阿部のイタリアワイン座談会〜アブルッツォ州とモーリゼ州

「イタリアワイン阿部」の定例イベント「イタリアワイン座談会」に参加してきました。大テーブルでワインを囲むので座談会と名付けられていますが、いわゆるセミナー形式のワイン会。イタリア20州のうちの1州に光を当て、旅するようにワインを味わえるイベントです。今回は、6種のワインとともに巡ります。旅の案内役は、鬼才ソムリエ阿部誠治さんです。

今回のテーマは、イタリア中部のアドリア海側「アブルッツォ州とモーリゼ州」。・・・・・・しょっぱなから、1州1テーマをくつがえす東映まんがまつり的な2州立て。阿部さんの言い訳によると、モーリゼ州はアブルッツォ州から分離した小さな州。モリーゼは無理ーぜ!なのだとか。参加者から、「いやー、今日も飛ばしますね」「座布団あげらんないよ」とヤジが飛びます。

それくらい単体ではコンテンツになりにくい2つの州。テキストが配られ、まずは州の概要からガイド。

「写真を見てくださーい。わかりますか? この絶望的なまでの映えなさ! これがピエモンテ州なら景色も料理も1枚で決まる写真がたくさんあるんです。同じように人口の少ないヴァッレダオスタ州にしても、ローマの遺跡があったり、ぼちぼち映えるんです。ビーチなんてパラソルがベージュ!カラブリア州だったらパラソルがカラフルになったりして、“夏は南イタリア行きたいよねー”、みたいなアガるビーチ感出てくる。要は、人造建築物も歴史もなくて地味なんですね」

と随分バイアスがかかった解説。でも、わかりやすい。何もないことはよくわかりました。

目次

1杯目は、爽やかなパッセリーナ種の白ワイン

「パッセリーナ”ヴィーノソフィア”2016」キウーザグランデ (アブルッツォ州キエーティ県)参考上代¥2,000

1杯目は、パッセリーナ種の爽快で屈託のないワイン。アルコール度数は抑えられていますが、参加者からは「味が強いですね」とのコメント。その理由は、オーガニック栽培に由来するそう。

「アブルッツォ州のワインというと、安旨のイメージがあると思います。これまでは、市場のニーズに合わせたものを造らされてきたわけです。でも、近年それが変わってきて、オーガニックを取り入れて、素材の良さを引き出し、テロワールを感じてもらおうという流れがあります。何をやっても地味で人造の文化がないと言いましたが、すなわちハイクオリティな自然が残っているということ。“味の強さ”もそこに由来します」と、阿部さん。

▲地理的な説明をするときは、店内中央のイタリア地図にレーザーポインタを当ててくれます。

つまり、「映えない・地味」というのは、自然を活かしたオーガニックワインがあることの壮大なフリでした。実際、アブルッツォ州は手付かずの自然が残る山岳地帯(3000M級の山もアリ)が65%を占め、そのほかは34%の丘陵地帯、残り1%の平野という構成。雨の少ないブドウ栽培向きの気候を持つ、恵まれた丘陵地帯でブドウが育てられています。

阿部さんおすすめの飲用シーンとしては、「西麻布でベットリした男女が飲むワインというより、外で畑やって畑で採れたもので飯作って、そういうときに飲みたいワイン」。どこまでも健全なワインが、これからのアブルッツォ州の基本になるのでは、というのが阿部さんの希望的予想です。

2杯目は、優美なトレッビアーノ種の白ワイン

「トレッビアーノダブルッツォ“ヴィニェートディポポリ”2015」ヴァッレレアレ(アブルッツォ州ぺスカーラ県)参考上代¥4,090

2杯目にやってきたのは、トレッビアーノ種の白ワイン。ミネラルを感じる塩味と透明感をもつワインでした。その理由は、山からやってきたワインだから!

