ワイナリー解体新書 千歳ワイナリー(北海道)

ワイナリーの魅力を探る新連載の第2回は、千歳ワイナリー。北ワインやハスカップワインで知られる北海道のワイナリーです。キーワードをもとに、素朴なギモンをクリアしていきます。

千歳ワイナリーの素朴なギモン
・ピノノワールとケルナーに絞ってワイン造りをしているのは、なぜ?
・山梨の中央葡萄酒とは、どんなつながりがあるの?
・ハスカップワインって、どんなもの?

千歳ワイナリーHISTORY

1988年創業。ハスカップワインの製造を開始
1992年木村農園と契約
1993〜94年1haの契約区画にブドウを植樹
2011年4月山梨県中央葡萄酒より分社、翌年4月三澤計史氏が代表取締役に就任
2012年商標をグレイスワインから「北ワイン」に変更、ラベルも刷新
2017年石蔵をモチーフとした現在の北ワインラベルにリニューアル
「北ワイン ケルナー2015」が日本ワインコンクール金賞受賞
2019年ハスカップワインのリブランド・リニューアル

年間生産本数 33,000本
醸造責任者 青木康宏
栽培品種 ピノ・ノワール、ケルナー

目次

キーワード1  創業のきっかけはハスカップ


千歳ワイナリーの歴史は、実はハスカップワインから始まっています。ハスカップとは「アイヌの不老長寿の果物」として、北海道に分布する果物です。ブルーベリーに似ていますが、円錐形をしているのが特徴。かつて千歳は有数の群生地として知られていました。1978、9年頃からは、減反政策の転作用にハスカップの栽培が始まり、地元をあげて千歳の特産物にしようという動きがありました。ただハスカップは生食するには賞味期限が短いことから、東京などの大消費地向けにはアイスクリームやジャムの加工品としての出荷を模索。当時の千歳市農協はハスカップをフルーツワインにして広め、ワイナリーを地域活性の拠点にしたいと切望していました。そこで白羽の矢が立ったのが、ワイン造りで評価の高い山梨県の中央葡萄酒でした。一方の中央葡萄酒としても、冷涼地・北海道でピノノワールのワイン造りに挑戦したいとの思いがありました。こうして両者の志が一致し、1988年に「北海道中央葡萄酒」として創業。まずは、ハスカップワインの醸造所としてスタートを切りました。

キーワード2  畑の名手・木村農園との歩み

木村農園のブドウ畑。小高いなだらかな丘が連続した余市・登地区にある

山梨の中央葡萄酒といえば、地元品種「甲州」の品質向上に貢献したワイナリーとして知られています。一方で、80年代からカベルネ・ソーヴィニヨンやメルローなどの国際品種の試験的な栽培を模索していました。第二のワイナリーとして北海道中央葡萄酒を創業する際にも、冷涼な気候を活かした国際品種でワインを造りたい、との思いがありました。そのときに、最もワイン造りを希望した品種が「ピノノワール」です。
パートナーとしてタッグを組んだのが余市の木村農園。今でこそ北海道でピノノワールの栽培は珍しくありませんが、当時力を入れていた栽培農家といえば木村農園だけでした。木村農園では、「ケルナー」も育てていたことから、93年からピノノワールとケルナーでのワイン造りをスタート。お互い品質の向上を目的にして力を合わせていき、現在までその歩みを継続。そのため、ワインはピノノワールとケルナーを使ったラインナップになっています。

キーワード3 木村農園との二人三脚でピノノワールを成功

余市・木村農園の最も古い区画のピノノワール。樹齢35年の風格あるブドウ樹

千歳ワイナリーは、1992年からピノノワールとケルナーのワイン造りのため、木村農園とともに歩み始めます。特に、ピノノワールは気むずかしい品種として知られ、当時の北海道では成功例がありませんでした。原因は不明でしたが、何しろ果実味がうまくのりません。木村農園の木村幸司さんは、「レモン水のようでした」と当時を振り返ったほど。しかし、何も手をこまねいていたわけではありません。
余市の畑に合った方法を探るべく、樹間の長さや仕立て方、葉の残し方など、さまざまに試行錯誤を重ねます。畑に合った株を選抜し(=マサルセレクション )、何度か改植もしてきました。
「マサルセレクションによる効果は大きいと思います。ブドウ栽培には、特に若木の幼少期の頃の栽培管理は重要です。年月とともにそのノウハウが蓄積されていったのだと思います」と三澤計史社長。
こうした最中、気候に変動が起きます。2004年9月、猛烈な勢いのまま台風が北海道まで到達。後に激甚災害に指定された平成16年台風第18号が上陸したのです。それが気候が温暖に傾いた合図となり、少しずつ熟度の高いブドウが獲れる年が続きました。
4年後には、果粒肥大期である8月9月の天候に恵まれた素晴らしいヴィンテージとなり、十分にブドウが成熟。2008年は、これまでにない品質のワインが完成したのです。契約を結んでから、実に約16年が経っていました。
それまでの長い年月を振り返り、「お互いがいなかったらやめていたかも」と両者。千歳ワイナリーと木村農園の二人三脚がピノノワールの成功をもたらしたのです。これ以降、北海道ではたくさんのワイナリーでピノノワールが造られるようになりました。
現在も千歳ワイナリーと木村農園では、ワンランクアップした品質をさらに高めようと努力が続けられています。

