ジョージアのアンバーワインは、世界でブームになっているオレンジワインの源流として知られています。クヴェヴリという甕(かめ)によるワイン造りは世界最古にして超自然派。身にしみわたるような素朴さと、いつまでも飲んでいたくなる味わいがあります。それは、琥珀が数千年の年月を経て輝きを宿す姿とも重なって、オレンジワインなどと軽く言うべきでない存在感を放っています。
しかし、このジョージアのアンバーワインについて、知らないことも多いもの。そこで、ジョージアワインも扱うノンナアンドシディショップに直行。店長の岩井さんに、この7年間、年に一度は現地を訪れている輸入元ノンナアンドシディの岡崎玲子さんを紹介していただき、話を聞かせてもらうことに。ジョージアワインの現在までの流れや今盛り上がりつつある気運について教えてもらいました。

左が岡崎玲子さん。右はノンナアンドシディショップの店長・岩井いずみさん

まずはおさらい!ジョージアワインとは?

琥珀色に輝くジョージアのアンバーワイン。白ブドウから造られているのに、琥珀色になるのは造り方に秘密があります。それは、発酵するときにブドウ果汁だけでなく果皮や果肉、果梗、種を入れて発酵させるから。さらにジョージアではクヴェヴリという素焼きの甕(かめ)をすっぽり土中に埋めることで、ヒビ割れを防ぎ、液体をさまざまな菌から保護しつつ、呼吸させる役割があります。その結果、酸化防止剤に頼らない生き生きとしたワインが誕生するのです。
ちなみに、甕を土中に入れるといっても、ワイナリー(「マラニ」と呼ぶ)の屋内に置かれることがほとんど。ただ、まれに庭など屋外に埋めて造られることもあるようです。日本人にとって発酵食品を甕で造るという方法自体は、焼酎や黒酢でなじみがあります。しかし、それを土に埋めるという発想が優れた知恵だと感服せずにいられません。殺菌作用もさることながら、再び土で育てているかのような造り方に大地のパワーを享受した神秘性を感じさせます。

このワイン造りが始まったのは、8000年もの昔。つまりジョージアワインは、世界最古のワインにして自然派ワインの理想が完成されていたのです。その数千年もの間、ジョージアでは主に自家製ワインとして親しまれ、産業として表に出てくることはありませんでした。逆に、それがこの製法を守り続けてこられた理由でもあります。

私の話になりますが、うちの祖母は梨農家で、その年に採れた一番上等の梨を孫たちのために取っておいてくれました。自家製のものには、そうした気持ちが働きます。ジョージアの人々が8000年もの間、“秘蔵”にしたものには先人の尊さが隠れているのです。

ジョージアの造り手はどんな人たち?


このクヴェヴリで造られたワインを私たちは「ジョージアワイン」と呼んでいますが、実はクヴェヴリワインはジョージア全体のわずか2%。クヴェヴリワインが造られているのは、主にジョージア東部のカヘティ地方。首都トビリシにも近い黒海とは反対側の地域です。そのほか、イメレティやカルトリ地方などでも造られています。岡崎さんによると、このカヘティの生産者達がワインに負けず劣らず魅力的なのだそう。

「初めてジョージアを訪れたのは、2012年のことでした。生産者たちは陽気で仲が良く、いつもみんなでワイワイとしています。今でも日本から連絡をとると、“今度はいつ帰ってくるの?”と言ってくれる心の温かい人たち。またすぐに行かなくちゃと思わせてくれます。うちはオリーブオイルの輸入から始まって生産者の紹介でワインの輸入も始まりましたが、ジョージアワインもそうした生産者からの紹介です。ジョージアを訪ねると、次から次へ仲の良い生産者を紹介されて、今では20人の生産者のワインを扱っているんですよ」と、生産者のことを思い出し岡崎さんはにっこり。そんなカヘティのワイン生産者達は、地元で古くからワイン生産をやってきた人たちかというとそうではありません(産業ではなかったので当然といえば当然ですが)。その中心といえる人物が、トビリシで文芸誌の編集者をしていたソリコ・ツァイシュヴィリさんやアメリカから移住した画家のジョン・ワーデマンさんなど。他にも彫刻家、数学者、言語学者などさまざまな職業をしていた人が多いのが特徴。外国人や外国在住経験がある人もいて、外から見たそのワインに魅せられてワイン造りを始めた人が多くいます。

「本当ならもっと儲かる仕事ができるのに、辞めてワインにのめり込んだ人たち。きれいな心で真剣に自然と向き合っています」と岡崎さん。ちなみに、そんな岡崎さん自身、25年前にオリーブオイルを輸入したいと会社をつくる前は画家だったそう。成功が約束されていたにも関わらず、「お金のために描かなくてはならなくなったとき、絵筆が手につかなくなった」そう。造り手とインポーターと立場は違えど、ジョージアワインはそんな人達に支えられているのです。

