4種類を飲み比べ!対談「バローロってどんなワインですか?」

ワインを飲み慣れてきたら、トライしてみたいのがイタリアのバローロ。「王のワイン」として憧れるはありますが、高価だし難しそうというハードルの高さがあるのも事実。そこで駆け込んだのが、原宿「ラ・カンティーナ・ベッショ」。店主の別所正浩さんは、日本一、イタリアワインを本気飲みしている、頼れる“イタリアワイン親父”。ピエモンテが一番のお気に入りという別所正浩さんにバローロを4種類飲みながら、話を聞きました。

第1回 王のワイン・バローロを知るための基礎知識
第3回 イタリアワイン親父に聞く!バローロの買い方Q&A
第4回 イタリアワイン親父おすすめ!バローロを代表する生産者5選

目次

バローロボーイズのワインを飲む

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編集長
今回は、別所さんのおすすめを飲みながら、バローロについて教えてもらいたいと思います。1本目はどんなワインですか?
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別所正浩
「ドメニコ・クレリコ」の2014年のバローロ。僕は、この生産者の2001年のパヤナというクリュのバローロを飲んで、生まれて初めて「バローロはうまい!」と思ったんだよね。ちょっと飲んでみて。
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編集長
わ、おいしい! 果実の凝縮感があって、素直においしいです。タンニンも柔らかくて、バローロの厳格なイメージが吹き飛びました
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別所正浩
実は僕もワインに目覚めた当初は、バローロにいいイメージがなかったの。勉強のために飲んでみたら「酸っぱいし、渋いし。なのに1万円。なんだこりゃ」みたいな。
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編集長
いまや“イタリアワイン親父”の別所さんも初めはバローロに対してそうだったんですね。
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別所正浩
だから最初にこれを持ってきたの。
バローロは昔から「イタリアワインの王」といわれていて、古くからバローロを造っていた生産者がいる。一方で、新しいワイン造りを始たのが、このドメニコ・クレリコ。
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編集長
世に言うバローロボーイズの登場。ドメニコ・クレリコはその代表格なんですね。
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別所正浩
そう。他にもエリオ・アルターレとかパオロ・スカヴィーノとか、当時若手だった生産者が1980年代から90年代にかけて、新しいムーブメントを起こしたの。
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編集長
それまでのバローロは、気難しい味だったんですよね?
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別所正浩
そう、赤っ茶けてて、薄いのに妙に酸っぱくて渋い。なのに値段も高い。イタリア国内もそうだけど、世界的にもその味はウケなかったわけ。それでバローロボーイズ達がブルゴーニュに視察に行ったり、ワイン商のマルコ・デ・グラツィアに教わったりして、造り方を見直したんだよ。
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編集長
それまではどういう造り方だったんですか?
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別所正浩
かつてのイタリアワインは基本的に大樽熟成だったの。ネッビオーロは難しいバランスの品種で、色は薄いのにタンニンが強い。バローロの場合、なんとかタンニンを落ち着かせようと、長い間、熟成させたからあの色や味になった。
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編集長
長く熟成させると、果実味も失われますよね。タンニンを柔らかくすることと、果実味の豊かさを両立させることが課題だったんですね。
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別所正浩
それで、バローロボーイズたちがロータリーファーメンター(回転式発酵槽)を使って、短期間で果実味やタンニンを抽出したり、バリックという小樽で熟成して酸素の供給量をあげたりしたの。
その結果、果実味もあって樽の効いたバローロができた。すると、改めてバローロに光が当たって、アメリカを始め世界でも売れた。村を離れた若者も戻って、それまで大手ワイナリーにブドウを卸していた農家も自分たちで造ってみようと、新たに生産者が増えてバローロの町も復活したってわけ。
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編集長
栽培農家の独立やバローロの再注目にも一役買っていたんですね。バローロボーイズの登場はバローロのワインと町、両方の変革を後押ししたんですね。それで、新しい機運が生まれたんですか?
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別所正浩
