ワインバー Enotera(エノテーラ・牛込神楽坂)

目次

ワインバーでかつてない食体験とのマリアージュを

カウンター席

神楽坂駅を牛込中央通り方面に下ると、駅前のにぎやかさとは打って変わって、街は住宅もある閑静な雰囲気となる。Enotera(エノテーラ)は、2024年4月に牛込中央通り沿いにオープンしたワインバー。落ち着いた佇まいの店内では、これまでにない新たなワイン体験ができるという。

店長の藤森太一さん

エノテーラを運営するのは、イタリアワイン専門のインポーター「風土」。新たに飲食事業を立ち上げ、ワインバーの運営に乗り出した。店を任されたのは、藤森太一さん。東京のワインショップ界隈では、前職の青山「SASALA」のマネージャーとして知っている人も多いだろう。新天地について「エノテーラのコンセプトは“ワインバーらしくないワインバー”です」と藤森さん。その意図は?

ジャムやドレッシングは本社で製造して届けられる

「ワインバーというと、メニューは乾き物や簡単な一品がほとんど。店主1人で営業していることも多いので、グラスが空になっても混雑時は頼みにくいケースがありました。それをなくして、レストランで出されるような手をかけた料理をそろえながら、ワインをスムーズに提供できるしくみを導入しました」

そのしくみの核となるのが、埼玉県蓮田市の風土本社にセントラルキッチンをもうけたこと。風土の代表である井上優基さんの元・料理人というキャリアを活かし、コンソメやトマトソース、ドレッシング、ジャムといった手間のかかるものは本社で製造。食材も本社から調達し、エノテーラに届けられることで、藤森さんは営業中に調理の仕上げやワインの提供、接客に集中。1人でもスムーズに営業できるようになっている。

「生ハム・ベルギー産」1,500円/生ハムの最高峰はイタリア産だが、現在輸入禁止となっているため、イタリア人が同じ手法で作ったベルギー産を使用。その場で極薄にカットして提供される

料理に目を向けると、ワインとのマリアージュが忘れられない食体験となるようなエッジの利いたメニュー構成となっている。オシェトラキャビアやベルギー産の生ハムなど、厳選された食材をシンプルにワインと合わせるメニューのほか、小田原・長谷川ジビエ精肉店の本州鹿を使ってレストラン級に手をかけたメニューもある。肉料理では「本州鹿はばき煮込み赤ワインソース」(1,800円)、パスタでは「本州鹿ラグー・ボロネーゼ」(1,600円)がその一例。なかでもエノテーラの真骨頂といえるのが「長谷川ジビエ精肉店本州鹿ダブルコンソメ」(2,000円)。なんと3日もの時間をかけてコンソメが作られている。シャンパーニュとの複雑なマリアージュは、圧倒されるような世界に導かれる。

ラインアップは、一期一会のワイン

左からルイ・ロデレール コレクション244(グラス2,800円、ボトル15,000円)、ケルビーニ スイ・ジェネリス ブリュット・ナチュールNV(グラス2,400円、ボトル13,200円)、スカルボロ マイタイム2018(グラス1,700円、ボトル9,900円)、ナティヴ ヴェッルートロッソ2019(グラス1,400円、ボトル7,700円)、リエチネ キアンティ・クラッシコ2021(グラス1,400円、ボトル8,000円)、ファットイ ブルネッロ・ディ・モンタルチーノ リゼルヴァ2015(グラス6,000円、ボトル33,000円)

ワインはイタリアワインを中心に、シャンパーニュ、ブルゴーニュなどの銘醸地のワイン、注目の世界のワインが100種類以上用意されている。インポーターが母体のワインバーだが風土のワインは1割程度で、ほとんどが別のインポーターのワイン。ラインアップされているのは、“一期一会”のワインとされ、風土でコレクションされているレアなワインのほか、藤森さんがセレクトしたワインが並ぶ。

グラスワインは10〜15種類、用意されている

「ワインは、世の中の人が求めているものを純粋に選ぶようにしています。いまなら、スムーズな飲み心地のワインを求める人が多いですよね。それが必ずしも有名生産者のワインや昔からあるワイナリーのワインとは限らない。そこはフラットな目線で選ぶようにしています」と藤森さん。どんな一皿とワインがセレクトされるのか楽しみになる。

ワイン屋のサラダ ✕ ロエロ・アルネイス + ピノ・ノワール

ワイン屋のサラダ(1,500円)