ジョージアワインの生産者たちは、自家製にとどまらないワイン造りを志し、その伝統的な醸造法を紐解こうと勉強会を始めます。それが、ソリコ・ツァイシュヴィリさん、イメレティ地方のラマズ・ニコラゼさんで立ち上げた「クヴェヴリ・ワイン協会」です。その後、環境と人々に配慮した伝統的なワイン造りに共鳴した生産者も加わって、トビリシにある「ヴィーノアンダーグラウンド」という地下ワインバーを拠点に情報交換。古き素晴らしきワイン造りの純正濃度を高めていき、今日、世界へ輸入されている珠玉のワインを個々に完成させていきました。

アメリカ人によって広められたジョージアワイン

このジョージアワインを世界に広めるのに一役買ったのが、アメリカから移住してワイン造りをしていた「フェザンツ・ティアーズ」のジョン・ワーデマンさん。外国人という自らの立場を役立て、2018年までパスポートの規制が厳しく国外を訪れるのが難しかったジョージア人に代わって、ジョージアのみんなのワインをアメリカに持ち込んで紹介。それが著名なジャーナリストのアリス・フェリングさんの目にとまって1冊の本に上梓されます。

折しも自然なワイン造りが世界で求められている昨今。オリジナリティも歴史もあるジョージアワインを放っておくわけがありません。彼女とジョンによってイタリアの見本市などに紹介されてから、世界のワイン関係者がジョージアに注目するまで時間はかかりませんでした。やがてジョージアを訪れるワイン関係者がいれば、英語・ロシア語・グルジア語を話せるジョンさんが通訳。世界でジョージアワインが知られるようになったのは、彼の存在なくしてはあり得なかったかもしれません。

ジョージアワインの現在とこれから

2013年にユネスコ世界文化遺産に登録されたジョージアのクヴェヴリワイン造り。日本でも同年より、ノンナアンドシディとラシーヌの2社によって輸入され始めました。世界でも、アメリカ、スペイン、イタリア、フランスで注目され、特にオーガニック意識の高い北欧での人気は高いそう。

この間、毎年ジョージアを訪れている岡崎さんによると、ジョージアは急速に変化。訪れる人も爆発的に増えたと言います。
「国もワイン産業を盛り上げていこうとしていて、それに伴ってワイナリーの受け入れ体制が整い、ワイン関係の見学者が増えています。私が6、7年前に生産者を訪ねたときの家庭的な案内が懐かしいくらい。また、2018年にはジョージア人のパスポートも規制緩和されました。国外へアピールし始める生産者も増えて、どんどん外国に出て行っています」。ワイナリー以外でも町にマクドナルドやスターバックスができるなど、国際化を感じる風景が増えたようです。

残念なところでは、ジョージアワインを引っ張ってきた「アワ・ワイン」のソリコ・ツァイシュヴィリさんが昨年、天国へ旅立ちました。しかし、彼が愛したワインバー「ヴィーノアンダーグランド」でクヴェヴリワインを飲んで感動した若者(第二世代)が、ワイン造りを始めるという流れができています。

トビリシにあるヴィーノアンダーグラウンドは、上記の通り、ソリコさんら第一世代がジョージアのクヴェヴリワインについて議論しあった場所ですが、通常はナチュラルワインバーとして営業中。クヴェヴリ・ワイン協会メンバーのワインがグラスで飲める場となっています。彼らのワインはジョージアの若者がボトルで買って飲むには高価であり貴重なもの。グラスで飲んで気軽にふれあえたことが若者がワイン造りを志すきっかけになりました。

その代表格といえるのが「ラガジ」のショータ・ラガジゼさん。観光管理会社の社員だった頃から友人とワイン造りをスタートし、独立。まだ30歳に満たない彼ですが、次世代のホープとして期待されています。

世界の生産者を魅了し、広がるクヴェヴリワイン造り

クヴェヴリワイン造りは、自然なワイン造りを追求してきた世界のワイン生産者たちにも影響を与えています。2000年にカヘティを訪れ、いち早くそのワインに魅了されたのは、イタリアのフリウリ=ジュリア・ヴェネツィア州のヨスコ・グラヴネル。彼は地元オスラヴィアでジョージアのワイン造りを実践。さらに彼の影響を受けた同じオスラヴィアのスタニスラホ・ラディコンらによって同地方などで醸しワイン造りが広がりました。

その後も、クヴェヴリワイン造りを求めてジョージアを訪れるヨーロッパ各国の生産者が続きます。岡崎さんによると、それはソリコらの親切さも鍵になっているそう。
「彼らはクヴェヴリワイン造りのノウハウを何でも聞いてくれという姿勢を持っています。どうやってワイン造りをしたら良いか、何を大切にしたら良いか、すべて包み隠さずに教えてくれる、気持ちが豊かですよね」。自分達の信じるワインは純粋に素晴らしい。そんなジョージアワイン生産者の気持ちが行動に表れているのでしょう。

