を見つけてほしい。
もちろん、ワイン初心者も大歓迎。好みを伝えて相談するのがおすすめ。別所さんは、インポーターの試飲会に足繁く通うのみならず、店内に置くすべてのワインを本気飲みしていることで業界で一目置かれる存在。どんな味がするのかはもちろん、生産者のこだわりもとことん教えてくれる。
「基本的に自分がいいと思ったワインしか仕入れていないから、何でも聞いてください。1時間でも2時間でも話します。店内には1000円台のワインもありますが、ほとんどが2000円以上。それだけのお金を出してもらうんだから、納得して買ってほしい。もちろん話を聞いたからといって買わなきゃいけないということもない。入ったら絶対買わなきゃいけない店なんて、おかしいでしょ(笑)」
お店の急な営業時間の変更や生産者情報は、Facebookやインスタグラムでも公開されている。ワインへの愛が詰まった情報発信も、ぜひチェックしてほしい。
La Cantina BESSHO
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