「サラダで罪悪感なくワインを飲めたら」との発想をもとにしたメニューが「ワイン屋のサラダ」。埼玉県で採れたケールやルッコラ、わさび菜などの葉物野菜を中心に、カリフローレやビーツなどがたっぷり盛られた一品。サラダだがレタスを入れないのがポイントで、噛みごたえのある葉物野菜を中心にすることでおつまみ感覚をプラス。

柑橘のドレッシングまたは梅干しのドレッシングがワインとの相性をよくする

さらにワインに合わせるポイントとして、2種類のドレッシングを用意。白ワインに柑橘のドレッシング、赤ワインには梅干しのドレッシングがおすすめ。水っぽくならない野菜にしっかりと乳化されたドレッシングの旨味がからみ、バリバリした食感にナッツの風味も加わる楽しいサラダとなっていた。

アンジェロ・ネグロ セッラ・ルピーニ ロエロ・アルネイスDOCG 2022(グラス1,200円、ボトル6,600円)

柑橘のドレッシングに合わせたい白ワインはアンジェロ・ネグロのロエロ・アルネイス。風土が直輸入したロエロを代表する生産者のアルネイスで、通常のアルネイスよりも果実味がトロピカルで蜜っぽさがあり、とろけるようなおいしさ。柑橘のドレッシングとのさわやかな甘みとも調和し、ワインのミネラルやアーモンドの風味との相性も抜群だった。

ボデガ・チャクラ バルダ2022(グラス1,200円、ボトル6,600円)

梅干しのドレッシングにおすすめなのは、アルゼンチンのピノ・ノワール。「ナチュラル系の風味のある赤ワインは梅しそのニュアンスがあって、梅干しのドレッシングがよく合います」と藤森さん。サラダに赤ワインとは、一見合わなそうに思えたが、透明感のあるきれいなピノ・ノワールを梅かつおの風味でふくよかに感じさせていた。「本当に合うペアリングはワインを水のようにスムーズに感じさせてくれるんです」との言葉どおり、ぴったりとフィットしたマリアージュだった。

〆鯖とガリタブレ ✕ キアンティ・クラッシコ

〆鯖とガリタブレ(1,400円)

魚料理として食べたいのが「〆鯖とガリタブレ」。タブレとはクスクスを使ったサラダ料理のこと。クスクスにガリを混ぜて酢飯に見立ててしめ鯖をのせ、ワインに合う鯖寿司に仕立てた一皿だ。

まず、このしめ鯖がとろっとしたレア加減で本当においしい。酢漬けのようなしめ鯖とは一線を画す味わい。聞けば塩だけでなく砂糖をかませることで、鯖本来の脂のおいしさを引き出しながら締めているそう。ガリが小気味よい風味を与えながら、酢飯のように粘りがなく、パラパラしたクスクスがワインに合いそうな食感だ。

〆鯖のガリタブレにペアリングされたのは、リエチネのキアンティ・クラッシコ。魚料理といえば白ワインのイメージがあるが、レモンやすだちをかけると相性の良くないマグロや鯖などの魚料理には赤ワインが合うという。鯖のうまみがのった脂がしみ渡るような果実味をもリエチネにぴたっとはまり、ガリのさわやかな風味とも相性がよく、どんどん食が進むおいしさだった。

本州鹿ラグー・ボロネーゼ ✕ キアンティ・クラッシコ

本州鹿ラグー・ ボロネーゼ(1,600円)

エノテーラにはパスタメニューもあり、乾麺ではなく藤森さんによる手打ちパスタが用意されている。「本州鹿ラグー・ボロネーゼ」は小田原のハンターである長谷川精肉店の本州鹿を使ってラグーにしたもの。パスタはタリアテッレが使われている。

長谷川精肉店による本州鹿のラグーは特製トマトソースとあわせ、肉がごろごろしたボロネーゼに。手打ちのタリアテッレはソースがよくからむ。削りたてのチーズと挽きたてのコショウの香りも食欲をそそる。

リエチネ キアンティ・クラッシコ2021(グラス1,400円、ボトル8,000円)

トマトソースには鉄板の相性であるキャンティ・クラッシコを引き続き、ペアリング。実はリエチネは“サンジョヴェーゼ推し”を公言する藤森さんが一押しするキアンティ・クラッシコ。

「キアンティ・クラッシコというと軽くて酸っぱいというイメージを持たれている方も多いと思いますが、そんなイメージがなくなるくらいエレガントで果実味もしっかりのっています。この数年、キアンティ・クラッシコ全体にエレガント化している流れがありますが、その先駆けです。

果実味があって全体に酸とのバランスが取れていて、ピノ・ノワールの全房発酵したときのような茎のニュアンスもアクセントになっています。キアンティ・クラッシコとしてもイタリアワインとしても、完成された味わいです」と藤森さん。ボロネーゼにも心地よくフィットしていた。

本州鹿のダブルコンソメ ✕ シャンパーニュ

ダブルコンソメは井上さんが「命を削る地下作業」と表現するほどの労作

エノテーラではシャンパーニュが日替わりで1〜2種類用意されている。キャビアや生ハム、デザートなどあわせるメニューもいくつかあるが、最も際立っているのは「本州鹿のダブルコンソメ」とシャンパーニュのペアリング。液体同士のペアリングとは一体どのようなものだろう?