実は、そんな生産者のなかに日本人もいます。北海道・空知地方の「KONDOヴィンヤード」近藤良介さんです。彼は自然なブドウ栽培やワイン造りを模索するなかでクヴェヴリに到達。JICA(国際協力機構)のサポートと岡崎さんのアドバイスの下、2016年9月の仕込み時期にジョージアを訪れます。そこで、クヴェヴリワイン造りを目の当たりにし、クヴェヴリを入手。自らのワイナリーで2017年と2018年の収穫の一部をクヴェヴリで仕込んでいます。そのワインはまだ瓶詰めされていないものの、味見したところ、冷涼な気候で育った空知のブドウにも関わらず、ジョージアワインのようなふくよかさがあったそう。クヴェヴリ醸造を実践した近藤さんによると、その本質は土にあるのではと言います。

「クヴェヴリ醸造は、私の感覚では埋めて使うのが絶対条件。土から直接くるエネルギーもそうでしょうし、安定性という点でも大事。土の中は微動だにしませんし静か。温度・湿度も保たれますし、土地の個性をも表現するのだと思います」と力を込めて語ってくれた。ワインを造るうえではブドウが最も大切な要素ですが、土で埋めることでもう1つ新たに土地の個性が出せる可能性を示唆しているのかもしれません。

クヴェヴリワイン造りをする、注目の生産者

さらに新しい流れとして、ジョージアに住んだのちに自国にノウハウを持ち帰ったり、海外からジョージアに移住する人もいると岡崎さん。そんな生産者を紹介してもらいました。

ジョージアに住んだ後、地元フランス・北ローヌのサン・ジョセフでワイン造りをしているのは、「ドメーヌ・デ・ミケット」のポール・エスティヴェ夫妻。代表銘柄の「MADLOBA(マドロバ)」はジョージア語で「ありがとう」の意味。ラベルにはクヴェヴリから出てきたがらない人が描かれています。実はこれジョージア最後の夜に帰りたくなくて、クヴェヴリに入った自身なのだそう。こんなところにもジョージアに対する愛情と敬意が感じられます。白ワインは、マルサンヌとヴィオニエ、赤ワインはシラーの地品種を使用し、クヴェヴリで醸造。「獣のよう」といわれるサン・ジョセフのシラーにはないフルーティーさとビロードのような質感があります。

岡崎さんがジョージアでフェザンツ・ティアーズのジョン・ワーデマンさんに紹介してもらって出会ったのが、イタリア・ピエモンテ州「ファビオ・ジェア」。彼はジョージアのクヴェヴリに影響を受け、独自の醸造を実験中。磁器のアンフォラ(壺)を池に浮かべ、魚が泳ぐ揺れで中を攪拌させるという自然に任せた方法をとっています。ブドウ栽培は自然農法の父・福岡正信氏を師匠と仰ぎ、熟成させる樽はトースト香をつけたくないと火山岩を熱しサウナ状態にして曲げているというこだわりよう。ジョージア人に負けず劣らずの奇才です。

ジョージアに移住してワインを造り始める人もいます。まだワインが完成されていないので詳しくは紹介できませんが、岡崎さんの知る限りジョン・ワーデマンさんと同じアメリカ出身の25歳の女性や、メキシコですでに人気ワインを造っているにも関わらず畑を買って来年からジョージアでワイン造りを始める男性がいるそうです。

ジョージアのアンバーワインは、8000年もの間、変わらないことで守られきました。そして今、偉大な醸造法は、ジョージアの外へ向け影響を与える段階にきています。この生きたワイン醸造法はどんな広がりを見せ、私たちを楽しませてくれるのでしょうか。これからも目が離せません。

お話を聞いたのは・・・
岡崎玲子さん
ノンナアンドシディ代表
イタリアのオーガニック食材やワインを輸入。
2013年からジョージアワインの輸入を始め、
現在20生産者のワインを扱う。
直営ショップで輸入された食品やワインを
購入することもできる。
https://www.nonnaandsidhishop.com/
近藤良介さん
KONDOヴィンヤード代表
北海道空知地方でワインを醸造。
2007年に始めて畑を拓き、2019年で13年目。
ソーヴィニヨン・ブランやピノ・ノワールを
「タプ・コプ」として瓶詰めする一方、
さまざまな品種の混植を「kon・kon」で瓶詰め。
2017年のブドウからkon・konをクヴェヴリで醸造中。
2020年春にリリースを予定している。
http://www10.plala.or.jp/kondo-vineyard/