「日本で売っているアブルッツォ州のワインは、99%海側なんですが、山側にも5軒ほどワイナリーがあります。当然同じトレッビアーノダブルッツォでも味が違ってくるんですが、(ワイン法で)分けることもできなくて埋もれがちなんです。飲んでいただいたのは、ポポリ国立公園内にあるヴァッレレアレというワイナリーのワイン。山岳の自然の強さを反映した、調和があって優美なワイン。山岳の厳格な気候のブドウを使っただけあって、長期熟成も期待できます」と阿部さん。

アブルッツォ=安旨というのは、主に海側のワインだったことが判明。ヴァッレレアレ始め、ぺスカーラ県には隠れたハイパートップ生産者がいるんですね!

3杯目はモンテプルチアーノ種のロゼワイン

「チェラスオーロダブルッツォ2016」チレッリ(アブルッツォ州テーラモ県)参考上代¥3,800

3杯めは、ロゼワイン。実は、アブルッツォ州はイタリアの伝統的ロゼワイン産地の1つなのだそう。
「イタリアでロゼというとアブルッツォ州とロンバルディア州のガルダがあります。ガルダは北イタリアだけに、貴族達から“色が綺麗でかわいいわよねー”ともてはやされて発展してきました。一方のアブルッツォ州のロゼは、濃い赤ワインを造るために途中で薄い部分を抜いて造られたもの。“うち豆腐作ってっけど、おからはおからで売るんだよ!”、そういう精神で造られています」と、バックボーンに対局の精神論があることを熱弁。貴族文化のある北イタリアと南部に近い田舎のロゼは、成り立ちも全然違うんですね。

とはいえ、こちらの赤ワインはラベルにもあるようにアンフォラ(甕)に入れたナチュール的な造り。ジョージアワインに触発され、アブルッツォ州でも古くて新しいナチュール醸造が実践されているのでしょうか。その分、値段もお高めです。阿部さんからは「しらすパック開けたような香り」とのコメントも。

「オーガニックというと①の最強コップ酒生産みたいなのもありますが、こうしたワンオペ系農家によるハンドメイド・スモールプロダクションもあるんですね。一見、値段的に高いと思われるかもしれませんが、中途半端なサンジョベーゼよりも格が高い味わいです」と阿部さん。うん、確かにおいしい。イタリアの田舎にもアンフォラ的なナチュールの波が来てるとは! しかも、とってもきれいな味わいでした。

4杯目は、いよいよモーリゼの地品種が登場!

「ティンティリア デル モリーゼ2014」カタッボ(モリーゼ州)参考上代¥3,000

4杯目にしてやっと登場したのがモリーゼ州のワイン。州単独では、コンテンツ的に無理ーぜなモリーゼ。そのモリーゼが州運(!)をかけてるのが、「ティンティリア」という品種。参加者からは「香りは少ないんだけど、味が濃厚」とのコメントも。

これを聞いて阿部さんがティンティリアを紐解きます。
「味のコメントいただきましたが、この素朴な味、スペインワインとか言われると、そんな気がしませんか? 写真を見て、ぶどうの垂れ下がり方もスペインワインって気がしませんか? 実は、ナポリ王国時代、モリーゼはスペイン王国の支配下だったんです。ティンティリアという名前もスペイン語のティント(=赤)から来ています」とスペインとの関連性を指摘。

スペインと言えば木樽を使った長期熟成が特徴です。今回のモーリゼ州のティンティリアも木樽でフィニッシュされているそう。とはいえ、そうした高級化よりも、地品種ならではの土着性がティンティリアの売り。珍しい土着のワインとして、木樽をかけずに仕上げる生産者も多いそう。モリーゼ州としては、珍しい地域性のワインをそのまま飲む価値を提供したいという思いもあるようです。

5杯目は、モンテプルチアーノ種の赤ワインその1

「モンテプルチアーノダブルッツォ コッリーネテラマーネ2012」ファンティーニ(アブルッツォ州テラーモ県)参考上代¥3,000

5杯目で登場したのは、アブルッツォ州を代表するモンテプルチアーノダブルッツォ。そう! イタリアで濃厚コスパワインの筆頭として、知られるワインです。漫画『神の雫』では1万円以上のボルドーに匹敵、なんて言われ方もしました。しかし、その濃厚さゆえ、40代を過ぎた大人には辛いかも、という意見がある代物でもあります。

しかし、全員アッパー40歳の参加者から「これはこれでおいしい!」との意見が。その理由は、阿部さんのチューニングによる賜物。なんと、抜栓は3日前という手の入れようだったことが判明!