キーワード4 ケルナーとピノノワールで多彩なワインに

ケルナーとピノノワールを使って、さまざまなタイプのワインが造られています。白ブドウのケルナーからは華やかな香りが漂う「北ワイン ケルナー スパークリング」、伸びやかな酸が魅力の白ワイン「北ワイン ケルナー 」を醸造。遅摘みして甘みを引き出した「北ワイン ケルナー スイート」や「北ワイン ケルナー レイトハーベスト(2010年、2014年、2019年のみ)」もあります。
黒ブドウのピノノワールからは「北ワイン ピノノワールロゼ」、「北ワインピノノワール」、「北ワインピノノワールプライベートリザーブ」が醸造されています。
赤ワイン用のピノノワール区画には、世代が異なる区画がおおよそ3つあります。千歳ワイナリーでは、それぞれを別仕込みし、9ヶ月間小樽熟成させます。その後、バレルテイスティングして選抜されたものだけが、さらに1年間の瓶熟成されます。これが「北ワイン ピノノワール プライベートリザーブ」となります。こちらは、ピノノワール全体の約1/4の貴重なワイン。長期熟成に向くタイプなので、少し寝かせて楽しみたい人におすすめです。

キーワード5 タイプ豊富なハスカップワイン

2019年にラベルがリニューアルされ、千歳の鳥・ヤマセミがモチーフになっている

千歳ワイナリーには、ブドウから造ったワイン以外にハスカップで造られたフルーツワインがあります。ハスカップをジュースやソフトクリームで味わったことはあっても、ワインで味わったことがある人は少ないかもしれません。ハスカップワインは通常のワインよりも渋みが少なく、フルーティーな味。千歳ワイナリーでは、「スパークリング」「セミドライ」「スイート」「プレミアムスイート」の4種類を発売。ハスカップスイートが定番として人気ですが、2014年からは瓶内二次発酵で造る手のかかったスパークリングワインもラインナップに加わりました。ハスカップワイン造りに30年以上の歴史を持つワイナリーならではのバラエティ豊かな品揃え。きっと好みの味が見つかるはずです。千歳ワイナリーでは、見学の際にハスカップの試飲ができるようになっています。

キーワード6 北海道のブドウでエレガントなワインを

代表取締役を務める三澤計史社長

千歳ワイナリーがめざすのは、ピノノワールとケルナーでエレガントな味を造りだすこと。ワインを醸造しその味を見きわめるのは、三澤計史社長と醸造責任者の青木康宏工場長。ふたりのもつ味覚と経験値を合わせ、ワインが造られています。
三澤社長は、山梨・中央葡萄酒の三澤茂計社長の長男で、ワインファミリーの一員として育ち、アメリカで学んだ後、北海道に移住。千歳ワイナリーを任されています。青木工場長も山梨県出身で、山梨大学で学び2000年に中央葡萄酒に入社。ワイン科学士の認定も受けています。
「私はワイナリーを経営する家庭で育ち、醸造家の父や姉と同じものを食べ、それが私の味覚を育ててきました。当然ながら、ワインに対する感覚も家族で共通していると思います。青木は醸造家として、最新の技術を取り入れ、柔軟な感覚を持ちながら、ワインを仕込んでいます。ですから、職人的なものづくりの感覚と新しい発想や技術の両方が活かされ、千歳ワイナリーの味が完成するのです。ピノノワールは繊細かつエレガントに、ケルナーは爽やかでフレッシュに仕上げるのが私たちの務め。力強さとは違う上品な味を表現したいと思います」と三澤社長。
木村農園の手によって育てられたブドウには、冷涼な北海道ならではの魅力が詰まっています。そこへ三澤社長と青木工場長の感性と技術が加わり、エレガントな味わいに仕立てられます。千歳ワイナリーのワインからは、北海道の風土と歴史、人間味を感じるピュアな風味を感じ取ることができるでしょう。

キーワード7 ストーリーを知るワイナリー見学


千歳ワイナリーでは通年で見学を受け付けています。かつて穀物倉だった石蔵のワイナリーには、ショップと醸造施設を併設。前日までの予約で、テイスティングを含むワイナリーツアーができます。
醸造施設では設備を見学しながら、醸造工程を説明してもらえるので、どんなふうにワインが造られているかを知ることができます。試飲したい方は、ハスカップワインまたはケルナー2種の無料テイスティング、ワイン4種類の有料テイスティング(2,000円)が用意されています。ワインの種類は日替わりで、タイプや収穫年の違うワインが楽しめます。
「無料の見学ツアーではワイン造りのプロセス、有料のテイスティングツアーではワインのストーリーを中心にお話しします。初めて来られる方でも、2回目以降の方でも楽しんでいただけるよう、内容はフレキシブルに変えていますし、毎年ワインも変わります。ワインを介して繋がる時間をお楽しみください」と三澤社長。
ワイナリーショップには、流通量の少ないワインが並んでいることもあります。新千歳空港や札幌からも近いので、ぜひ足を運んでみましょう。

*テイスティングは時期によって中止されている場合があります。ホームページをご確認のうえ、お出かけください。

千歳ワイナリー
北海道千歳市高台1-7
0123-27-2460
9:00〜17:00 *見学は予約制
4月~10月:無休 11月~3月:土日祝、年末年始休み
www.chitose-winery.jp/

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この記事を書いた人

編集長のアバター 編集長 ライター/ワインエキスパート

東京に暮らす40代のライター/ワインエキスパート。
雑誌や書籍、Webメディアを中心に執筆中です。さまざまなジャンルの記事を執筆していますが、食にまつわる仕事が多く、ワインの連載や記事執筆、広告制作も行っています。東京ワインショップガイドは2017年から運営をスタートしました。

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