甕(かめ)で仕込む世界最古のクヴェヴリワイン造りが、いま世界に広がっている。ここ日本でも2017年からクヴェヴリワイン造りを実践している造り手がいる。それが、北海道空知地方の「KONDOヴィンヤード」近藤良介だ。なぜ彼はクヴェヴリでワインを仕込もうと思ったのだろう。その理由と挑戦の道のりを追った。

クヴェヴリそしてジョージアワインとの出会い

ワイン造りにも目を向けてみよう。2007年にタプ・コプ農場を拓いた後は、2008年からブドウの苗木が植えられた。ようやくブドウが収穫でき、初めて瓶詰めしたのは、2011年だった。「迷ったらブドウの声を聴く」という信念はワイン醸造でも持ち続けられ、培養酵母ではなく野生酵母でワインが造られている。やはり自然のままにワインが造られているのだ。

この頃、白ワインの醸造に使われていたのはステンレスタンク。発酵容器を変えるきっかけとなったのは、2015年11月にイタリアの生産者パオロ・ヴォドピーヴェッツが北海道を訪れたことだった。札幌のワインショップ円山屋の社長・今村昇平が北海道の期待の造り手とヴォドピーヴェッツを引き合わせる機会をつくったのだ。ヴォドピーヴェッツといえば、完熟したエキス感のあるワインを造る天才。フリウリ=ヴェネツィア・ジュリア州の地元品種であるヴィトフスカ(白ブドウ)を使って、ブドウを果皮ごと仕込む醸し発酵を行い、醸造容器には大樽やクヴェヴリ(イタリアではアンフォラと呼ぶ)を使っている。

近藤は訪れたヴォドピーヴェッツに、自身の2013年の白ワインを試飲してもらう。その白ワインにはやや濁りが残っていて、ガスが発生していた。自然派ワインにはよくあることと、大きな不満はなかったものの、完全に発酵が終わらないうちに瓶詰めしたような不完全さを感じていた。そんなワイン造りにヒントが欲しいという思いもあってアドバイスを求めると、ヴォドピーヴェッツからこんな言葉が返ってきたと振り返る。

「パオロが私のワインを飲んで最初に言ったのが、『いいワインだけど、発酵容器が金属だと微生物の活動自体が抑制される』との意見でした。実際に、2013年はステンレスタンクで仕込んでいました。それに対して、『微生物の気持ちになって考えてみなさい。このワインもおそらく発酵容器を変えるだけでもっといいワインになる』と言われました。それがとても腑に落ちたんです」

野生酵母での発酵は、培養酵母と違ってそこにある微生物に、のびのびと力を発揮してもらう必要がある。微生物が力を出せるよう天然素材である樽またはクヴェヴリを使った発酵環境を用意しなさいという彼の言葉は、普段からブドウの声に耳を傾けていた近藤の心にスッと入ってきた。この言葉は彼にとっての転機となった。実際に1年半後、雑誌の取材で「造り手を変えた1本」を聞かれたときも、ヴォドピーヴェッツの「オリジーネ2009」を挙げ、発酵容器のやりとりを紹介している。

ヴォドピーヴェッツがしばしば天才と称されるのは、孤高でありながら特殊な地元の土壌と向き合ったブドウ栽培をし、それにあった醸造を自ら見出し、ブドウの力を感じるワインを造っているからだ。そのために選んだのが、元々評価の高くなかったヴィトフスカという地元の白ブドウ品種。これを畑づくりから徹底的に一人でやり、果皮ごと仕込み、アンフォラ(クヴェヴリ)や大樽で発酵・熟成させることにより、素晴らしいワインだと評価されている。

ヴォドピーヴェッツの場合、2度ジョージアに渡った後にアンフォラを取り入れた。この来日時、輸入元・ヴィナイオータのインタビューで、アンフォラを使う理由を述べている。

「ワインは、いかなる物の干渉、影響を受けることなく醸造されるのが理想だと考えている。アンフォラは、土を焼しめたテラコッタでできている。土は自然由来のものだし、その土で作るアンフォラは極めてニュートラルな容器なので、ワインに何らかの“風味”を付与することはない。つまり、ニュートラル、そしてナチュラルな容器であるアンフォラで醸されたワインに我々が見出すニュアンスは、全てブドウ由来のものだという事。偉大なブドウからスタートすることなく、偉大なワインなど存在するはずがない」

また、別の機会で自身のワイン醸造の哲学として、このようにも語っている。

「多くの造り手、それもナチュラルワインを志しているという人たちでさえも、ブドウをワインに変える醸造を足し算や掛け算のようなものだと考えている気がする。でも俺はそうは思わない。ブドウの中に100%の完全があるんだ。ブドウ品種の個性、土壌の個性、その年の気象、天候的特徴が余すことなく詰まった…。その完全体であるブドウを、ヒトがワインという液体にトランスフォームさせる際、多かれ少なかれヒトは何かを引かなければいけないんだよ。俺が目指している事は、俺がブドウから奪う数をどこまでゼロに近づけられるかってことなんだ」

この言葉が示す通り、ふたりは「ブドウそのものの個性を生かす」という哲学が同じだったのだ。ヴォドピーヴェッツから「発酵容器を変えればいい」というアドバイスを受けたことで、近藤は自然由来の発酵容器でのワイン造りを模索。自分が育てたブドウのポテンシャルを活かし、最大限に熟度の高いワインに仕上げるという希望を見出した。

