甕(かめ)で仕込む世界最古のクヴェヴリワイン造りが、いま世界に広がっている。ここ日本でも2017年からクヴェヴリワイン造りを実践している造り手がいる。それが、北海道空知地方の「KONDOヴィンヤード」近藤良介だ。なぜ彼はクヴェヴリでワインを仕込もうと思ったのだろう。その理由と挑戦の道のりを追った。

いよいよジョージアへ渡る

2016年9月。近藤はワイン仕込みの時期に、ジョージアへ渡ることになった。寒冷地の北海道はワインの仕込み時期が10月となる。ジョージアよりもひと月ずれることが幸いし、1年に一度しかない仕込みを体験する時期に訪問できるのだ。ジョージアへ渡る目的は、大きく2つ。1つが生産者に会ってクヴェヴリワイン造りについて聞くこと、もう1つがクヴェヴリを調達することだった。

いよいよジョージアのカヘティに着いた近藤は、初日から意欲的に「アワワイン」「フェザンツ・ティアーズ」「ニカ」などのワイナリーを訪問した。畑へ行き、そこで収穫間近のブドウを食べてみた瞬間、衝撃が走る。

「・・・何だ、このブドウのポテンシャルの高さは!」

北海道のブドウとは全くの別物だった。ブドウ栽培についてプロ中のプロである近藤は、根本的な差を感じずにはいられなかった。しかも、ワインの原料となるジョージアのブドウはそこに昔からあった原産種。ヨーロッパから持ち込まれたブドウがほとんどの北海道のワイン用ブドウとの違いを見せつけられた。

「日本で初めてジョージアワインを飲んで強靭なワインと感じた理由がブドウを食べてわかりました。ワインを飲んでみてアルコールが高いと思いましたが、それ以上に糖度も熟度も高く、酸を失わないブドウでした。つまりブドウの個性が強いんです」

北海道で育てたブドウの熟度を高めてくれることをクヴェヴリ醸造に求めていたが、その考えが間違っていたのではないかとさえ思った。

「これは無理だ。北海道でクヴェヴリを使ってワインを仕込む意味があるのか、何のためにジョージアまで来たのか……」そんなショックを受け、打ちのめされたと言う。

しかし、これも北海道人らしい前向きさだろうか。翌日からは気を取り直して、「せっかくきたのだから北海道なりのクヴェヴリワインとは何か、ヒントだけでも掴みたい」と、ジョージアの生産者達に積極的に質問していく。クヴェヴリのあるワイナリー(「マラニ」と呼ぶ)を訪れると、想像でしかなかったワイン造りを目の当たりにして、次から次へと疑問が湧いてくる。ジョージアの生産者達は包み隠さず、親切に教えてくれた。しかし、何を聞いても同じような答えが返ってくることに気づいた。それは、「何もしないこと」ーー

「この醸造法は、本当にシンプルなんです。潰したブドウを甕に入れて、そのまま発酵・熟成させるだけ。ブドウの性格がもろにワインに出るという点でごまかしようがない醸造法。つまり技術らしい技術はないんです。何を聞いても、結局は自分でやってみないと答えは出ない、そんなふうに受け取りました」

すでにワインを造っていた近藤なら、なおさらそう思ったのだろう。しかし、その中でも気づいたことがあった。

「ちょっとした衛生管理のミスでワインがダメになってしまう、とは思いました。そこはシビアにならなきゃいけない。そこでなら自分はがんばれるし、力の出しどころだと思いました」

ステンレスや樽での仕込みであれば、ときどき様子を見て確認することもできる。しかし、クヴェヴリは発酵を終えた後は、蓋をして密閉し、いわば“放置”することになる。そこで何らかの雑菌が繁殖してしまうと、ダメになってしまう。きちんと選果して仕込まなくては思ったという。

この旅でワイン造り以外に印象的だったことを聞いてみると、ジョージアの食事があげられた。ジョージアは、穏やかな気候と多様な大地に育まれた豊かな自然を誇る。野菜や果物が豊富にとれ、酪農や畜産も盛ん。チーズやヨーグルト、パンの種類も多い。東洋と西洋の食文化が交わる地域のため、水餃子のようなヒンカリという料理もあれば野菜を煮込んだカポナータのような料理や肉や豆も入ったミネストローネのような料理もある。美食の国であり、多彩な食文化が交わる国なのだ。

スプラという宴会で客人をおもてなしする文化もあって、自家製のごちそうとともに振る舞われるのが自家製のワイン。クヴェヴリの自然なワイン造りが守られてきたのは、この自家製ワインにある。近藤はジョージア滞在中、こうした食事を食べ、小さなスプラも開いてもらったが、毎食飽きることなくおいしくいただけたそう。

「ヒンカリはスパイスや薬味、ハーブをたくさん使うからヨーロッパの味じゃない。ほかに辛い料理もあるけど単純な辛みではなく日本人も好きな味でした。ワインとのマッチングも素晴らしかったですね。かつてフランスやイタリアも訪れたことがありますが、数日いるとどうしても越えられない食文化の壁を感じます。でもジョージアの料理は毎日食べても飽きない。オリエンタルな要素がある場所で本物のワインを造っているということが、すごく自信になったんです」

ワイン発祥の地であるジョージアの食事を食べてみて、ワイン造りは何も西洋のものではないと思ったのだ。ワインというとフランスやイタリアなどヨーロッパのイメージが強く、それらを旧世界と呼び、伝統的ワイン産出国との認識が強い。ヨーロッパがワイン文化を発達させた功績は素晴らしいが、発祥はジョージアとされている。クヴェヴリに使われる素焼きの甕は中国発祥だし、ジョージアは西アジアに分類されることもある。ワイン造りを東洋人の自分がやるのは間違っていない。北海道でワインを造るのはおかしな話じゃないと思えたのは、これからクヴェヴリでワイン造りを始める原動力になった。

そして、クヴェヴリの調達についても、現地の職人と会話し、「帰国後に必ずオーダーを入れるから覚えておいてほしい」と約束を交わす。ブドウの違いに驚きはあったものの、クヴェヴリ醸造を目の当たりにし、クヴェヴリを調達できる目処が立って順調に帰国の途についた。

……はずだった。

お話を聞いたのは・・・
近藤良介
KONDOヴィンヤード代表
北海道空知地方でワインを醸造。
2007年に初めて畑を拓き、2020年で14年目。
ソーヴィニヨン・ブランやピノ・ノワールを
「タプ・コプ」「モセウシ」として瓶詰めする一方、
さまざまな品種の混植を「konkon」で瓶詰め。
2017年のブドウからkonkonをクヴェヴリで醸造。
2020年春にリリースを予定している。
<発売情報はHPにて確認できます>
http://www10.plala.or.jp/kondo-vineyard/
<KONDOヴィンヤードのワインが飲める店>
くりやまアンド・アム(北海道栗山町)

写真提供(一部):ジョージア政府観光局、ジョージア文化・遺跡保護省