本州鹿のダブルコンソメとは1回目は骨を12時間、2回目はミンチと卵白を4時間、火にかけてトータル3日間丹精こめて作る澄んだスープ。ほかの肉でもダブルコンソメを試作したが、圧倒的なうまさがあったのが鹿肉だったという。

本州鹿のダブルコンソメ(2,000円)

ダブルコンソメは鹿のエキスがしっかり出ており、余韻の長さが深い。味わいは鹿肉の煮込みに似ていて、鹿のローストなどでは味わえない複雑なおいしさがある。藤森さんが「肉を食べているのと同じ」と言うように、満足感が高い一品。

ルイ・ロデレール コレクション244(グラス2,800円,
ボトル15,000円)

主張のある2つは対峙しているようでありながら響き合い、いつまでも馥郁たる香りを残していた。「ダブルコンソメもシャンパーニュも、どちらもシンプルに作ったものではありません。工程が複雑でいくつものレイヤーがあります。すなわち、ダブルコンソメとシャンパーニュは“時間の概念のペアリング”です」と藤森さん。新しい境地のペアリングは、ぜひ試してほしい。

ババ・オ・ラム ✕ シャンパーニュ

ババ・オ・ラム(1,100円)+アイスクリーム(400円)

デザート「ババ・オ・ラム」は、自家製ブリオッシュにコスタリカ産ラムを染み込ませて作ったババに、マスカルポーネクリームと不知火のマーマレードが添えられたデザート。バニラアイスを加えることもできる。ババだけでなく、マーマレードにもブランデーV.S.O.Pがたっぷり使われており、ワインバーならではの贅沢さ。デザートでもエノテーラの本気度を感じた。

こちらもおすすめはシャンパーニュとのペアリング。ブリオッシュからはこれ以上ないほどバターやラムがしみ出てきて、香りも鼻孔をくすぐる。さらにはアイスクリーム、マーマレードの甘さがシャンパーニュの贅沢さと調和。「これを夜に食べて忘れられず、15時の開店と同時に”ババシャン“を決めに来られるお客様もいらっしゃいます」と藤森さん。癖になりそうなほど、禁断のおいしさがある。

日常に特別な輝きとなる1杯を

外観

エノテーラの料理とワインのペアリングは、1つ1つにインパクトがあり、印象深い夜になった。料理メニューは次々に新しいものが生み出され、グラスワインも毎日入れ替わる。訪れた日は15時からボトルを入れて飲むゲストもいれば、18時に来て1〜2杯でパッと帰るゲストもいた。料理が充実しているので、前菜からメイン、デザートまで楽しむもよし。神楽坂でにぎやかに飲んだ後に1人でしっぽりやるのもいい。日常をほんの少し特別な夜にしたい日は、刺激を与えてくれるエノテーラへ足を運んでみよう。

ワインバーEnotera

東京都新宿区納戸町15 TS神楽坂ビル1F
03-5579-2395
15:00〜23:00
日・月休

ワインバーをはじめたい人、募集中!

風土では、エノテーラの2号店、3号店を任せられるソムリエを募集中。ワインバーで独立したいけれど、パートナーのシェフがいない、ワンオペでもしっかりした料理が出したい、という思いを応援。料理メニューの開発や製造、出店計画をサポートします。ソムリエとしてワインのセレクトや接客力を生かしながら、食とのペアリングにも個性を発揮して自分らしい店づくりをしてみませんか?
【連絡先:エノテーラ】
Mail:t.fujimori@enotera-japan.com

この記事が気に入ったら
いいね または フォローしてね!

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

編集長のアバター 編集長 ライター/ワインエキスパート

東京に暮らす40代のライター/ワインエキスパート。
雑誌や書籍、Webメディアを中心に執筆中です。さまざまなジャンルの記事を執筆していますが、食にまつわる仕事が多く、ワインの連載や記事執筆、広告制作も行っています。東京ワインショップガイドは2017年から運営をスタートしました。

コメント

コメントする

目次