そう単純な話でもなくて、古くからの伝統生産者から見たらおもしろくない。だからマーケットがモダンと伝統で対立構造を持たせて、バローロボーイズを悪者に仕立てたんだよね。
「バリックでワインを造って本当に熟成するのか」みたいな。伝統とモダンの代表格であるバルトロ・マスカレッロとエリオ・アルターレは仲が悪いと言われたり。
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編集長
すんなりとは行かなかったと。
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別所正浩
有名な話があって、バルトロが「こんな悪魔みたいな機械を入れやがって」と言ったら、エリオが「お前、金ないだけだろう」って返した。
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編集長
それってむしろ仲良いですよね。憎まれ口を叩き合ってるだけで(笑)
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別所正浩
そもそもどっちが良い悪いじゃなくて、表現の違いなんだよね。ワインの中身、ブドウを大事にする気持ちはどちらも一緒なんだよ。バローロボーイズのワインは樽が効いてるだけじゃなくて、中身もしっかりしてた。だから表面的にバローロボーイズのやり方を真似して、消えた生産者もいっぱいいたの。
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編集長
バローロボーイズは、摘房して収量制限する栽培方法も導入したんですよね。よりよいバローロを造ろうとしてたのがわかります。
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別所正浩
あとは時代もある。当時は世界的にも濃くてわかりやすく樽の効いたワインがもてはやされた。ブルゴーニュではドミニク・ローランが新樽200%を打ち出してたし、フィリップ・ルクレールやミッシェル・グロもピノ・ノワールと思えないくらい濃かった。
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編集長
別所さんもその時期はオーストラリアワインとかニューワールドがお気に入りだったとおっしゃってました。
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別所正浩
そう。で、ドメニコ・クレリコのパヤナを飲んで、初めてバローロがうまいと思った。ただ、ドメニコ・クレリコにしても徐々に樽の使い方を変えてきているからね。
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編集長
醸造方法はどんどん変えているんですか?
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別所正浩
だって、やり直しがきかないわけじゃないでしょ。何を選択するかは変えてもいい。みんなその時々でベストだと思うことをやっている。つまり、この時期は生産者の成長段階だったんだよね。
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編集長
伝統とかモダンとか言いますけど、スタイルに固執してるわけじゃないんですね。バリックなど手段はあくまで試行錯誤の1つだと。
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別所正浩
生産者の経験も蓄積されてるしね。
何より大きいのは気候の変動。80年代や90年代のバローロと今のバローロではアルコール度数が2、3度違う。そうなったら別物だから。ブドウの糖度が変われば造り方も変えなきゃいけない。バランスの取り方が変わってきているという話。
実際、伝統もモダンもタンニンが洗練されてきているから、ブラインドで飲んでわからないことだって多々あるよ。
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編集長
今は生産者のスタイルを意識する必要もないんですね。ところでドメニコ・クレリコはどんな人なんですか?
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別所正浩
2016年に来日した時にうちにも寄ってくれて。そこにサインがあるでしょ。(資料の雑誌を見て)ここにある通り、酒と煙草を愛してた。いつも煙草を吸ってて、ヘビースモーカーだったね。
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編集長
渋くて味のある方ですね。
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別所正浩
クレリコは、栽培農家の息子だったんだけど1代でワイナリーを築いて、2011年にモンフォルテ・ダルバに大きくてきれいなワイナリーを建てたんだ。
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編集長
(雑誌を指して)これですね。
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別所正浩
そうそう。来日したときに「何で建てたの?」って聞いたら、「1代でここまで築いたっていうのを若者に示したかった」と。アメリカンドリームならぬバローロドリームだよね。でも、2017年に亡くなっちゃったの。うちに来てくれたのも、一度きりになっちゃったね。ただ、ワイナリーは親族によって存続することが決まっているんだ。

「ピエモンテの隠れた宝石」とは?

