ワイナリーの魅力を探る新連載の第1回は、さっぽろ藤野ワイナリー。北海道のブドウを使って、札幌市内で自然なワイン造りをしているのが特徴です。キーワードをもとに、素朴なギモンをクリアしていきます。
・都会のイメージがある札幌でワインを造っているの?
・大規模なワイナリーではないのに、銘柄が多いのはなぜ?
・若き醸造家2人の素顔が知りたい!
さっぽろ藤野ワイナリーHISTORY
2000 | 札幌市南区藤野にブドウを植え始める | 醸造担当 |
2009 | 醸造免許取得、初ヴィンテージ |
近藤良介(〜2014 *外部アドバイザーとして。引き続き現在も栽培醸造アドバイザーを務める) |
2014 | 浦本忠幸、入社 | |
2015 | 現在の場所に醸造所を移転 | 浦本忠幸(〜2017) |
2018 | 秋元崇宏、入社 | 浦本忠幸、秋元崇宏(〜現在) |
2019 | 永久免許取得 |
キーワード1 藤野は果樹の産地
札幌にワイナリーがあるといっても、何もススキノにあるわけではありません。藤野は、定山渓温泉や札幌岳もある自然豊かな南区にあり、近くの八剣山とともに果樹の生産地として知られる地域。近くにはりんごやさくらんぼの果樹園もあります。
さっぽろ藤野ワイナリーは、オーナーの伊與部淑惠・佐藤トモ子姉妹が家族で所有していた森に、芝生や花とともに野菜や果物を植えたところ、一番よく実ったのがブドウだったのがワイナリーを始めるきっかけでした。
「ブドウが大好きで畑作業の途中に喉の渇きを癒す目的で植えました。でも、ヨーロッパのワイナリーに憧れてもいたので、当初からシャルドネやピノ・ノワールもこっそり植えていたんです。それがよく実ったので、この土地にあっているのかなと勘違いしました(笑)」と伊與部さん。あとで知った話、森に還る以前もブドウ畑だったとか。それくらい果樹の好適地。現在も敷地内では、ブドウのほかにリンゴや梨が育てられています。
キーワード2 ブドウはすべて北海道から
ワインの原料となるブドウは北海道産のものだけ。札幌と岩見沢にある自社畑を始め、余市、三笠、道南といった各地にある10軒の契約農家からブドウが届きます。契約農家とはさまざまな縁がつながって、さっぽろ藤野ワイナリーの造りを理解してブドウを分けてもらっているそう。
そのおかげもあって、白ブドウならケルナー、ミュラートゥルガウ、シャルドネ、バッカス、黒ブドウならツヴァイゲルトレーべ、ピノ・ノワール、ヤマブドウ系統など北海道らしい品種がずらり。なかには道南のキャンベル・アーリー やセイベル 13053、小樽発祥の旅路といった北海道の広さを感じさせる品種も。しっかりと産地や品種の特性をみきわめて、個性を生かしたワインが造られています。
また、昨年から北海道のさまざまな畑のブドウをブレンドした赤白ロゼの3種類(ル・ノール、ラ・メール、ラ・ルート=フランス語で北、海、道の意)の北海道シリーズをリリース。ブドウの個性を生かしながら自然発酵、野生的な品種の魅力がやさしく溶け込んだ北海道を表現したワインが完成。さっぽろ藤野ワイナリーの新しいフラッグシップとなっています。
キーワード3 ナチュラルなワイン造り
「できるだけ自然なワイン造りをする」というのは、ワイナリー開設当初からの思い。元々、ワイナリーをやりたいと言った伊與部・佐藤姉妹の弟さんの遺志でもありました。そのため、2009年の初ヴィンテージから、丁寧な選果、野生酵母による自然発酵、無濾過で仕上げ、大切に育てられたブドウの味を生かしたワイン造りが実践。酸はしっかりとありがながら、やさしい旨味のあるまろやかなワインになっています。
栽培に関しては、樹の成長や安定収量を考えて基本的には栽培農家の方針が尊重されています。届けられた高品質なブドウは、「NAKAI」「三氣の辺(みきのほとり)」「アッシジのフランシスコ」「LOHAS CLUB」と農家の名前や屋号を冠したワインにして、少量生産のヴィンヤードシリーズとしてリリース。農家さんに販売免許があれば売り戻しも含めて販売されています。
キーワード4 ラインナップの多さと挑戦する姿勢
さっぽろ藤野ワイナリーといえば、銘柄の多いのが特徴です。「同じ品種でも産地や農家さんによっておもしろいくらい違う。最初はそこが知りたくて、(当時の醸造家)近藤さんに無理を言ってお願いしていました」と伊與部さん。醸造が浦本さんに引き継がれてからも、農家ごとのブドウの個性を知るためそのやり方を継続。最近、ブドウもわかってきたことから、2017年頃からブレンドによる北海道シリーズが誕生しました。
また、斜里窯で造った素焼きの甕(かめ)でジョージアの造りを再現した「甕ブラン」や、亜硫酸無添加の「キャンベルサンスフル」、「くまコーラ」「さねんころ」といったコラボワインもさっぽろ藤野らしい探究心。