この後、実際に2015年の「タプ・コプ ブラン」「konkon」は樽を使って仕込みをスタートしている。しかし、樽は自然由来の木からできているものの、その香りがワインに移ってしまう。もちろん樽のバニラやコーヒーの香りはワインにアクセントを与えるメリットもあるが、ブドウの風味を純粋に活かしたい場合は、その香りが邪魔になってくる。そこで、混植で育てたブドウはクヴェヴリで醸造できないかという意欲がわきあがる。

当初、近藤はクヴェヴリ醸造そのもの、甕という発酵容器に興味をそそられた。しかし、同時にクヴェヴリ醸造の源泉がジョージアであることを知り、クヴェヴリで造られた伝統的なジョージアワインを飲んでみた。すると、飲んだ途端に衝撃が走った。

「圧倒的な力を感じる、強靭なワインでした。私が最初に飲んだのはアワワインでしたが、一発目で愕然としました。でも、不思議と感覚的になじむワインだったんです」

同じ醸しのアンバーワインでもイタリアとジョージアでは個性が異なる。一般にジョージアのカヘティで造られたワインは果実味も酸度も高く、厚みやエネルギーを感じる。北海道で自分が育てたブドウをワインにするにあたって、「熟度を深められたら」と考えていた近藤にとって、ジョージアワインが魅力的に映った。自分の目指すワイン造りのヒントになるのではという思いは日に日に膨らんでいくのだった。

ジョージアを引き合わせた奇跡

とはいえ、この時点でジョージアのようなクヴェヴリ醸造が、日本でしかも自分にできると思っていたわけではなかったという。確かにジョージアに8000年前から伝わるお家芸的なワイン造りを、近代醸造ができてからようやく最近になって発展した日本でやれるなんて、ちょっと想像がつかなかったのだろう。

しかし、ジョージアワインやクヴェヴリ醸造を知った興奮は頭から離れず、知らず知らずのうち会う人会う人に語っていた。「ジョージアワインは素晴らしい」「クヴェヴリには可能性がある」「ジョージアに行ってみたい」。さまざまな場所でこうした言葉を発していた。この言動が期せずして奇跡を起こす。

その声がJICA北海道に届いたのだ。JICA(国際協力機構)とは、開発途上国の支援などを実施する、外務省所轄の独立行政法人。青年海外協力隊の派遣で有名だが、技術者などを研修員としてお互いの国に招き、必要な知識や技術を伝える事業のコーディネートもやっている。折しも、北海道のワイン造りやワインツーリズムが農業の6次産業化や観光産業として注目を集めていた頃。もう一方のジョージアも、2013年にクヴェヴリ醸造がユネスコ世界文化遺産に登録され本格的なワイン観光に乗り出そうという時期だった。すでにJICAでは、ジョージアと北海道のワイン醸造やワイン観光で、それぞれの地域が発展するための協力事業を模索していた。

近藤のジョージアへのクヴェヴリワイン造りの習得は、この協力事業の1つとして実現。近藤はクヴェヴリワイン造りを学ぶためジョージアに派遣され、ジョージアからも北海道に研修員が来日し、北海道のワインツーリズムを学ぶことになった。時の運も手伝って、ジョージアに渡れることになったのだ。

夢は公言しないと始まらない、そんなことを思わせるエピソードだ。もちろん普段から彼の頑張りを知る北海道の人たちが、「近藤さんをジョージアに行かせなきゃ」と思わせたのは、彼の人徳やワインへの思いがもたらしたものでもあろう。それくらい彼の言葉が熱を帯びていたことがうかがえる。同時に、新しいことへの挑戦は北海道人らしい開拓魂を感じさせる。近藤には、自然と共存して畑に向かう人の慎ましさや勤勉さを感じるが、同時におおらかさやカラッとした印象も受ける。同じ道民として応援したくなるのは、うなずける話だ。

ジョージア行きが決まった後は、いよいよ準備だ。クヴェヴリ醸造をする生産者を訪ねたいと思った近藤は、ヴォドピーヴェッツに引き合わせてくれた円山屋の今村昇平に相談した。意外に思われるかもしれないが、ジョージアでクヴェヴリを使って造られたワインは全体の約2%といわれるほど少ない。昔ながらの方法でワインが造られている地域や生産者は限られている。多くはカヘティなどジョージア東側のエリアだ。

生産者の橋渡し役として今村から名前があがったのが、クヴェヴリ醸造のジョージアワインを輸入するノンナアンドシディの岡崎玲子だ。彼女は輸入を始めて7年間、毎年ジョージアに渡って主にカヘティの生産者と良き関係を築いていた人物。近藤は、円山屋の今村を介して岡崎を紹介され、ジョージア・カヘティの生産者を訪ねることになった。岡崎との出会いはこのときだけでなく、後々も近藤を助けることになる。

お話を聞いたのは・・・
近藤良介
KONDOヴィンヤード代表
北海道空知地方でワインを醸造。
2007年に初めて畑を拓き、2020年で14年目。
ソーヴィニヨン・ブランやピノ・ノワールを
「タプ・コプ」「モセウシ」として瓶詰めする一方、
さまざまな品種の混植を「konkon」で瓶詰め。
2017年のブドウからkonkonをクヴェヴリで醸造。
2020年春にリリースを予定している。
<発売情報はHPにて確認できます>
http://www10.plala.or.jp/kondo-vineyard/
<KONDOヴィンヤードのワインが飲める店>
くりやまアンド・アム(北海道栗山町)

取材協力:今村昇平(円山屋)、太田久人(ヴィナイオータ)、岡崎玲子(ノンナアンドシディ)以上、敬称略・登場順

写真提供(一部):ジョージア政府観光局