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別所正浩
次のバローロは、「フラテッリ・アレッサンドリア」。バローロには11の村があるけど、ここは生産者の少ないヴェルドゥーノという小さな村のバローロ。「ピエモンテの隠れた宝石」と呼んでるの。
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編集長
とても軽やかですね。羽衣がなびいていくような広がりを感じますけど、ちゃんと果実味の芯があって、そこから炎が燃えているような。香りも華やかですね。タンニンの渋みなんて感じないくらいエレガント。すごい表現力ですね。
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別所正浩
さっきのドメニコ・クレリコはバローロで一番南にあるんだけど、ヴェルドゥーノは一番北。普通に考えると北の方が寒いんだけど、バローロの場合は逆。南の方が寒くてワインは力強く、北の方が暖かくて優しいタイプになるの。
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編集長
造り方は伝統派なんですか?
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別所正浩
そう、昔から大樽を使っている生産者。やっぱり歴史があるから、使い方が熟練されているね。
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編集長
はい、タンニンをさほど感じません。ただ、別所さんがおっしゃってた通り、伝統とモダンで味が違うのはわかりますけど、ものすごく違うってことはないですね。
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別所正浩
そうでしょ。どの生産者もタンニンのコントロールはすごく上手になっていると思う。
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編集長
フラテッリ・アレッサンドリアの生産者はどんな人なんですか
中央が当主のヴィットーレ氏
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別所正浩
2013年3月にワイナリーを訪ねたんだけど、当主のヴィットーレがバローロから片道3時間かけてミラノの空港まで迎えにきてくれたの。そのまま僕らを乗せてアルバまで戻るから往復6時間運転しっぱなし。
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編集長
当主、自らが運転を。親切な方なんですね。
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別所正浩
その日は遅かったから翌日にワイナリー見学の予定だったんだけど、僕たちがガヤにも行くと言ったら、ヴィットーレも「行ったことがないから一緒に行きたい」と。歴史的にいうとフラテッリ・アレッサンドリアの方が古いんだけど、そういうの抜きにして勉強熱心だよね。
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編集長
老舗の伝統にあぐらをかかず、実直な人なんですね。
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別所正浩
どの生産者にも共通しているのは、みんな農夫だってこと。それぞれの表現だったり畑の違いはあるけど、どれも手づくり感がある。決して大量なプロダクトではない。優良な生産者は、栽培に農薬や化学肥料なんて使っている人はいないし。有機栽培を実践してる人もいるけど、あまり声高に言わないんだよね。
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編集長
ソムリエ教本によると、ピエモンテ人の気質は「非常に控えめだが、よく知ると親切。真面目な働き者が多い。伝統を重んじて頑固なところもある。ロンバルディアとともにジャーナリズムや政治運動などをリードしてきた州でもある」とあります。
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別所正浩
そうだね。味わいを頑固に追求するイメージもある。政治と言ったら伝統派のバルトロ・マスカレッロがワインのラベルに「NO バリック、NO ベルルスコーニ」って書いてたこともあるんだよ。
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編集長
ファンキーですね!

伝統派が造るバリック熟成のバローロ

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別所正浩
次は「ルイジ・エイナウディ」のバローロを飲んでみよう。これはイタリア戦後初の大統領が始めたワイナリー。伝統派の生産者だけど、バリックを使っているの。
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編集長
しっかりとした果実の凝縮感があります。パウダリーなタンニンの存在感はありますが硬い印象はないです。
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別所正浩
バリックを使っているものの方が親しみやすくなるよね。酸素に触れる割合が高い分、まろやかさが出る。
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編集長
伝統生産者でもこういうスタイルもあるんですね。
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別所正浩
もはや伝統とモダンの垣根はなくなっているんだよね。伝統生産者がバリックを使ったり、モダンの生産者がマセラシオンを長期間にしたり。ワイナリーのブドウの状態や表現したい方向でどんどん変えているの。
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編集長
それにバリックといっても樽をすごく感じるわけじゃないんですね?
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別所正浩
そう。バリックの使い方が上手になっているよね。バローロボーイズの時代は抽出を強くして、新樽100%で熟成させていたんだけど、今はエリオ・アルターレにしても新樽の比率を変えたりしている。モダンだろうが伝統だろうが味が穏やかになって、攻撃するような造りにはなっていないの。
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編集長
このワインにしても果実味と同時に透明感もあります。時間がたってくるとタンニンもさほど気にならなくなりました。
ところで、バローロというと、買ってもすぐ飲んじゃダメなイメージがあります。そのあたりはどうですか?
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別所正浩
いま、3本飲んでみたけど、みんな今飲んでもおいしかったでしょ?
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編集長
そうなんです。すぐ飲んでもおいしいのは発見でした。
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別所正浩
もちろん寝かせるとそれだけ良さも出るけど、何も寝かせる前提で買わなくてもいいんだよ。
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編集長
飲みたいときに買う、ですね!