それを知るや参加者からは、阿部ちゃんが凄いのはこういうところとチューニング力を絶賛する声が。「ここで飲むと本当にワインの味が違うよね」という声も上がり、ドヤ顔を決める阿部さんでした。

ところでこのワインはどんなワイン?
「今まで飲んでいただいた4までのワインはいわばイタリアのニューウェイブです。日本で言うなれば令和のワインでした。これは皆さんご存知、平成のワイン。牛肉も今どきの赤身じゃなくて、今半の霜降りが気分という日もあると思います。そんな感じで、楽しんでもらうといいんじゃないですかね」と阿部さんから解説がありました。

ラストは、モンテプルチアーノの赤ワインその2

「モンテプルチアーノダブルッツォ ヴィニェートサンテウザニオ2011」ヴァッレレアレ(アブルッツォ州ぺスカーラ県)参考上代¥2,790

最後に登場したのは、2杯目と同じヴァッレレアレのモンテプルチアーノダブルッツォ。これは、今までのモンテプルチアーノとは違う世界を見せてくれそうな予感しかない! 阿部さんのチューニング力もあってエレガントな味。国立公園内にあるだけに、オーガニックの優しさも感じました。

「⑤と⑥のキャラの違いは感じてもらえたと思います。モンテプルチアーノは、市場にコミットする⑤のようなワインと、今回のような深掘りするワインに二極化しています。ガチで熊いるエクストリームな自然で造るとこんな風になるんですね。ただ、なかなか知られていないのが残念なところ。僕的には、単独で一番いいクリュをレクサスみたいにして売ればいいと思います」と、阿部さんからもブランディング案が浮上するほど。モンテプルチアーノの未来を感じさせる1本でした。

地味な中部2州の新たな方向性を発見

テイスティング全6本の解説が終わり、「どうでしたか?」と言わんばかりにすしざんまいポーズを決める阿部さん。

これまでは、安旨生産地=アブルッツォ州、何もない=モリーゼ州というイメージしかありませんでした。しかし、今日の座談会で、「オーガニックで果実の濃さを出す方向性」「土着品種をアピールする方向性」「手付かずの自然で優美さを追求する方向性」が見えてきました。

レポートでは割愛しましたが、座談会では食文化や地理・地勢、観光地まで網羅して、2つの州が深掘りされていました。食文化でいうと、チーカマのようなサラミがあったり、どでかい成豚の丸焼きを食べる習慣があったり。地理的に隔絶されると、奇妙なオリジナリティが生まれるんだと感じました。ひと通りの試飲を終えた後は、自分たちのワインの原点を話し合うなど、座談会らしい一幕も。参加者は私以外は常連さん達でしたが、とてもフレンドリーに迎えてくれました。参加者のお一人からパンの差し入れがあるなど雰囲気もアットホームです。イタリアワイン阿部は「至福のイタリアワイン沼」と呼ばれていますが、座談会こそ本領発揮される場かもしれません。大テーブルにどんどんグラスが溜まっていくごとに、心と体のバロメーターが急上昇!!  鬼才・阿部さんの知識とチューニング力を存分に味わい、イタリア愛を注ぎ込まれた濃密な3時間でした。

*価格は参考上代です。イタリアワイン阿部では割引価格で販売されているので、お問い合わせください。在庫がない場合もあります。

イタリアワイン阿部(井の頭公園)

お話を聞いたワインショップ
イタリアワインと食材 阿部
三鷹市井の頭3-31-1 井の頭レジデンス1F
0422-29-9106
17:00〜23:30(Bar LO23:00、土13:00〜)
日・第2月休
HP:https://italiawineabe.jp
Facebook:@italiawineabe
Instagram:@italiawineabe

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この記事を書いた人

編集長のアバター 編集長 ライター/ワインエキスパート

東京に暮らす40代のライター/ワインエキスパート。
雑誌や書籍、Webメディアを中心に執筆中です。さまざまなジャンルの記事を執筆していますが、食にまつわる仕事が多く、ワインの連載や記事執筆、広告制作も行っています。東京ワインショップガイドは2017年から運営をスタートしました。

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