浦本さんは「こんな造り方どうですかと提案して、いいよと言ってくれる環境がありがたい」と言います。これに対して伊與部さんは、「私が責任とるからやんなさいって言うんです。リスクをとってもやりたいことをやってほしい。それが最初にワイナリーをやりたいと言った私の責任」と度量の深い答え。こうした姿勢がさっぽろ藤野にチャレンジ精神を与えています。
いま挑戦しているのは、自社畑の収量を上げること。昨年から藤野の畑を広げて新しい品種も含めて植え、全体の3割まで自社畑の比率を上げようとしています。
キーワード5 高評価を受ける自社畑のピノ・ノワール
札幌の藤野にある自社畑には、ピノ・ノワールやシャルドネ、ソーヴィニヨン・ブランなどが植えられています。こうしたワインが藤野シリーズの「ピノ・ノワール」「ブラン」としてリリースされているものです。なかでも評価が高いのがピノ・ノワール。伊與部さんが好きでブドウを植え始めた2000年から栽培。現在リリースされているのは、2009年にヴィニフェラ種*へ改植された頃のもので、樹齢は10年になります。
しかし、標高が高く積算温度が足りない、コウモリガの被害を受けやすい、といった問題点も多く、樹齢の割にブドウ樹が生育しておらず、収量も余市の半分以下にとどまっているそう。それが逆に収量の低さからポテンシャルの高いブドウが取れるように。以前はスパークリングやロゼにしかできなかったそうですが、2014年頃から赤ワインにできるようになりました。
2017年のワイナート誌の日本のピノ・ノワール特集で2015年のピノ・ノワールが高評価を獲得。年に1度ワイナリーで直売されるのを待望する人がいるほど人気になっています。
*ヨーロッパで古くからワイン用ブドウになっている品種。
キーワード6 若き2人の醸造家がタッグ
現在、醸造を担当するのは、浦本忠幸と秋元崇宏。2人とも30歳の同い年コンビです。北海道出身の浦本さんは大学時代に行ったワインイベントで、さっぽろ藤野ワイナリーのワインと伊與部さんに共通するやさしさに惹かれ、KONDOヴィンヤードに住み込みで働いた後、大学を卒業して入社。10Rワイナリーでの1年の研修を経て、醸造家として6年以上のキャリアがあり、年間で仕込む数からいって年数以上の経験を持ちます。師匠にあたる近藤さん以外からも評価する声は多数。10Rワイナリーは「(研修後に)このままうちで働いてほしい」、北海道のワインアカデミー名誉校長の田辺由美さんは「一番の卒業生」、円山屋の今村昇平さんは「北海道ナチュールの申し子」と称賛される若手のホープです。
宮城出身の秋元さんは、大学と勤務先は関東だったものの、地元への思いが募り仙台のワイナリーに入社。ワイン造りをするなかで、北海道の栗澤ワインズ(ナカザワヴィンヤード、KONDOヴィンヤード)の2人が議論を交わしながら作業をすすめる様子に刺激を受け、強い思いを持って北海道のさっぽろ藤野ワイナリーに転職しました。
普段は秋元さんが藤野、浦本さんが栗沢で栽培を担当していますが、醸造は意見を交わしながら。実際、秋元さんが提案した方法で昨年もワインが仕込まれたこともあるそう。若い2人がタッグを組み、北海道のブドウと向き合いながら挑戦するワインは益々注目です。
キーワード7 観光&低価格でワインを身近に
さっぽろ藤野ワイナリーは、札幌駅から車で35分の位置にあり、地下鉄やバスを使って訪問することも可能です。ワイナリーではガラス越しに醸造所を見ながら、ワインの試飲OK。何種類かの味を楽しめ、購入することもできます。ワイナリーの周囲に広がるエルクの森には自社畑や花畑、野菜畑もあって成長を目で楽しむことも。ワイナリーには、カフェレストラン「Vigne」が併設され、自社畑で採れた野菜を使ったパスタやピザが並びます。ワイナリーでの試飲、自社畑の見学、食事と充実したワイナリー観光ができるスポットです。
また、市街地までの近さを生かして、札幌駅ビルのワインショップ円山屋ではさっぽろ藤野ワイナリーの樽生ワインを常備。フレッシュなナチュラルワインのおいしさが味わえます。
さっぽろ藤野ワイナリーのラインナップは、2000円台が中心の価格帯となっており、全国のワインショップにもある程度行きわたるような量が造られています。
こうしたワインを身近に感じられる取り組みもワイナリーの思いだと浦本さん。「ワインはブドウだけからできる産地を表すお酒です。さっぽろ藤野のような(ある程度の)規模で自然にシンプルに造られたワインというのが北海道では意外に少なくなっています。北海道は個人の造り手の人気が高く、例えばKONDOヴィンヤードの近藤さんのワインは貴重なものとなっていますが、同じような考えを持った僕らのワインなら購入できます。さっぽろ藤野はそういう役目。価格も抑えているので、僕らのワインでもっと北海道のワインを身近に感じてもらえたらと思います」
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