ヴィーニャ・リオンダで知る、クリュの実力

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別所正浩
最後はこれ。「ルイジ・ピラ」のヴィーニャ・リオンダというクリュのバローロ。
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編集長
これまではいろんな畑のワインが入ったバローロでしたが、単一畑のキュヴェですね。これを選んだのはどうしてですか?
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別所正浩
去年11月に2016年のバローロがリリースされた後、ソムリエやジャーナリストの業界仲間を集めて飲み比べをやったの。
ドメニコ・クレリコのパヤナとかエリオ・アルターレのカンヌビとか選りすぐりを集めて。ブラインドで飲んで「今飲んでおいしいもの」「今後評価が上がるもの」をそれぞれがあげて、僕が今飲んでおいしいものにあげたのが、このバローロだったの。
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編集長
香りがすごくいいですね。牧草や蒸れたような温かみがあって。きのこっぽさやダシの雰囲気も出ています。味の肉づきもよくて素晴らしくおいしいですね!
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別所正浩
おいしいって言ったじゃん(笑)
2016年はいい年なのよ。ネッビオーロらしいタンニンもあるけどすごくきれい。
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編集長
恐れ入りました。バローロはクリュを掲げるのも特徴ですよね?
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別所正浩
ヴィーニャ・リオンダは、ブルゴーニュでいえばグランクリュのような畑。しっかりと畑の良さが出ている。クリュごとの違いを楽しめるようになったら上級者だね。
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編集長
時間が経つと変化してきますね。スミレやドライなバラの香りで女性的な華やかさも出てきました。さらに今はミネラル感が出てきて鋭角的な雰囲気もあって。10分ごとに変化を堪能させてくれる妖艶さがあります。
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別所正浩
時間が経って変化を楽しめるのもいいワインの証だよね。
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編集長
バローロって「王のワイン、ワインの王」とか言いますけど、香りも花のように軽やかで、ボディにも透明感があって、全然重たさがないですよね。たくましいと言われるようなものもそこまで男性的に思えません。
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別所正浩
そう、僕はピノ・ワールに近いと思ってる。バローロは本来、ブルゴーニュグラスで飲んだ方がいいよね。だいたいバローロをフルボディのワインっていうけど、絶対フルボディじゃない!これだけは書いておいて!!
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編集長
色の薄さからしてもそうですよね。
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別所正浩
モダンバローロ にしても年月が経てばタンニンが柔らかくなるし、果実の甘みが増して酸も落ち着いてくる
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編集長
今回、バローロを飲んでみて、誤解があったと思いました。今飲んでもおいしいし、果実味があってタンニンは柔らかい。透明感があって酸がきれいなのも印象的でした。
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別所正浩
ただジューシーでわかりやすくキャッチーな味ではないよね。イタリアワインらしい酸はあるし、決して初心者向けのワインではない。でも、奥深いワインの世界に気づいた人なら、その良さが感じられると思うよ。
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編集長
そうかもしれないですね。それに、生産者の人柄やバローロボーイズからの流れも理解できました。バローロの人たちは社交的ではないかもしれないけど、気骨があっていいものを造ろうとしている。別所さんがピエモンテ好きなのがわかるような気がしました。
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別所正浩
イタリアの中でもピエモンテは好き。うちの棚を見てもらったらわかると思うけど。
*注:店内のイタリア売場の3分の1はピエモンテです。
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編集長
では、バローロの買い方もぜひ教えてください。
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別所正浩
おう!Con piacere!!(伊:よろこんで)

第1回 王のワイン・バローロを知るための基礎知識
第3回 イタリアワイン親父に聞く!バローロの買い方Q&A
第4回 イタリアワイン親父おすすめ!バローロを代表する生産者5選

教えてくれたのは・・・
ラ・カンティーナ・ベッショ
東京都渋谷区神宮前2-25-5
03-3401-1991
月~金15:00〜21:00、土13:00~20:00  日祝休(祝日は臨時営業あり)
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この記事を書いた人

編集長のアバター 編集長 ライター/ワインエキスパート

東京に暮らす40代のライター/ワインエキスパート。
雑誌や書籍、Webメディアを中心に執筆中です。さまざまなジャンルの記事を執筆していますが、食にまつわる仕事が多く、ワインの連載や記事執筆、広告制作も行っています。東京ワインショップガイドは2017年から運営をスタートしました。

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